初花のバレンタイン



「ねえ、ミネアさん。チョコレートってどうやって作るの?」
 昼休み。一番乗りしていたミネアに、アリーナがこっそりとつぶやいた。
「え?チョコレートですか?」
「うん、ミネアさんも作るのよね?…どうやるのかなって。」
 その言葉に、ミネアが破顔した。
「クリフトさんに、ですか?」
「うん…いつもあげてなかったんだけど…今回は、って…」
 顔を赤くして言うアリーナ。最近くっついたばかりの二人。ミネアはそれを全力で応援したから、 ほほえましい二人に胸が暖かくなった。
「クリフトがなんだって?」
 気がつくと、マーニャが隣りに居た。
「あ、マーニャさん。うん…クリフトにチョコレート…毎年あげてなかったんだけど、今年は…って」
「あんた、あげてなかったんだ。意外ね。」
「たくさん貰うから、いらないと思って。昔聞いたことがあるんだけど、『それよりこれを食べるのを手伝って くれませんか』って、なんでか市販品だけ貰ってたわ。手作りはくれなかったけど。だから…私も手作りにしようかなって…」
 声が割り込む。
「それは…アリーナさんを思いやってらっしゃったんですね。手作りは何が混ぜられるかわかりませんからね。」
 横にシンシアが居た。
「あら?ラグさんは?」
「今日はラグ、日直なんです。先生にプリントを回収するようにって。」
 シンシアがくすくすと笑った。
「でも、そう考えるとたいへんかも…クリフト、たくさんチョコレート貰うし、チョコレートじゃない方が いいのかしら…」
「あたしなんか、毎年胃腸薬上げてたわよ、義理で。」
「…結構、喜ばれてましたよね…」
 マーニャの言葉に、皆が笑った。シンシアがアリーナに安心させるように言う。
「でも、今年は受け取らないかもしれませんね?アリーナさんという婚約者がいらっしゃるんですし。だから、 気にしなくてもいいんじゃありません?」
「そうかな…」
「私も作りますし、せっかくですから、アリーナさんも一緒に作りますか?シンシアさんもよろしければ。」
「いいんですか?」
「ほんと?」
 二人が笑う。ミネアも嬉しそうだった。そこにマーニャが割り込む。
「そういえば、今年はクリフトとラグに義理チョコって渡す?どうする?」
「渡そうと思ってましたけど…これだけの人数でしたら、まとめて渡したほうがよろしいかもしれませんわね…」
「でも、クリフト先輩も、ラグも、きっと凄くチョコレート、貰うんでしょうね…」
 シンシアがため息をつく。
「じゃあ、何か、学校であげられないようなものを、あげられないかな…」
 アリーナの言葉に、ミネアが何かひらめいたようだった。
「じゃあ、皆でチョコ・パーティーにしましょうか。…今年のバレンタインは楽しそうですわね。」


 パーティーは11日だった。午後3時から、と約束をした。だが、女性陣は午前中に集まり、台所で奮闘していた。
 場所は、エドガン邸。アリーナのうちではないのは、アリーナの家の厨房は、ミネア達には太刀打ちできないくらい、 すごいものだからに他ならない。
「ねえ、なんだか焦げ臭いわ。」
「あ、駄目です、チョコレートは湯煎するんですよ、アリーナさん!」
「ティースプーンでいいわよね。うん、だいたいこれくらいよね。」
「姉さん!ちゃんと計ってよ!料理と違ってお菓子は繊細なのよ?」
 比較的料理ができるミネアとシンシアが、ほとんど教師となって、二人にチョコ作りを教えていた。もちろん自分達の 本命チョコは忘れない。
「でも、マーニャさん。マーニャさんは誰に送るの?」
 アリーナの言葉に、マーニャはしばし考える。それは、誰に送るかではなく、どう言い含めようかだったが、他のメンバーはそれに 気がつかない。
「そうね…考えてなかったわ。でも、そうね。バルザックのあの事件の時、ライアン先生にお世話になった割にお礼してなかった わよね?ミネア。」
「え、ええ。そう言えば…」
「だから、お礼代わりにあげる事にするわ。世話になったし、あの先生なら変に舞い上がったりしないと思うし。」
「そうね、それはいい考えだと思うわよ。姉さんも時にはいい事言うわよね。」
「…なんか失礼ね。」
「ねえ、ミネアさん、これ、どのくらい入れるの?」
 生クリームを抱えたアリーナに、ミネアが急いで指示を出す。
「駄目ですよ、ちゃんとカップで測ってください。」
「ミネア先輩、私、あとは焼くだけなので、チョコ・フォンデュにかかりますね。」
「あ、シンシアさん、お願いします。」
「チョコ・フォンデュってなんなの?」
 アリーナが首をかしげる。ミネアが答える。
「チョコ・フォンデュっていうのは、チーズ・フォンデュのチョコバージョンで、解けたチョコに果物をくぐらせて食べるんです。 これなら絶対に、学校には持っていけませんから。」
「へえ、おいしそうね。」
 楽しげに言うアリーナにマーニャが笑う。
「あたし達も食べたらいいわよ。ね、ミネア。」
「そうですね、皆で食べた方が楽しいですから。」
 てけてけと準備する台所は平和で楽しかった。バレンタインで盛り上がれるのは、女の子の特権。
「あ、ミネアさんの分、焼きあがりましたよ。冷ましながらラッピングの準備されたらいかがです?」
「あ、じゃあ、あたし次焼いてもいい?」
「あ、駄目です、マーニャ先輩。温度ちゃんと調整してからじゃないと。」
「あ、ミネアさんのラッピング、綺麗ね…」
「ええ、リボンと箱の色をモノトーンで合わせてみたんです。」
 台所できゃあきゃあと楽しそうにチョコ作りをする四人は、まったく正しい『女の子』たちだった。




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