「父さん!」
 ラグが村の奥にある小さな池についたのは、それからすぐの事だった。
「ごめん、父さん、おまたせ」
 息を切らせ、お弁当を持ったラグは、釣りをする父の背中に話し掛けた。
「ああ、ラグか。遅かったなあ…。腹減ったよ。」
「ごめん、色々話し込んでてさ。はいお弁当。魚、釣れた?」
「何を言う、釣りは何時間もかけてするのが醍醐味なんだぞ!」
 何も入っていないバケツを見ながら、ラグは笑いながら答えた。
「父さんはそういいながら、いつも何も持たないで帰ってくるじゃないか。ちゃんと餌、ついてる?」
「付いてるに決まっているさ!ほら!見ろ!」
 そう言ってラグの父があげた釣り針の先には、既に魚に食べられたらしく、餌が付いていなかった。
 ― それは、疑いもしない、家族の対話。 ―

「あはははは!今日もいつもどおり、不調なようだね、父さん」
 ラグはお腹を抱えて笑い転げた。父はそれを見ながらまるで子供のようにむきになって答える。
「こ、今回はたまたまだぞ!夕飯は魚料理だからな!期待して待ってるように!」
「わ、判ったよ、期待してる。」
 既にラグの目には笑いすぎたか、涙が出ている。それでも何とか笑いを収めて、ラグはこう言った。
「父さん。この村の外には、何があるのかな」
「ラグ…外に出たいのか?でも駄目だぞ、まだ、お前には早いからな」
「大丈夫だよ、父さん。もちろん出たくないって言ったら嘘さ。でも、僕、今日までもしかしたら この村以外には世界はないんじゃないかって思ってたんだ…。」
「わしもたまに外に出るし、他にも色々買出しに行ってるのを見るだろうに」
「判ってるよ…だけど、この村の外なんて見たことなかったから。もしかしたら無いのかもしれないって。 ここから外に出たら、そこから先は何も無いのかもしれないって、思ってたんだ。」
 ラグは怖かった。外に出ること。それは目標。強くなって、皆に認められて外に出ること。 けれど、それを達成したら、次には何があるのだろう?…もしかしたら何もないのかもしれない。 そしたら、次は一体何をすればいいんだ?  ちょっとおどけたように、それでいて寂しそうに言うラグに、父は複雑な表情で、答える。
「馬鹿な事を言うな。ちゃんと外はあるよ。ただ…魔物が余りにも凶悪で、お前が出ると危険なだけだよ。」
「うん。ちゃんと外があること。わかったから。ごめん、変な事言ったよ。忘れて。」
 そういうと、ラグはいつもの明るい顔に戻った。
「じゃあ、僕家に帰ってご飯食べるよ。釣り、頑張ってね!」
 そう言って一目散に駆け出した。父の何か言いたげな顔に気づくことなく。

「たっだいまー」
 ラグは元気よく扉を開けた。色々寄り道してたせいでお腹はペコペコだ。
「遅かったわね、父さんにお弁当、渡してきた?」
「うん、ちゃんと渡してきたよ!父さん、まだ一匹も連れてなかったみたい。」
 ラグは食卓の自分の椅子に座りながらそう言った。
「もうすぐご飯できるわ、待っててね。」
 そう言って、ラグの母は鍋の方を向き直った。あたたかい湯気が立ち上る。 それを見ながらラグは、師匠とのやり取りや、父やシンシアとの会話を母に話していた。

 そのとき、だった。平和の崩壊を告げる声がしたのは。
 宿屋の主人が、ノックもせずにものすごい形相で、ラグの家に入ってきたのだ。
「大変だ!この村が!魔物たちに見つかったぞー!」
「なんですって!」
 母が勢いよくふりむき、尋ねた。
「この村の側まできている!早くラグを隠さねば!」
「え?」
(どうして僕を隠すんだ?)
 すっかり戦う気になっていたラグは、びっくりして、ただ唖然とする事しかできなかった。
「ラグ!お母さんの事はいいからお逃げ!」
「さあ、こっちだ、ラグ」
 そういうと男は、ラグの手を引っ張った。その衝撃でかラグははっとし、そして言った。
「なに言ってるんだよ、母さん、おじさん!こんなときのために、戦いを習ってきたんじゃないか!僕じゃなくて 母さんを逃がさなきゃ!」
「いいから行くんだ!ラグ!魔物の狙いはお前なんだ!」
 そう言って宿屋の主人はは、力いっぱいラグの腕をつかむ。男とはいえ、ラグはまだ17。成人を越え、鍛えている 男の力に適うはずもない。
「おかしいよ、どうしたんだよ、どうして魔物が僕を狙ってるなんて!」
 ラグは暴れながら、母に問い掛けた。
「ラグ…おいきなさい。私の最後の願いです。愛してるわ、ラグ。」
 母はじっとラグの目を見つめ、そう言った。自分がいうべきでない台詞を、 心の押し込めて。そして祈った。最後の祈りを。

 
― ラグを遣わして下さった、竜の神様。私は幸せでした、ラグに出会えて。
どうか、どうかラグをお守りください。どうか、幸せにしてやって下さい ―


 ラグは無理やり外に連れ出された。
「皆おかしいよ!どうして僕が守られるんだ!僕が守るんだ!皆を!」
「お前のような未熟者に、守られる私たちだと思うか?」
「し…師匠…」
 叫ぶラグを一喝したのは剣の師匠だった。
「私はお前を勇者にする為に、修行させたのだ。しかしいまだ時間が足らず、こんな形となってしまった、ラグ。 お前の役割は私たちを守るのではない、世界を守る事だ。」
「ゆう…者…?」
 ―勇者というのは神に選ばれた伝説の人物で、人々を救い、魔族を退治し、 正しき行いをし、世界を平和に導くという人物です。―
 吟遊詩人の声が胸にリフレインする。それが、僕だというのか?

「さあ、隠れるんだ!ここは私たちが守る!」
「師匠…」
 呆然としたとき、ラグは周りに全ての村人が集まるのを見た。そしてその全てが武装している。
「ラグ、ちゃんと隠れるのよ。」
「世界を守ってくれ、ラグ。それがお前の生まれたときから与えられた試練なんだ」
「ワシが教えた魔法、無駄にするでないぞ。お前がそれを使い世界を守れば、ワシが世界を守った事にもなるのじゃからな」
「すまない、ラグ、私が掟を破ったから…だから…こんなことに!」
「大丈夫だ、私たちが必ず村を、お前を守るよ」
 腕を引っ張られ歩くラグに、村人が声をかけていく。
 ラグにも判った。それは、ラグへのはなむけの言葉だ。そしてそれは、最後の言葉だと。
 その先に、ラグの父がいた。
「ラグ。」
「父さん!父さん、なんなんだよ!これは!皆、皆死ぬ覚悟をして!僕一人、守ろうとして!」
 ラグは父へ駆け寄った。そのラグに、父はこう言った。
「ラグ、時間がない、よく聞け。お前は父さんと母さんの子じゃない。ここで細々と暮らしていた我々の 前に降ってきた、神から授かった神子だ。神はこういった。『この子は勇者だ。この子を 立派な勇者に育ててくれ』と。その言葉、完全には果たせなかったが、それでも私はお前を誇りに思っている。 魔物を勇者であるお前を力ないうちに殺し、世界を滅ぼそうとしているのだ。世界を 救えるのはお前と、共に戦う仲間だけだ。悔しいだろうが、どうか、生き延びてくれ。ラグ、 お前は私達の希望なのだ。」
 もう、ラグの頭は飽和状態だった。ラグが父と母の子供じゃない。似てもいない髪や目の色に疑問を 感じた事が無いと言えば嘘になる。だが、それでも疑った事はなかった。 疑うほど、ラグは世間を知らなかったし、何よりも心はいつも、父と母の元にあったから。

 何も考える事ができず、ただ引きずられるだけのラグ。そうして村の奥の倉庫に入った。 師匠は階段をおり、一番奥の壁を調べると、そこにはもう一つ奥へ向かう隠し扉があった。 そうしてラグをそこへ押し込め、荷物を渡してこう言った。
「これを持っていけ、何かの役に立つだろう。…もっと時間があればお前をもっと強くしてやれたのに。 お前はもっともっと強くなれる。力も、心も。私の手でお前をもっと強くしてやりたかった。 お前との修行の日々、楽しかったよ。ラグ。…元気でな。」
「し、師匠!僕!」
 ラグがそう言って顔をあげたとき、師匠はすでに部屋にいなかった。ためしに扉に向かい、 扉を開けようとする。だが、鍵がかかり、開かなかった。
 扉を叩き壊そうか…そうとも思った。だができなかった。母の顔、父の顔。家族同然の村人の顔。 助けたいのに、それを望んでいない皆。みんなのためにどうしたらいいのか、ラグはわからなかった。

 ただ、呆然と立っている、ラグにできるのはそれだけだった。

 第一話です。魔物が責めてくるまでに3ページも使ったドラクエ4の小説なんて今まであったでしょうか。 長すぎます、しくしく。そのうち話のダイエットに励みたいと思いますので、よろしくお付き合いくださいませ。 ちなみにピサロの目の色って、何色でしたっけ?なんとなく緋色にしましたが、なんかウサギみたいな組み合わせだ。


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