「ふう。」 ミネアは小さく深呼吸をした。いつもの事とはいえ、人に占いを告げるのは神経を使う。 間違えなく水晶の魔力を使い、未来を読む。それはとても難しい事。 (けれど、今日はいい占いができたわ。) 身勝手な話だと思うが、やはりするならば、気持ちよい占いの方が好きだとミネアは思う。その人次第で この先上手くいく、そんな占いが。 (これは…何?) 占いからの緊張が解けたとき、初めて周りの気配を読み取った。そしてそこには、今まで感じた事がない、 不思議な空気を感じた。荘厳のようで、懐かしいようで、神聖な様で。それでいて、なにか、とても虚無な空気。 (けど…微弱すぎて、よく判らないわ…いえ、微弱…それでいて、何かに隠されて いる…?) そう思い、顔をあげる。そこには翠の髪をした、素朴な少年が立っていた。 (この少年が…?そんなふうには見えないけど…けれど、この表情はなんだか見覚えがあるわ…) それを思い出そうとしていると、その少年がこっちに向かってきた。そしてミネアに話し掛けてきた。 「すいません、占い師の方ですよね?」 「あ、はい、10Gで貴方の未来や運命を占います。ご希望ですか?何を占いましょう?」 商売の条件反射として、とっさにミネアはそう言った。少年は一瞬、ほんの一瞬だが息を呑んだ。 「僕の、これからを占ってもらえますか?」 そして目の前の少年は、虚無な笑顔でそう言った。 その表情を見て、ミネアはやっと気がついた。見覚えのある笑顔。…これは… 「?どうか、しましたか?」 少年は怪訝そうにこちらを見た。 (いけない、仕事、しなくては。私は、占い師なのだから) 笑顔が、姉マーニャの表情に似ていた。特に昔の、モンバーバラにいた頃の、あの表情だ。 この少年に何があったのだろう?ミネアはそう思ったが、とりあえず占いに専念する事にした。雑念を 集中して追い払う。 「ではまず、貴方の運命を調べます。」 ミネアは水晶玉を見、意識を集中させた。 「貴方の周りに、七つの光が見えます。その光、やがて一つに集まり…」 それは、まるでデ・ジャヴ。あのお告げ所で聞いた事、そのものだった。 ミネアはハッと少年を見た。 「もしや貴方が勇者様ですか!」 占ってもらった運命は『勇者。』どうやら自分はどうしても勇者という厄災から逃れられないらしい。 それでもやはり聞きたかった。 「どうしてそう思うんですか?」 「私の占いに、小さな一つの光の周りに七つの光があつまり、それがやがて大きな一つの光となる、そんなものが見えました。 そしてそれはあるお告げ所で聞いた、勇者の予言なのです。私は貴方を探していました!私はその七つの光のうち の一つ。導かれし者とされる勇者とその仲間の一員なのです!ミネア、といいます、どうぞよろしくお願いします!」 (…仲間、この人が仲間?だけどこの人、女性じゃないか…こんな細い体で…。 違うか。女性が弱いとは思わない。女性は…シンシアは…) そう悩んだ顔がミネアには伝わったのだろう。ミネアは明るくこう言った。 「心配しないで下さい。たしかに剣の腕はほとんどありません。けれどこれでも魔法が使えるんですよ。 真空魔法がちょっと、それから回復魔法は得意ですわ。勇者様の手助けができると思いますわ。」 勇者様、その言葉はラグの胸をちりり、と焼いた。ほとんど無意識に、胸の鍵を握る。 苦しげに、ミネアに告げた。 「僕、ラグと言います。ミネアさん。よろしくお願い…します…」 ミネアは気がついていた。ラグに何かがあったことを。そして、自分がなにかラグの心の傷をえぐるような事を 言ってしまった事を。だから何も言わなかった。 謝りたかったが、謝ってしまったら更なる傷をつけてしまうような気がして。 とりあえず、こう言った。 「実は私には姉がいるんです。姉、マーニャも導かれし者の一人です。一緒に迎えに行きませんか?」 「お姉さん…ですか?どこにいらっしゃるんですか?」 ラグの何気ない一言に、自分がみっともない所を見せなければいけないことに気づいた。何せ、姉の、マーニャの居場所は… (うう、一緒に行きましょう、なんて言わなければ良かったわ。いいえ、 これも全部姉さんが、昼間っからあんな所にいるのが悪いのよ!) 自分の発言のうかつさを姉に八つ当たりしながら、いや、八つ当たりではないだろうか。みっともないのは姉の行動 なのだから。 「…ミネア…さん?」 ふと気がつくと、握りこぶしまで作り、姉への怒りをたぎらせていたミネアを、怪訝そうにラグが見た。ミネアは はっと気がつき、素に戻る。そしてため息一つつき、心に汗を流しながら、こう言った。 「姉は…宿屋の地下の、カジノにいるんです。」 |
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