突然走り出したカザヤを、三人は追いかける。 「先行するとあぶねーって……。」 ルウトは呆れながらもそうつぶやく。だが止めようとはしない。おそらくルウトは自分には わからない何かを感じたのだろう。 横ではクレアが暗い顔をしながら走っている。おそらく父がらみ……父の声でも聞いたのかと 思ったんだろう。 ルウトは走りながらも、クレアの頭を優しく撫でた。 「死んでるなら急ぐ必要はないだろ。」 クレアは小さく頷く。 「大丈夫だ、オレが付いてる。」 「……っはい。」 クレアはにっこりと笑う。その笑顔に確かに信頼を感じルウトはクレアを抱きしめたくなったが、ぐっと我慢した。 「回復を!!」 遠くから声がする。カザヤの声だ。 「私が。」 エリンがそう言って、足を速める。二人もその後に続いた。 カザヤが蹴り上げたすぐ後ろに、男がいた。 正確には襲われそうになっているところを割り込んだ形になったその男は、すでに地にへたり込んでいる。 モンスターに破かれてほとんど露出している上半身から覗くのは、浅黒い肌のたくましい体。 そしてその体の全ては、赤と青の血に濡れていた。 右足の腱は切れている。左手の腕は、おそらくモンスターの炎からの盾にしたのだろう。ほとんど炭化していた。 戦えるような有様ではない。だが、その男は戦意を失っていなかった。 ぎらぎらと燃え上がる目をモンスターに向け、よろけながらも持っていた斧を支えに立ち上がろうとさえした。 カザヤはモンスターの攻撃をかろうじて避けながら、目を見張る。 ろうそくの最後の輝き。男の目はそう呼ぶにふさわしい。 けれどそうはさせない。そうはならない。カザヤは信じていた。 「ベホマラー!!」 困ったとき、必ずなんとかしてくれた、彼女を。 回復と言われても、それがカザヤ本人なのか、それとも他の『誰か』なのかわからない。だからこそエリンはあえて無駄になることを 承知で複数回復呪文、ベホマラーを唱える準備をする。 そして、遠くに見えた光景。モンスターに立ち向かうカザヤと、血に濡れた男。 それを目掛けて、エリンは呪文を放つ。 その呪文はやがて、二人の体に癒しをもたらす。見慣れぬ男の体が徐々にではあるが治癒していくのを見て、 エリンはホッとした。 そしてその横で。その姿を見て一瞬立ち止まった。 「……お、とう、さん……」 「クレア!!」 魂が抜かれたようになったクレアの腕を、強引に引くルウト。 「今は走れ!!!」 クレアにかけたとは思えない怒声とも言える声に、クレアははっと顔を見上げ、それから走り出した。 手に持っていた鞭を振り上げ、そして振り下ろす。その攻撃はやすやすとすでに付けられていた傷口を広げる。 「バイキルト!!」 ルウトも準備していた呪文を唱え、剣を振るう。その横で、エリンは男の側に寄った。 「……ひどい怪我ね。見せて。知識はあるつもりよ。」 「お前達は何者だ……?」 警戒しながら、エリンにそう問いかける男に、エリンは小さく笑う。 「勇者の仲間よ。勇者オルデガ、貴方のではないけれどね。」 「……私を知っているのか?」 「さぁ、それに答えるのは私ではないわ。……ひどい怪我ね。ベホマをかけてみるけれど保障はしないわよ。」 そういうエリンの後ろで、キングヒドラが地に落ちる音が響いた。 炎を使いこなし、二重に攻撃してくる。本来なら手ごわい敵ではあった。だが、オルデガとの戦いでついた傷は深く、三人の 敵というには物足りない。これはこちら三人が卑怯だとののしられる立場だろうとルウトは苦笑する。 「ま、でもオレたち全員足しても、首の数には足りねぇし、それで許してくれよな。」 「……このわしが、ゾーマ様の誇り高き腹心のわしが、このような者どもに……ぐは!!」 「もう良いからとっととどっか行って。」 上から首の付け根に降り、カザヤは力いっぱい急所をえぐった。やがて苦悶の表情らしきものを浮かべながら、 キングヒドラは消えていった。 「お前容赦ないな……。」 「僕たちだって暇じゃないしね。あとこの形のモンスターは嫌いなんだよ。」 苦笑するルウトに、カザヤはにっこりと笑って答えた。お互いほとんど怪我はない。それほど相手は弱っていたのだ。 クレアはそれを確認すると、ゆっくりと恐れるようにエリンと……そして父の側へ近づいていった。 怖かった。なんて言ったらいいのか、ここに来るまでずっと考えていた。それを頭に 浮かべながら、ゆっくりと歩くと、首から提げていた聖なる守りが、ちりんと小さな音をたてた、気がした。 「……君は……クレア?」 その声は、昔のままだった。あまりにも信じられないその言葉に、クレアは呆然と聞き返す。 「お父さん?」 「ああ、やっぱりクレアだ。そうだ、思い出した。私は……あの火山に落ちて……この世界に来てしまったのだな……。 クレアはどうしてここに……?母さんはどうしている?」 「お父さん!!」 クレアはたくましい父の首にすがりつく。ぼろぼろと涙を流しながら叫ぶ。 「お父さん、お父さんお父さんお父さんお父さんお父さん!!」 「相変わらず泣き虫だな、クレアは。よしよし、大丈夫だ。」 『勇者』は父と子の顔に変わる。異世界で再会した父娘は、長年の別離を取り戻すかのようにしっかりと抱き合った。 |
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