力いっぱい振るったカザヤの拳が、石像の形をしたモンスターを叩き割った。 「ちゃちな仕掛けだな。」 ルウトは剣をしまいながらそう言うと、モンスターを倒し終えると閉まっていた扉が開く。 「でもルウト、お父さんはここを通らなかったのでしょうか?石のかけらもなかったように 思いますけれど。」 「律儀に直してんのか?」 ルウトの言葉に、エリンが苦笑しながら言葉を足す。 「どうなのかしら。別の入り口だったのかもしれないわね。さぁ、行きましょう。」 「うん、この先の玉座の裏側に秘密の階段があるとか言ってたよ。」 カザヤはそう言いながらも、なぜか周りをきょろきょろと見ている。 「どうかしたの?カザヤ?」 「うん……この城のどこかに、賢者の石っていうのがあるらしいんだ。」 カザヤの言葉に、エリンは目を丸くする。 「それは……確か回りの人間を回復させるアイテムね?」 「うん、あったらいいなって思って……。僕だけ回復できないからさ。」 そうこうしている内に、ルウトとクレアが隠し階段を見つけたらしい。 「おーい、こっちだぞー。」 「うん、ごめん!行こう、エリンねーちゃん。」 カザヤは手を伸ばす。これは手をつなごうと言っているのだろうかと少し考える。確かに階段は 足場が悪そうだが、カザヤの体重で、自分を支えられるかと考えると危うい。 だが、にこやかに笑うカザヤに、エリンはその手を差し出した。 当たり前のように、ルウトは足場の悪い階段をクレアの手を引いて降りる。 なんだかんだ言っても、ルウトのお姫様扱いは変わっていない。抱きかかえていないだけましというものだろうか。 「ルウト。」 「どうしたクレア?」 「……ありがとう。」 クレアはにっこりとそう言うと、その手を強く握り、そしてもう片方の手を壁に添えた。 そんな当たり前のことも、今までやっていなかったのだ。 「……オレは最後までクレアと共に生きる。忘れないで。」 「ええ。」 そうしてもしルウトが自分を守るために、転んでしまいそうになったら自分がそれを支えようと、そう思った。 「うっわぁ、ひどいね、これ。」 全体に敷き詰められた回転床。そして落とし穴。体と方向感覚を一時的に狂わす。足元の図案により法則があるので、ゆっくり 進む分には問題はないが、長時間足止めされることには変わりない。 「嫌がらせなのかしら。それともモンスターと戦わせて惑わせるつもりなのかしら。」 「父は……いないみたいですね……。」 クレアのつぶやきに、どうせなら、オルデガを足止めしておいてくれればいいのだが、ゾーマも気が利かないとエリンは少し場違いなことを考える。 「全体像が見えりゃ、少しは楽になるんだがな。急いでるんだ、行き当たりばったりだと落ちちまうかも知れねーし。」 「エリンねーちゃん、紙持ってる?あと書くもの。」 カザヤの言葉に、いつも持ち歩いているノートと、そして筆を渡す。それを受け取ると、カザヤはルウトに向き直った。 「ルウトにーちゃん、行くよ!」 そう言うが早いか、カザヤは助走もつけずにひょいっとルウトの肩に飛び乗った。ルウトは一瞬よろけたものの、なんとか踏ん張った。 「早くしてくれよー。」 「はいはい。」 そう言いながら、カザヤはさらさらと敷き詰められた回転床を書いていく。そうしてしばらく筆を走らせ、とん、と ルウトの肩を蹴って地面に降りた。 「多分あってると思うんだけど。わかるかな?」 「ええ、信用するわ。少し待って頂戴。」 エリンはカザヤから紙を受け取ると、ひたすら頭の中での経路を組み立て始めた。 「こちらから、まっすぐひたすら上を目指しましょう。多少遠回りでも混乱するよりは早く進めるはずよ。」 エリンの言葉に、三人は何も言わなかった。それが信じるということだと、三人はもう、知っていたのだ。 そこから先は順調だった。青く上品な色彩に彩られた廊下。それは迷路の様ではあったが、モンスターさえ出なければ 王城と間違えるほどでもあった。 そうして、四人がようやく三匹の六本腕の骸骨を倒した直後のことだった。 ”走って” 脳裏のその言葉に、カザヤは逆らわずに走り出す。 「カザヤ?どこに行くの?!!」 エリンの声がしたが、カザヤは答えなかった。今重要なのは声だ。 ”急いで” この声がなんなのかは、正確にはわからない。 けれどカザヤは経験から知っていた。その声から感じるものに逆らって、ろくな事はない、と。 階段を抜け扉を開き、そしてやがて音がして、初めてカザヤは声の意味に気がついた。 声はもはやあふれんばかりになっている。 ”助けて””あの人を””守って””死なさないで””急いで””手遅れになる” おそらくは、『あの人』に助けられた人々がカザヤに声をかけているのだ。 そしてあの人は今、この部屋のどこかで敵と戦っている。 高い金属音が響いていて、カザヤは全力で走り続ける。 やがて遠くに戦いの姿が見える。 蛇が集まったようなモンスターと、血みどろになって戦う男。 そのモンスターの姿を見て、自分の中にある血がかっと燃えるのを感じた。 最後の理性で、カザヤはおそらく後ろに着いてきてくれているであろう仲間たちに叫ぶ。 「回復を!!」 それだけできっと伝わるだろうと、信じて。 そうして目の前に現れた、憎い、もっとも憎いモンスターにそっくりなモンスター目掛けて、カザヤは蹴りを入れた。 |
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