〜 54.虹の雫 〜


 暗闇の中でもわずかな虹色の光を放つアクセサリーのようなもの、これこそがゾーマの島へ 渡る為のアイテムである「虹の雫」らしい。
 ルビスにもらった聖なる守りを持って、言われたとおりに聖なる祠にいったら、中にいた精霊の 力で太陽の石と雨雲の杖がこれに変化したのだから驚きだ。
「……太陽の石、お城に返さなくて大丈夫でしょうか……?」
「どうなのかしらね。……でもそんなことを考えている場合ではないわ。暁夜の日は、もう過ぎてしまった。 ごめんなさい、私が計算違いをしていたから……。」
 エリンの言葉にクレアが首を振る。
「いえ、そんな……それに今ならまだ追いつきますから。」


 ルビスを解放した後、四人はマイラの村に戻った。休息と、それから直しを頼んでいた剣を求めにだ。
 一晩宿屋で休息を取り、クサキチの店に行くとクサキチは美しく輝く刃の剣を差し出した。
「どうぞ、お受け取りください。カザヤ様。」
「ありがとう、でも僕には装備できないけどね。」
「あと、こちらも……。」
 そういってユリが持ってきたのは、立派な兜だった。少し小さいのは女性用だからだろうか。
「クレアさん、でしたね。直しておきました。どうぞお持ちください。」
 そういって手渡してくるのを、クレアは少し複雑な顔をして受け取った。
「ルビス様を解放なさったとの事、おめでとうございます。昨日は暁夜の日、きっとその日にここに いらしたのも神様の導きだったのでしょう。」
「……昨日が暁夜の日なの?」
 エリンがそういったクサキチに詰め寄る。
「え、ええ間違いありません。ここの村の長老もそう申しておりましたし……。」
 その言葉に、エリンは手帳を広げてなにやらぶつぶつと言い始めた。カザヤはそのエリンの肩を 導き、出口へと誘う。
「ありがとう、助かった。……元気でね。」


 店を出て、ルウトはクレアの持っている兜を見る。
「それ、ムオルのもらったオルデガさんの兜か?」
「はい、ぼろぼろだったから直して、お父さんに返そうと思ったんですけど……私のサイズに直されてしまったみたいですね。」
 クレアは少し困ったように笑って、兜をしまいこむ。そしてカザヤを見た。
「あの、カザヤ。その、クサキチさんたちにもう帰れなくなること、言わなくても良かったんですか?」
「ああ、そうか。でもいいと思うんだ。きっと二人とも帰る気ないと思うし。その覚悟を僕が揺るがしてしまいたくないんだ。」
「ごめんなさい、余計なこと言って。」
 クレアが言うと、カザヤは首を振る。
「そんなことないよ。それより、エリンねーちゃん、大丈夫?」
「……ごめんなさい、クレア。私、計算を間違えていたみたいだわ。こちらの周期を勘違いしていたみたい。」
 エリンは顔を曇らせる。クレアは首を振る。
「昨日が暁夜の日だということは、きっとまだ間に合うはずです。お父さんは強いですが一人でしょうし。急ぎましょう。」


 そうして四人はリムルダールの北の岬に立ち、虹の雫を空にかざす。その雫がゆっくりと光りだし、まさに虹の橋としか いえない美しい橋を作った。
「不思議ね、七色に光っているのに透き通っているわ。」
「本当ですね。ちょっと下が見えて怖いです。」
 エリンの横でクレアが覗き込んでそう言うと、ルウトがクレアを抱き上げた。
「る、ルウト、あのここでは危ないと、思うんですけど、あの……。」
 だが、ルウトは譲る気はないようだった。顔を赤くしているクレアの可愛さに苦笑して抱きしめる。
「これがオレの役目だからな。多分もうこんなこと最後だろうし、オレのわがままを聞いてくれ。」
 そう言われると、クレアは何も言えなくなり、顔を赤くしたまま、されるがまま虹の橋を運ばれる。
「……いいなー。」
 カザヤがそう言ってエリンを見ると、エリンはさっさと橋を進みだす。
「早く行くわよ、カザヤ。」
「うーん、ねえ、エリンねーちゃん。」
 僕もやっていい?と聞く前に、エリンが口を開く。
「……そういえば、ユリさんの代わりに生贄になったクレハさんという方はおいくつだったの?」
 妙なことを聞かれた、とカザヤは目を丸くする。
「僕の三つ上だったから……15だったかな?」
「生きていれば私と同じね。」
「そうだね。」
 カザヤは頷く。そして話がそらされたのかと思い、残念に思っていると。
「どうしてその方のことだけ、呼び捨てだったのかしらね?」
 くすりと笑って言われたエリンの言葉に、カザヤの顔は固まった。
「え、えっと、それは……。べ、別にそんなえっと……。」
「まぁ、私には関係のない話だけれどね?」
 エリンは笑う。いつもにこにこ、よく言えば泰然としているカザヤがこんなに焦っているのは初めて見る。
「えっと、別にエリンねーちゃんが思っているようなことじゃなくって、その……。」
 カザヤはしばらく焦ったように言葉を並べ、そして虹の橋が終わる前に、ぐいっとエリンの顔に迫る。目線が合った。
「でも、僕が生まれて初めて恋した人は、エリンねーちゃんだからね。」
 そうしてカザヤは背伸びをすると、エリンの頬に軽くキスをし、強引にエリンを抱き上げた。


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