楽しそうに人々が行き交う市場。子供があまりいないところを見ると、やはりここは生活の場ではなく 一時的に作られた市場と見るべきだろう。 (やっぱり幽霊にはみえんなぁ。……しかしなんか変ではあるんだよなぁ……。) ここに入るときも、何か妙な違和感があった。おそらくルーンやリィンも気がついているだろうが……。 (ともかく、誰かに話しかけてみるかな……。) きょろきょろと周りを見回し、会話の糸口を探しているうちに、レオンは町の外れまで来ていた。 「え、ええ旅人なんです。あの、ありがとうございました。」 少し困ったような女の声。そちらを見てみると、青い髪の女を、男三人が囲んでいた。男の一人が 布を持っていて、女はそれに手を伸ばすが、男はそれをさっとよける。 「なぁ、なぁ、なんて名前?」 「ねぇ、ちょっと付き合ってよ。」 「そうそう、付き合ってくれたら、この布返すぜ?」 「いえ、連れがいますから。ごめんなさい。」 「じゃー、布は返せねーな。ちょっとだけじゃん、来いよ!」 女は困ったように男を見上げている。こういうのをほっておけないのは自分の悪い癖なんだろうか、 と思いながら、レオンは女の腕をつかんで引き寄せようとする男の手をつかんですごんだ。 「女をいじめてんじゃねーよ。嫌がってんじゃねーか。」 レオンはそう言うが、柄の悪そうな男達がそれでとまるはずもない。 「んだよ、邪魔すんな!!」 そう怒鳴り返されるが、こんなチンピラは50人がかりでかかってこられても怖くもなんともない。 レオンはつかんだ腕を軽くひねり、布を持っていた男にすかさず蹴りを入れる。ふわりと女の物でであろう 布が地面にこぼれているのを見て、男たちを見上げながらレオンはすごむ。 「物を取って返さねーのは泥棒だろうが。違うか?」 そう言ってつかんでいた男をそのまま片手で投げた。男が飛ばされたのを見て、レオンは布を拾い上げ、女を見もせず 投げ渡す。 「持って下がってろ。」 どうやら女は素直に受け取り、少し後ろへと下がる。騒ぎもしないのがありがたい。先ほどの説得で聞いてくれれば、と言う レオンの願いは無視され、男達は殺気だった目でレオンを見ながらこぶしを握る。 (弱いものいじめはしたくないんだがな……。) 殴りかかってくる男を、レオンは動かずによけ、蹴りを入れるとそのまま吹っ飛ぶ。後ろから来た男の腕をつかみ、片手で ほおり投げる。そして横から来た男の足に蹴りを入れ、こけたところにもう一度蹴りつけた。 致命傷にならないように手加減したのが聞いたのだろう。男達はレオンに恐れ、 そのまま転がるように逃げていった。 「あ、あの、ありがとうございました。」 控えめに礼を言ってくる女を、レオンは始めて見て、目を丸くする。そこにいたのは、緑色の布をかぶった リィンだったからだ。 猛烈に恥ずかしくなる。その恥ずかしさを隠すように、レオンは頭を掻いた。 「……ってリィンじゃねーか。お前何してんだよ……?」 リィンは目を丸くするが、リィンなら手加減した呪文を一撃でも打てば男達はそれだけで逃げていくだろう。 「おまえなぁ、あんなやつくらい吹っ飛ばせるだろ?何やってんだ……ルーンとは会ったか?」 「えっと、あの……その、えっと、私はサーシャと言います。助かりました、本当にありがとうございます。」 躊躇うように、リィンはそう言って頭を下げる。そこで初めて髪が布から漏れ、その髪の色が青色で あることを見る。リィンの髪は間違いなく紫のはずなのだが。サーシャ、という名前にも心当たりがない。 それに話し方も違う。レオンは混乱しながらも、重ねて問いかけた。 「は?何言ってんだ?どうしたんだ、その髪。」 「えっと、良くは分かりませんが、私はリィンさんではありませんし、あなたのことも知らないんです。人違いかと 思うんですが……。」 よく見ると、服装も違う。雰囲気も目の色も違う。それでも、顔は本当に見れば見るほどそっくりで。別人などとは信じられない。 リィンと同じ顔の人間など、見たこともないし考えられないのだが。 それでも、リィンがこんなにとぼける理由もわからない。 「本当に、リィンじゃないのか?」 「ええ。ごめんなさい。」 「いやいい。俺はレオンっていう。わりぃな。知り合いに本気で似てたんだ。髪の色は違うけどな。」 恐縮しながら謝られ、レオンは少し照れる。別人だと言われても、やはりなんというかリィンに対峙している 感覚が抜けない。苦手だと思わない反面、リィンにこれほど丁寧に言われているようで、違和感があるのだ。 サーシャと名乗った女も、レオンの言葉に驚いたようだった。 「いえ、そんな……。でも驚きます。私に良く似た人なんて、聞いたことありませんし。」 「ああ、俺も正直信じられねー。一緒に来てるから会うかもな。サーシャと言ったか?ここの人間か?」 「いえ、旅人なんです。えっと、占い師に占ってもらおうと思って……。」 サーシャの言葉に、レオンは少しがっかりする。丁寧ではっきりした話し方だし、色々詳しそうに見えたのだ。だから この市場について、色々情報を仕入れようと思ったのだが……。 「そうか、良かったらちょっとこのあたりのこと教えてもらおうと思ったんだがな。」 レオンがそう言った時、レオンの後ろから剣呑な声が割り込んだ。 「そこの黒髪男、何、ダサいナンパしてやがる。」 日に透ける銀色の髪と白い肌。目は薄い茶色。自分と同じほどの背丈で、なかなかのハンサムだ。 そして、その一瞬の身のこなしから相当な……自分に匹敵、いや上回るほど達人であることを、レオンは 一瞬で察し、驚きながら言葉を返した。 「誰がナンパだって?!」 「……良くあるナンパの手口だよな。だっせーだろ。」 銀髪の男は、そういいながらサーシャと自分の間に割り込む。どう見てもご機嫌麗しくない その男は、おそらく自分がずっとナンパしてサーシャを困らせていたと心配しているのだろう。 そして、サーシャはその後ろで、少し困ったようにしている。だが、雰囲気がさきほどのナンパ男とは 違うことはレオンにも分かった。おそらく本当に知り合いなのだろう。 それでもあえて、レオンは煽る。その心は言葉と裏腹に躍っていた。 「うるせーな。勘違いしてんじゃねーよ。」 「悪いな、俺はこいつを迎えに来たんだ。あっち行ってくれるか?」 銀髪の男は、面倒くさげにレオンにそう言う。レオンはわざと怒ったようにこぶしを握った。 「ああ?なんだと?やるか?」 「そっちがそのつもりなら、仕方ないがな。」 銀髪の男は面倒くさげに、それでもまったく隙がない構えを見せる。そこに足りないものはなにもない。おそらく この男の真の凶器はこの手であり、足であるとわかった。 これは分が悪い。しかし剣での勝負は卑怯だろうか。剣を抜けばなんとか五分まで持ち込めるかもしれないのだが。 そうレオンが考えたとき、サーシャが男の手を引き寄せた。 「もう、セイ、やめて。この人は私を助けてくれたのよ。私を助けようとしてくれたのは嬉しいけれど、ちょっと 落ち着いてくれる?」 「……ナンパじゃないのか?」 サーシャの止められ、セイ、と呼ばれた男はぽかん、とサーシャと自分をを見る。 「違うわよ。この人……レオンさんも言っていたでしょう?ナンパされていたのを助けてもらったの。レオンさん、 本当にごめんなさい。この人私の仲間で心配してくれたみたいなんです。」 一歩前に出てサーシャが自分に深く頭を下げると、その横でセイがあせって両手を合わせ、頭を下げた。 「悪かった。こいつに似てる人間がいるなんてちょっと信じられなかったもんだから……。」 セイの意見はこちらからしても完全に同意だ。直に見なければ、リィンそっくりの人間など、モンスターの仕業だと 思っただろう。 「……惜しかったな。」 レオンが素直にそう言うと、二人は目を丸くする。 「「はい?」」 「セイって言ったか?相当腕が立つだろう?手合わせしたかったんだが……しかしまぁ、素手じゃ負けそうだな。そっちが専門 っぽからな。いっぺん剣で手合わせしてくれないか?」 王座について、誰も本気で手合わせをしてくれなくなった。仮にしてくれたとしても、豪傑だらけのローレシアの兵士でも、 すでにレオン相手では力不足だ。ここのところ体がなまっていたので、強敵と戦ってみたかったのだが、失敗に 終わってしまった。 「いや、本当に悪かった。でもまぁ、面倒くさいのはちょっとごめんだな。」 セイはにっこりと笑う。その笑みは妙に人懐っこく感じさせられ、またなかなかに善良な人物であると察せられた。 「そうか。残念だ。」 レオンがそう言ったとき、前方から爆音が響く。それは何度も聞いたことがある音だった。誰でもない、 リィンのイオナズンだ。つまり、何かあったのだ。思わず叫ぶ。 「リィン!!」 「「リュシア?!」か?!」 前の二人もそう叫んで、三人は同時に音の方へと走り出す。やがて向こう側から人々が走ってきた。 「モンスターが出たぞ!皆逃げろ!!」 口々にそういいながら、外へと避難していく。レオンは逃げてくる人々をすり抜けながら更に足を速めると、 セイとサーシャも同じように足を速めていた。思わず話しかける。 「逃げた方がいいんじゃないのか?」 「こっちに仲間がいるし、多分あの爆音はその仲間がしたやつだ。そっちこそいいのかよ?」 そう言われ、レオンは目を丸くした。あれは攻撃魔法の中でも扱うのは難しく、いまやリィンくらいしか 使える人間はいないだろうと言うような呪文だと聞いている。なのにセイは自分の仲間がやったと言うのだ。 「へ?いや、あれは多分、俺の仲間……そっくりだと言った、リィンの呪文だと思うんだが……まぁ、セイはいいとしてもだ、 サーシャは逃げた方がいいんじゃないのか?」 リィンと同じ顔をしているのでつい忘れそうになるが、サーシャは女性だ。荒事には向いていないだろう。 だがサーシャは少しくすぐったそうに笑った。 「ありがとう。でももしそこにいるのが私の仲間なら、それを助けるのは私の使命だし、そうじゃなくても モンスターに襲われているのをほってはおけないわ。」 その言葉に、正しい仲間の絆を見せられて、セイもそれに同意している態度を見て、レオンは何も言わないことにした。 やがて広場に着くと、中央にある大きな天幕の天井が破けているのが見える。 「あれだな。」 「あれ、なんだ?」 思わず尋ねると、セイはあっさりと答えてくれた。 「なんでも評判の占い師の天幕って話しだがな。」 そう言うと、セイは目でレオンとサーシャに合図を送ってから、ゆっくりと天幕に入っていき、二人でその後に続いた。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||