目がさめた三人は、下の酒場で朝ごはんを食べながら、話をしていた。どうやらここは 昼は食堂で、夜は酒場になるらしい。みな、おいしそうにパンなどを頬ばっている。

 一通り食べ終わると、ミネアはエンドール周辺の地図を広げた。
「これからどうしましょうか?」
「どこに行くかって事ですか?僕、何も考えてないですし…すいません、何も知らないんです。」
「では説明しますわね。ここがエンドールですわ。このあたり、いえもしかしたら世界で一番栄えている 町ですわ。あのトンネルで有名な商人、トルネコさんもここで商売をなさっていて、今は 奥様がそこで銀行をしてらっしゃるそうですわ。」
 ラグは、知識を得るのが好きだった。剣術も好きだったが、図鑑などもよく読んでいた。 今も目をきらきらしながら聞いている。
「へえ、あのトンネルですよね。僕、来る時に通りました!あのトンネルを作った方ってここにいらっしゃったんですね。」
 ミネアはうなずいて、今度は北へ指をなぞった。
「こちらに行くと、旅の扉というものがあるらしいですわ。それを使えば、こちらの大陸に移動できるらしいですわ。 そうすると、ここにはサントハイムというお城がありますわ。」
「サントハイム…ね。たしか魔法王国だっけ。そう言えば、サントハイムの人が、 この間やってたって言う、武闘大会の優勝者らしいわね。なんでも可愛らしい女の子だったって 皆が言ってたけど。」
 とマーニャが言った。
 ミネアは次は北東を指でなぞる。
「こちらに行くとボンモール城がありますわ。ここは今お城でやっているリック王子の国。最もこの先には 小さな村が一つあるだけですから、余り収穫は無いかもしれませんわね。」
「そうね小さな村じゃ、人も来ないから、情報もないし、カジノどころか酒場もないからね。」
「姉さん。」
 そう呆れた目でマーニャを見るミネアに、ラグは小さく笑った。
 次にミネアは東をゆっくりと指で伝っていく。
「こちらのトンネルを通ると、ブランカ城。伝説が眠る城といわれて、今たくさんの 旅人が訪れているようですわ。」
「僕…そこ行きましたけれど、何もなかったですよ。」
 あそこには、余り行きたくなかった。それにマーニャとミネアの情報は得られたが、それ以外は大して 何もなかったと思う。

「では、ここからさらに東に行きますと、砂漠がありますわ。ここから馬車に乗ります。」
 そこから先は、砂の絵がかかれており、地図はそこで切れていた。
「この先に行きますと、港があるといわれていますわ。よくは知りませんが。もし港があるなら、船に乗って また別のところに行けますし、上手くすれば船が借りられるかもしれませんわ。」
「…でも、あたし達の故郷への、船は…きっとないと思うけどね。」
 マーニャの表情はどこか複雑だった。ラグは夕べ聞いた話を思い出した。
(マーニャさんは、そこへ行きたいのだろうか?それとも…行きたくないのだろうか?)

「それでどうしましょう?」
 そうミネアが促す。マーニャはすこし考えた後、こう言った。
「あたしは、なんとなく北に行きたいわ。」
「北って言うと、サントハイム?姉さんそんなところにどうして?」
「わからない。だけれど、妙に惹かれるような…そんな気がするわ。」
 そこに行ってみても、きっと何もならないことはマーニャも知っていた。だけど。
(あそこはあいつの因縁の場所。いつか見てみたいわ…でもそれだけじゃない… なんだか妙だけれど、惹かれるわ、北に。)
 マーニャの一瞬の真剣な表情。ミネアが自分を心配そうに見ていることに気が付いた。 マーニャがどうしてそこに行きたいか、半分ながらうすうす気が付いているのだろう。マーニャは 心配させないように、おどけて言った。
「そのつよーいお姫様ってのにも、興味あるけどね。」
「私は、逆だわ…北には行かない方が良いと思うわ…これもたいした 根拠はないのだけれど。ラグはどうかしら?」

 ラグは地図に見入っていた。そうして、やっと見つけた。自分の村があったところを。
(本当に、小さいんだな…何も書かれていない…当たり前か…皆僕の為に、ずっと村の事を…)
「ラグ?あんたはどうしたのよ?」
 マーニャの声に意識を覚醒させた。そしてとっさに言う。
「僕は砂漠から船に乗ってみたいです。その方が…情報を集められると思うし、 マーニャさんやミネアさんの目的も探しやすいと思うのですけど…」
 マーニャやミネアが故郷に帰りたいにしろ、帰りたくないにしろ、それは船を目の前にして 聞けばよい、そう思った。それと…自分は故郷から、できるだけ離れたかった。自分の噂の無い所へ 行きたかった。

「そうですね…私もその方がいいんじゃないかと思いますわ。」
「まあ、あたしもそれでいいと思うわ。」
「いいんですか?」
 遠慮してそう尋ねた。自分もどうしてもそうしなければならない、と思ったわけではない。 二人が他にしたい事があるならば、それに従ってもかまわないと思っていた。
「いいわよ、それにね、この砂漠を超えたところに、温泉があるんだって。肌がつるつるになるらしいわよ。」
「姉さんてば、そんな事ばっかりね。」
「あら、気を張って旅をするより、ゆっくり無理しないで旅を楽しく続ける方がいいに決まってるわよ。ねえ、ラグ?」
 そう言われて、ラグは黙った。
(どちらに味方しても…なんとなく怖い気がするんだけど…)
「じゃあ、とりあえず東に行きましょうか。」
 ため息混じりにミネアが言った。そうして立ち上がる。皆もそれにならった。

 旅立つ為に、街を歩いた。相変わらず大勢の人たちが、街の中を歩いている。 ラグは世の中にこんなにたくさん人間がいるなんて想像もしなかった。 だけど、その中でこの二人に出会えたこと。それはきっと大切な事だ。そんな事が このエンドールで学べた、そんな気がした。


戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送