促されるまま、四人は外に出る。切り裂くような寒さの空から、ゆっくりと雪が降り積もる。
 じっと顔を凝視した。・・・かつて、この手で切り裂いた…フェオそのままだった。
「…フェオ…」
「クルス…君まで…」
 かつてレオン自身で切り裂いたはずの人間がこちらを見ていた。
「フェオ…こんな、ところで会えるなんて…な…」
「…本当に…まさか…君たちがこんなところまで来るなんて…」
 フェオは顔を覆う。
「自分は逃げてきてしまった…。リィンやクルスが辛い思いをすると分かっていたのに…逃げてきてしまったんだ… 君たちに合わせる顔なんてないよ…」
 正直なところ、リィンは平静でなど居られなかかった。泣いて泣いて…決別をした相手が、突然目の前に現れたのだ。 混乱のきわみでしかない。
 …それでも、不思議とすぐに落ち着いた。一度しっかりと深呼吸をする。見てもらいたかった自分を、 ちゃんと見てもらうために。
「また、お逃げになるの?お兄様?」

 リィンはじっとフェオの顔を見つめた。
「お逃げになったのは、お兄様の罪ですわ。わたくしはお兄様にとって、 罪の証かもしれない。ですが…ここのルビス様は罪から逃げよとおっしゃっているのですか?」
 何者にも負けない強い目で、リィンはフェオを見つめた。…ずっとできなかったこと。今ならばできる。…今の リィンは旅に出る前と違い…自らの道を見据えた人間なのだから。
 フェオは微笑んだ。
「…強くなったね、リィン。」
「ええ。リィンはあの頃の子供のままではありません。わたくしにも、お兄様と同じく、大切なものがありますわ。 ですから…わたくしは強くなったのですわ。」
「そうか…大きくなったんだね、リィン。」
「ですから、お兄様、逃げないで下さい。お兄様を連れ戻しに来たわけではございませんもの。… 国は、わたくしが継ぎます。あなたとは違った形で、世界を平穏を作り出しますわ。」
「…ごめんな…リィン。」
 そう謝るフェオに、リィンはその頬を優しくたたく。
「どうしてお謝りになるの?わたくしが選んだ道です。それを不幸などとは思わないで下さいませ。…お兄様、わたくしは 幸せでございましてよ…?お兄様も信念を持って選んだ道ならば、それをわびるのは迷惑を 被った者に対して無礼ですわ。」
 きっぱりと言い放つリィンに、フェオが微笑む。
「リィン…ありがとう…」


 そう笑うフェオを見て落ち着いたのか、レオンがようやく口を開いた。
「元気そうだな、フェオ。」
「クルス…怒っているかい?」
 レオンは首を振る。
「いいや。フェオらしいよ。なあ、フェオは…今幸せか?」
 多分、それが一番聞きたいことだった。
「この先…たとえば誰かと仲たがいして…世界を不幸に招く事になっても…俺たちの元を離れて出て行った事は、幸せな ことだったか?」
「それは謎かけかい?クルス?」
「そうだな…そう思ってくれて良いぜ。」
 レオンは笑って見せた。フェオも笑った。
「そうだね。幸せだよ。こういう生き方しかできない自分が…その希望通りの生き方ができている…それは幸せな ことだよ。」
「なら、いいぜ。許してやるよ。たとえこれからどんなことがあっても、俺がその 生き方を肯定してやるからさ。」
 ぽん、と背中をたたく。フェオはレオンの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ありがとう、クルス。元気でな。」


「こんばんは。良い夜ですね。」
 ルーンがにっこりと笑う。
「君はルーンかな?久しぶりだね?」
「そうですね…僕は…よく覚えていないですけど。リィンのお兄さんに会えて、僕も嬉しいです。」
 そう笑ってみせるルーンは一番の役者だった。
「ルーンは…クルスとリィンの友達になってくれているのかな?」
「はい…と。レオンは僕の大事な友達で…リィンは…」
 少しだけ顔を赤くして、それでもきっぱりと言った。
「僕の、一番大事な人です。」
「ルーン…」
 リィンの顔も赤くなった。レオンもなぜか照れているらしく、頬を書いている。
「リィンの?…恋人…なのかい?」
 リィンは真っ赤になりながらも、こっくりと頷いた。ルーンはしっかりと目を見据えた。
「…あなたがリィンを託したレオンじゃないけど…僕が、リィンを守ってもいいですか?」
 突然そう言われて、フェオは戸惑っているようだった。逆にリィンは感激のあまり、声も出せないで いる。
 こんな風に誰かにはっきりと宣言してくれた事は、今までなかったのだ。
「…困ったな…こうやって好き放題やっているのに、『リィンとの仲は認めない』なんて言えないしね」
 フェオは少し茶化すように、笑う。
「…えっと…駄目、ですか…?」
「リィンは、ルーンと居て幸せかい?」
「ええ、お兄様。二人で支え合う喜びを、わたくしはルーンと得る事ができましたわ。」
 その言葉に、フェオは破顔した。
「なら、何も言えないな。リィンが今、これほど幸せそうにしているのは、ルーンのおかげなんだろうから。 ありがとう、ルーン。これからも幸せにしてくれるかい?」
「うん、絶対約束するんだよ!」
 ルーンは大きく頷いて笑った。


「さて、冷えてきたね。そろそろ部屋に戻ろうか。ハーゴンたちも探していると思うから。」
「いや、俺たち、ちょっとだけ頭を冷やしてから帰るぜ。フェオ、先に戻ってくれるか?」
 レオンの言葉に、フェオは少し首をかしげて言った。
「そうかい、あんまり体を冷やしたら駄目だよ?」
「俺を誰だと思ってるんだよ。平気だぜ。」
 にやりと笑ったレオンの言葉に促され、フェオは建物の中へ戻るために身を翻した。それを、リィンが とめる。
「あ、お兄様!」
「なんだい?」
「…愛しておりますわ、お兄様。お幸せに。」
 リィンはにっこりと笑い、そう言った。フェオは一瞬照れたように笑い、そして手を上げて戻っていった。


「…レオン、もう戻らないつもりなのー?」
 レオンの気持ちを察していたのか、ルーンは確認するようにそう聞いた。」
「ああ…俺は…奇跡はここまでで十分だと思う。フェオが…また消える瞬間を見たら、今日の事が嘘になりそうだ。」
 レオンの言葉に、リィンは少し寂しそうな目で、建物を見つめた。
「そう、ですわね。奇跡は、もう終わりと言うわけですのね…」
「リィンは、それでいいの?」
 ルーンの呼びかけに、リィンは少し迷って頷いた。
「ええ、話はつきませんけれど、言いたい事は全て言ったつもりですわ。欲張ればキリがありませんもの。あ、でも。」
 少し小悪魔めいた表情のリィン。
「できればさっきほ台詞は、二人きりの時に言って欲しかったですわね。」
「悪かったな、お邪魔虫でよ。」
 レオンが即座に言い返す。
「あははー、ごめんね。ようやくここの場所が分かったから、二人を連れてきたかったんだよ。今日ならきっと、 ルビス様もハーゴンやフェオさんを許してくれるような気がしたから。なのに、まさかこんな奇跡が起こるなんてね。」
 ルーンの言葉に、リィンとレオンは同時に微笑んだ。
「さんきゅ、ルーン。今日、来て良かったぜ。」
「ありがとうございます。…わたくし、この聖誕祭を家族とすごすことができて…嬉しく思いますわ。」
 ルーンも二人に微笑みかけた。


 三人は教会に背を向けて歩き始めた。船に戻り船に帆を張る。
 そして月が海面に沈む一瞬についた時…教会の方向から美しい光が放たれ…小さな小さな光が空に上がっていくのが見えた。
 振り返ると、その光が流星のように大地に降り注ぐ。
 世界が作り変えられるその時に感謝しながら、三人は、この奇跡幻夜に祈りをささげた。



 珍しく書いてみた、クリスマス記念小説。
 この世界にクリスマスというのはなさそうなので、クリスマスっぽい行事を設定させていただきましたが、 まぁ、クリスマスだと思ってください。
 ルーンとリィンのラブストーリーにしようかどうしようか悩んだお話。ですが、やはり2は 三人であってこそだと思い、レオンにはお邪魔虫していただきました。
 蒼夢はキリスト教徒ではありませんが、幼稚園がカトリック系だったせいか、クリスマスには奇跡が起こる… なんていうのはなんとなく信じたくなってしまいますね。

 どうか皆様にも、クリスマスの奇跡が訪れますように。





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