「僕が勇者なんてもんじゃなかったら、みんな死なないでよかったのに!僕が勇者でなかったら 、みんな僕を…」
そこまで言ってラグは頬の裏をかんだ。そうしないと泣き出しそうだった。あることに気が付いた。
 …ぼくをかばって死んだりしなかった。僕が勇者だったから。だからみんなあの村で、 僕を勇者にするために育ててくれた。…じゃあ僕が勇者じゃなかったら…皆、僕を…ぼくが 勇者だったから、みんなあんなに優しく…してくれたのか…  自分の存在価値は、勇者であること、なのだろうか。勇者でない僕は、誰も要らないんだろうか…
『勇者としてがんばれ』その言葉は、そう言う意味だったのだろうか…。

(たとえ勇者としてだけでも、みんなは僕に優しくしてくれたし、皆がどう思ってても、 僕は皆が好きなんだから。…好きだから…辛い事もあるけど…)
 今の思考が嫌で、強引に別のことを考える事にした。首を振って、首にかかってる 金色の鍵を握り締めた。それは皆に対する裏切りだ。

 目の前には暗いトンネル。このトンネルは「トルネコ」という商人が作ったらしい。中を 通るとエンドールに繋がる、貴重な通路らしい。
(商人っていうと、物を売ってるだけじゃないんだろうか…そういえば、ブランカの城門で出会った四人組の 中に、商人のおじさんがいたっけ。ああいう人なのかな…?)
 そういえば、とラグは思い返す。あのおじさんは自分の仲間を探せ、と言ってたっけ。
(仲間…僕に誰かと一緒に戦う権利なんてあるんだろうか…ぼくは、ただ、皆の仇を討ちに行くだけだし…けど 、おじさんは自分に足りないものを補ってくれる、って言ってたっけ…)
 自分に足りないたくさんの物。強さ、経験、世間。それを補ってくれる人。いてくれたらいいと思った。 自分には足りないものばかりだから。それでデスピサロが見つけられる自信なんてなかったから。だけど。
(補ってくれるだけだったら、それはあの時と一緒だ…僕も補えるようにならないと駄目なんだ…)
 もし仲間がいてくれるとすれば、自分より強く、そして、自分が助けられるくらい、弱い人がいいとラグは思った。 それは矛盾した考え。だけど、心の中からの願いだった。自分より弱すぎる人間はいらない。きっと 先に死んでしまうから。自分より強すぎる人間いらない。きっと自分が役に立たないだろうから。…守られる、 だけだろうから。

 そこまで考えた時、目の前に光が広がった。トンネルの出口まで来たからだ。そしてその光に 導かれるように、自分の中の暗さを、少しだけ外へ追いやった。 そして光が待つ城「エンドール」にラグは着いた。


 ブランカ城の10倍、人に溢れていた。ブランカ城は冒険者と、その町の人しかいなかったが、ここは違う。 色んな人たち、旅人や村の人、商人、世界中の人が集まっていた。
(うわわわわ、人の洪水!何でこんなに人がいるんだ!)
 その流れに押し流されながら、ラグは思った。それは王宮の結婚式を見るために各地から集まっているからなのだが、 ラグはそれを知るよしもなかった。
 足は自然に人がいないほうへ吸い寄せられる。しかし歩いても歩いても、あの村より人が少ない場所はなかった。 ラグの頭はくらくらしてきた。より少ないほう、くらくらしない所を求めて歩く。

(ん?)
 そこにも人はたくさんいた。お城の前の広場ほどではないにしろ、りっぱな表参道だ。だが、頭のくらくらが嘘みたいに 消えた。そこは神聖な空気で溢れた、聖域。そんな風に感じられた。
(どうしてだろう?何が、そう感じさせるのだろう?)
 清らかで、神聖な雰囲気。今は昼であるにも関わらず、月の光を浴びたような、そんな感じがした。その原因を求めて ラグは頭をきょろきょろさせた。

 一人の傭兵が一人の女性と話していた。男性は顔をでれっとさせ、幸せそうだ。女性の顔は見えないが、 さぞかし美しいんだろう、と男性の顔から想像させた。しばらくすると男性の顔に変化が出た。そのでれっとした顔が 真剣な表情に変化したのだ。そして、そのまま真剣に話を聞いている。ラグは側に寄った。
 女性は水晶を持っているようだ。どうやら占い師らしい。
(あの、ブランカで聞いた、評判の占い師だろうか?)
 女性の声が聞こえてくる。その声を聞いて、ラグは直感する。この神聖なオーラはあの女性が出しているのだ、と。 清らかで澄んだ声。月光に音があるならば、きっとこのような調べだろう、と思わせるような声。その声が、 男性に運命を告げている。それを聞いてわかった。この男性は、きっと顔につられて話すきっかけとして、 占いを頼んだのだろう。おそらく、この男性は占い自体余り信じてなかったに違いない。 しかしこの声、それで運命を告げられ、厳かな気分になったのだろう。もしかすると、自分の過去や 性格をずばり当てられたのかもしれない。女性は続けた。
「貴方には力があります。神から授けられた運も備わっています。それは今までの人生や仕事でも現れているでしょう。 けれど、今自分の力が信じられず、倦怠期に入っています。ですから、ここで自分の力を鍛え、自信をつけて下さい。 そうすれば、きっと貴方の未来は明るいものになるでしょう。」
 その言葉を聞いて男性の顔がぱっと晴れた。他愛のない言葉だ。けれど、この声を聞くと、信じられる、そんな気がしたのだろう。 自分は大丈夫だ、と。そうして男性は、女性にお金を渡した。女性が遠慮した所を見ると、おそらく余分なお金だったのだろう。 それを押し付け、ゆっくり頭を下げると男性は女性から離れた。

(僕も占ってもらおうか。)
 占いなんて信じてなかった。けれど、その声や神秘的な雰囲気を感じ、信じてみてもいいかもしれない、と思ったのだ。 何をすればいいかもわからない。だから、この占い師に聞いてみてもいいかもしれない。そう思って占い師の方を 見た。

 そこには、夕闇の大地のような褐色の肌、そして紫水晶の色をした髪。そして体の周りには月の光を 纏った、美しくも神秘的な女性が立っていた。

ついにミネアの登場です。ここからしばらく展開が長くなるかもしれませんが どうぞよろしくお願いします。はたしてラグはマーニャ、ミネアにどういう反応をするか。そして姉妹は ラグにどう接するか、三人は打解けられるのか!…頑張りたいと思います。

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