巡る星の行く末

 エドガンを師事するあまり、王立研究院を出てきたオーリンが、エドガンに弟子入り してから、生活はますますにぎやかになっていった。オーリンとバルザックも上手くやっていき、 姉妹も踊りと占いの腕をますます上げていった。
 ミネアはあの占いを誰にも言うことはなかった。自分の占いが外れることも今までなかったわけではない。 まして雑念が入っていたのだ。もしかしたらそれは、姉に対する自分の嫉妬心かも知れない、と言い聞かせた。 なにより、自分には今、人のことをかまっていられなくなっていた。
 あの恐怖心も忘れさせてくれた存在、オーリンの事だ。どうかなりたいわけでもない。 ただ側にいたい。よりすばらしく見られたい。

 時がたち、3年がすぎた。二人は16になっていた。
 二人は輝きを増していった。年頃になってきただけではない、恋する人間の美しさ。
 そのころ、マーニャはあることに気がついていた。みんなの様子がおかしいのだ。 父の研究のことだろうか?姉妹は研究には一切携わっていなかったが、錬金術師の夢、 賢者の石の理念、不老不死を目標にしていたことはなんとなく知っていた。バルザックは言った。
「魔法の力に頼らなくとも、人間には自然に治癒していく力がある。それを強めることはできないだろうか。 つよく、誰よりも強く、私はなりたいのだ。」
目を輝かせながら語るバルザックをマーニャはかっこいいと思った。
(やっぱりあたし、ファザコンなのかもしれないわね。父親とそっくりな人、好きになるんだもの)
 そういえば昔は父親のお嫁さんになると泣いたものだ。そんなことを思い出しながら話を聞いていたが、 最近何かがおかしい。
 父がなにかおどおどするようになった。何かにびくびくおびえているようである。 あの父が何か間違ったことをするとは思えない。だが、何かがおかしい。ミネアもこっそりマーニャに 相談してきた。
 バルザックが、自分の研究を隠しがちになった。エドガンにもだ。聞かれても、あいまいに ぼかし、何とかごまかそうとするようになった。そして最近、よくキングレオ城の王子と話しているらしい。仲が良い。 最近良くいなくなり、マーニャは不安になったのだ。もしかしたら、恋人が出来たのかもしれない。 そうなったら笑顔で祝ってあげられるだろうか。
(このマーニャ様が泣くわけにはいかないわ)
そう思いながら、夜、外を眺めていると、地下にいるはずのバルザックが外出するのを見た。とっさにつけてしまった。 バルザックは城に入った。そして色仕掛けで兵士を落とし、中に入ると王子の部屋に入るのを目撃した。ちょっとだけ 聞き耳を立てたが、錬金術やバイオテクノロジー関することで、マーニャにはまったく判らなかったので帰ってきた。
(少なくとも艶のある話じゃなさそうね、でもなんで隠れてこそこそしてるのかしら。最近魔物も 出て、危ないっていうのに)
 マーニャは失敗したのだ。あと少し、判らなくても話を聞くべきだったのだ。そうすれば、 あの悲劇を回避できたかもしれなかったのだ。

 バルザックはどんどんおかしくなっていった。気がついたのはマーニャだけだろう。ずっと見ていたから。 歩き方が乱暴になったとか、ささやかなことだったけれど。ずっと見てたから、判る。 それでもバルザックが自分を見る目がすごく優しくて、ついつい、見逃してしまった。 バルザックの全てが好きだとマーニャは思う。錬金術に傾ける情熱も、広い背中も、大きい手も。 呼んで欲しい、これからも、その低い声で。
「マーニャ」と。
(それだけでいい、そうしたらあたしは踊れる。バルザックのために、何時までだって)


 ミネアはとても不安だった。この間から父の様子がおかしい。それを見るたびに、何か不吉な 予感がするのだ。占おうと何度も思った。でもできなかった。あの時の占いと同じ感じがして、怖くて 占えなかった。姉にも聞いてみた。が、姉にもよくわからないようだった。
(今はこんなに幸せなのに。どうしてこんなに不安になるんだろう)
 オーリンは最近、困った顔をすることが多くなった。声をかけると優しそうに微笑んではくれるけれど、 何か考え込むことが多くなった。
(どうしたんだろう、なにがあったんだろう、話してくれればいいのに。私ってそんなに頼れないかしら)
そう思うけれど、何も言えなかった。自分とオーリンの距離はまだ「ミネア様」だから。
(私はまだ、姉さんみたいに名前で呼んで、なんていえないわ。もっと昔に逢ってればよかった。姉さんと バルザックみたいに。それなら名前で呼んでもらえたかもしれないのに)
 でも、とミネアは思う。自分はそんな律儀なオーリンが好きなのだと。 一度だけ勇気を出して、普通に話したら?と聞いたとき、
「兄弟子にも及ばない私が、皆様を呼び捨てになんかできません。 いつか…そうですね、いつか一人前になったら呼ばせていただきます」
と、堅苦しく答えたオーリンが、ミネアは好きだった。
いつか呼んでくれるだろうか。あの暖かい声で、温かい笑顔で。
「ミネア」と
(何時までだって待っていられるわ、オーリンを。)


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