「あれは、一ヶ月前のことでした。祖父が私の母に話があるからこちらに来るようにと知らせをよこしたんです。」 混乱する三人に、エレンはゆっくりと語りだした。 「エレンさんはここの方ではないということですの?」 「ええ。母は商人である父の元へと嫁いでおりますから。私の家はアレフガルドにあるんです。祖父はこの町にいながら 絹織り物で財を納め、この村の地主のような存在でした。財産も莫大で…。母はそんな家に育ったものですから、 贅沢が好きで、父に無駄遣いを怒られてばかりで…恥ずかしい話ですけれど、お小遣いをねだるんだと 母は嬉々としてこちらに来たんです。」 それは良く聞く話だった。妻の無駄遣いで身代が傾いた貴族の話は、日常茶飯事だった。エレンは顔を暗くする。 「母は祖父の部屋に呼ばれて、何か話を聞いたようですが、私にはよくわかりません。 …、二日後…昨日のことです。祖父の心臓がナイフで一突きにされ…祖父は殺されました。 そして、その犯人はジャックだと言われて…。でも、犯人はジャックじゃありません!」 三人の顔を突き刺すように見つめるエレン。それを諭すように、リィンが言った。 「…どうして、ジャックさんじゃないとおっしゃいますの?」 「つーか、ジャックって誰だ?」 レオンの言葉に、エレンは少しはにかんだ。 「祖父の家の使用人です。…小さな頃に両親を失い、祖父が引き取っていたそうなのです。あの館の全権を 任された、優しく真面目な方ですわ。老いた祖父の面倒もジャックと、メイドのメアリがほとんど見ていたそうです。 特にジャックは献身的に祖父の側にいて、祖父もジャックのことを実の子供のように想っていたそうなのです。」 「まぁ…それではおじい様と家族同然でしたのね…?」 「はい、私たちなんかより、きっとよっぼど… あの人はそんなことする人じゃあありません!祖父のことを本当に愛していましたし、優しい、いい人なんです… それにそれに、動機がありません!絶対おかしいんです!!」 「ならそういえばいいんじゃないのか?なんで俺たちに頼むんだ?」 レオンのもっともな言葉に、エレンはうつむいた。 「…状況からすると、祖父を刺すことができたのは、確かにジャックだけだとゼキさんが…」 「ゼキさんって、誰?」 ルーンの言葉に、エレンは少し誇らしげに笑う。 「私の大伯父に当たる人で、この村の知恵袋と呼ばれている魔法使いです。…魔力はそれほど強く ないと聞きますが、魔術の知識に長けていて…特に日常に役立つ呪文の研究をされている人なんです。 この前も、暗闇を照らす呪文を見せてくれて…」 「暗闇を照らす呪文って…もしかして、今は亡きレミーラ?…もしそれが真実だとすれば、素晴らしいわ…」 「私はそのあたり、良くわからないんですけど、とにかくとっても物知りで、良い人で…村の人たちも信頼しているんです。 その意見には私も賛成ですけど…」 「だから、そいつの言ったことに反対できないってことか?」 レオンの言葉に、エレンが頷く。 「はい。私がいくら言ったってゼキさんの決定を覆せるとは思えないんです。 皆ゼキさんを信頼してますから、私の言葉なんて信用してくれると思えないんです。 だからよそ者の方にお願いしたくて…」 「どうして、ジャックさんではないとおっしゃいますの?そういいきる根拠は、おありですの?」 「…それは…」 言葉を濁したエレンに、ルーンが優しく笑いかけた。 「ジャックさんが、好きだから?」 赤くなるエレンの横で、リィンとレオンがぽっかりと口を開ける。 「突然何を言い出すんだ?ルーン?」 「えー、だってエレンさんとジャックさんって恋人なんでしょう?」 「…どうしてそんなことが…?」 リィンの言葉に、ルーンが屈託なく答える。 「ジャックさんの紹介をした時、エレンさん、嬉しそうだったからー。」 「…はい、ジャックは私の恋人です。祖父に会うために何度はここに足を運んで、私のジャックは恋に落ちました。今回 私は呼ばれていなかったのですが、ジャックに会いたくて、母に無理言って連れて来てもらったんです。…なのに こんなことになるなんて…」 ぽろぽろと涙をこぼすエレン。レオンはさらに後ずさり、他人のふりをするかのように遠巻きに見守る。 リィンがいたわるように優しく尋ねた。 「…そのことは、他に誰かご存知ですの…?」 「ゼキさんだけは知っています。以前二人で会っているのを見つかってしまって…ゼキさんは優しく私たちを応援してくれて… 私たち、愛し合っていて、ゼキさんの協力でもうすぐ駆け落ちするはずだったんです。だから余計に… ジャックがそんなことをする理由がないんです…」 「ジャックさんはー今どこにいるの??」 ルーンの言葉に、涙の粒をこぼしながらエレンは答える。 「ここは、平和な村で牢屋なんてないから、って…絹織物をしまう倉庫に…一番祖父のことを愛していたジャックが、 葬式にも出られなんて…」 エレンの手が震えていた。それでも涙を拭き、もう一度三人を見据える。 「他の人に言っても、きっと誰も信じてくれない。でも、ジャックはきっと犯人じゃありません。どうか、 真犯人を探してください!!」 リィンが、おずおずと現実的なことを口にする。 「…エレンさんが恋人を信じたいと思う気持ちは尊いと思いますわ。ですが根拠もなく新しい犯人を捜して欲しいと 言われましても…」 「まぁ、確かにどうしようもねーよな。実際ジャックが犯人だって可能性もあるんだし。」 「そんな!!」 「せめて、ジャックさんのアリバイとかー、真犯人のめぼしがあればいいんだけどー?心当たり、ないー?」 ルーンの言葉に、エレンは重苦しい顔をした。長い、長い苦悩のあと、ゆっくりと口を開く。 「…私は、母だと思っています。」 「…どんな根拠があって?」 リィンの言葉に、か細い声で話す。 「…祖父の話を聞いた後…母はとてもいらいらしていたんです。ジャックにも当り散らしていて…」 「つまり動機があるということか?」 「それと同時に、…どこかこう、母がそわそわしていて……やましいことがあるような…そして、そのそわそわが、祖父が 亡くなったとたんになくなって…」 どうやら上手く言えないようで、エレンはもどもどしていた。 「それと、もう一つ気になることがあるんです。…私、見てしまって…」 「何をだ?」 「おとついの夜のことなんですけど…、母がメアリに何かを渡していたんです。なんだかこそこそしている様子で… その次の日、祖父は殺されました。何か関係あるような気がして…」 「そりゃ確かに怪しいなー。」 「…けれど、確かな証拠もなしに犯人呼ばわりすることはできなくてよ。それに、貴方のお母様にも動機と言うものは ないのではなくて?」 リィンの言葉に、首を振るエレン。 「…少なくとも、祖父の遺産がすぐ手に入ります。」 「そんなにお金に、困ってたの?」 「家自体は、父がしっかりしてますから、そうでもないと思うのですが…」 「贅沢がしたいってやつだな。…ったくこれだから女ってのは…」 レオンの言葉に、リィンが冷ややかな笑みを浮かべる。 「女性をひとくくりにして語るのはやめていただけませんこと?レオンに語られるほど女は単純ではなくてよ?」 「いえ、あの…少なくとも母は…宝飾品が大好きで、持ちきれないほどの指輪を持っているのに毎日 父にねだっていて…ここに来る前も断られて機嫌が悪かったですし…」 暗い表情でエレンはそう言った。 「つまりー」 その雰囲気をふっきるように、ルーンが場違いなほどにこやかな笑顔でまとめだす。 「おじいさんが殺されちゃって、その犯人はお母さんなんだけど恋人さんが犯人にされちゃったってこと?でー、 その誤解を解くための証拠を探して欲しいってことなのかな?」 「は、はい!そうなんです!どうか、どうかお願いします!!」 うるうると涙を浮かべてエレンがルーンの顔を覗き込む。 「んーんー、どうするー?レオンー?リィンー?」 「そうですわね…ここまで聞いて、見捨てるのは少し目覚めが悪い気がいたしますけれど…」 「けど俺たちにはしなけりゃならねーことがあるぜ?わりぃが自分でやれよ。」 冷たく言うレオンの言葉にエレンが泣き出した。 「そ、そんな…私、もうどうしたらいいか…わからないの…」 余りの泣き声に、根負けしたのはレオンだった。 「あー、悪かった、泣くな。…わかったよ!やるか!!」 「レオンがそういうならそうしようー。」 「まぁ、しかたありませんわね。とりあえずどうしたらいいのかしら?」 「んーとー、とりあえずー、現場の確認かなー?」 三人の言葉に顔を輝かせたエレンは、張り切って先導する。 「はい!祖父の部屋は掃除しないようにと言っております!どうぞこちらに!!」 |
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