動かない頭をとっさに動かし、ラグは剣を構えた。もし、魔物ならば戦わなくてはならない。一つだけラグは知っていた。皆は 自分が死ぬ事を望んではいない事を。

 がちゃ。扉が開いた。覚悟を決める。その、先にはー。
「シンシア!シンシア!生きていたのか!」
 剣を捨て、抱きとめる。シンシアは扉をしっかり閉めた。
「良かった、シンシア。どうしているかと、思っていた。皆は、大丈夫なのか?」
 矢継ぎ早に言葉を放つラグを、シンシアはやわらかくみつめた。
「シンシア?」
 シンシアの様子がおかしい事にラグは気がついた。そして反省した。
(シンシアも混乱してるんだ。なのに僕があせって混乱したらいけない。僕がシンシアを守らないといけないのに!)
「ラグ…今まで貴方といられて楽しかった。色々遊べて、嬉しかった。私、ラグに逢えた事が、最高に 幸せだと思うわ。」
「シン…シア…?」
「魔物の狙いは貴方。けれどラグ、私は貴方を殺させはしないわ。貴方だけは、守ってみせる。私は…貴方に 生きていて欲しいの。」
「シンシアまで、シンシアまでそんな事を言うのか?約束したじゃないか!ずっと、ずっと一緒だって!」
「ええ、ラグ。私たちはいつまでも一緒よ。例え、何があっても。」
「シンシア…何を、何を言ってるんだ?」
 不吉な予感に駆られた。いろんなことが沢山あって麻痺したと思っていた頭にも、その予感は冬の冷え切る寒さのように、 体全体を凍えさせた。
「今までの分も世界の全てを見て、人と関わって、絆を作って。そして、今まで私や村の人といた 幸せよりも、もっと大きな幸せを見つけて、その幸せをつかんで欲しいの…私の分も。」
 紡ぎだされる祈りの言葉は不吉な言葉。信じたくない、予感。そんな呆然とするラグに、 シンシアはそっと顔に手を当てた。
「勇者ラグに祝福を。」
 そっとおでこに口付ける。
「そして、愛するラグに、幸福を…」
 そう言いながら唇にそっとキスをした。
(ずっとずっと、好きだった。ラグの事が。ラグだけを。だから、だから…)

 幸せに。それだけが、願い。神にそむく、それだけの願い。

 シンシアに口付けを受け、ラグが目を開けた時、シンシアの姿はどこにもなかった。
 そこにあるのは自分の姿。もう一人の、自分。ただその目は確かにシンシアの目だった。 とても毅然とした目。
「さよなら、ラグ。」
「シンシア…?」
「ラグ、私を、守ってね。私を、救ってね。」
 そういうと、後ろも見ずに扉を開け、そして走り去った。

 ラグは判ってくれただろうか。自分の最後の言葉を、気持ちを。伝わっただろうか。
(もう、私がラグに贈れるものは、何もないのに。)

 石階段を昇る。その先に待つは戦いの空気。感じる気配、そして血のにおい。
 この日の為に、いつもラグを見てきた。毎日一緒に授業を受けて動きと戦い方を観察した。 口調や行動も目に焼くつくほど覚えている。…一体いつからだろう…それが、 この日のためじゃないと気がついたときは。目で追わずにはいられないと気が付いた時は。 好きだった。ずっと好きだった。だから見ていた。最後の一瞬も目に焼き付けていたかったから。 自分の最後の時には、目の前にラグがいないと知っていたから。

 暗い倉庫から、明るい…明るいはずの地上に出た。目の前は悪夢。それが ただ、広がるのみ。村人とモンスターが戦っている。 この倉庫に目を向けられないように、外側から周り、できるだけ離れる。

 (こんな日が来ると知っていたし、覚悟もしていたわ。でも、でもね、 こんな日が来ない事を、その何倍も願ったのよ…)
  ホントウハ、イッショニ…
 そんな本心を体中の恐怖と震えと共に押し込めた。シンシアは叫んだ。 勇者を守る為に死ぬという誇りとそして愛するすばらしい人を守り、死ぬという誇りを胸に抱きながら。

「僕の名は『ラグリュート』!お前達の狙う勇者だ!」
 それが合図。ラグが知ることのない聖名。その言葉に皆が安心する。そして、それを見届け安堵したように、 今までなんとかもたせていた村人が、ひとり、ひとりと消えていく。

 魔物がいっせいに襲ってきた。剣をさばく。倒しても倒しても次が来る。 一匹の魔物を魔法と剣で倒したその時、シンシアは魔法に足止めされた。そして、 その魔法を放った魔物が持った不吉な銀のきらめきが、迫ってくるのを見た。

(ラグ…幸せに…なって…)

 けして今、口にしてはいけない願いを最期まで心にこめながら、シンシアは体に熱いものが走ったのを感じた。

はい、第二話の終了です。なかなかシンシアを死なせることができなくて苦労しました。村人達の くだりで書いてた自分がなんだか涙ぐんでしまった…(馬鹿)ラグの名前について。これはもし自分なら、 倉庫から出てきた勇者が本物かシンシアが化けたものかわかるかな?と思ってしまって。でも もしかして死んだのは本物かもしれない、と思いながら死んじゃうなんて嫌だろう、と思い考えました。本当は 適当に、ラグとごろをあわせてラグナルーンという名前にしようと(ラグはこの話考える前からつけてたので) 思ってたのですが、知ってる漫画に同じ名前を発見して(それはラグナリューンでしたが)、 ラグリュートに変更しました。余り変わらないという感じもしますが、それなりに気に入ってるからいいや。 ネーミングセンスかけらもないのでちょっと不安ですが。では3話もよろしくお願いします。次からはさくさく進めたいですな…

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