三人は東に向かった。マーニャとミネアは予想以上に強かった。 特にマーニャとミネアの魔力はラグの剣技では適わなかった。ただ、魔力はすぐに尽きる為、 節約せねばならなかった。そうすると一番活躍するのはラグだった。マーニャは腕力はまったくないし、 武器の扱いが多少上手いミネアもラグには適わなかった。
 この三人は理想のパーティと言えただろう。お互いに足りないものを補い合い、旅を続けていける。 それはブランカ城であの男が語った『仲間』そのものの姿だった。

 そして目的地である砂漠の宿屋に着いた。
「うわぁ、砂っぽい、暑い!肌が乾燥しそうだわ。」
「姉さん、砂漠なんだから当然でしょ。」
 そう言い合う二人の姿も、もはや日常茶飯事だった。仲が悪そうに言い合う二人も、あの日の夜と、 今までのわずかな旅のおかげで、仲の良いじゃれあいだと、ラグは気がついていた。
 そのラグは、少し感動した面持ちで、砂漠の方を眺めていた。緑豊かな 山の奥に住んでいたラグは、砂ばかりの土地、という事にも感動したが、 なにより地平線が見えたことに世界の広さを感じていた。これがあの地図ではこんな小さな範囲で収まっていた事を 考えると不思議に思わずにはいられなかった。

「しかし、変ね…」
「そうですね…」
 いぶかしげな二人の声に、ラグは振り向いた。
「何がですか?」
「活気が無さすぎますわ。ここは砂漠へ連なる宿場町。本来ならば旅人達であふれているはずですのに…」
 ミネアが不思議そうに首をかしげる。ラグが見渡してみると、宿屋の外側には馬車が一台あるだけで、 人影も無く、静まり返っていた。
「まあ、あそこに馬車はあるんだから、全部出払ったって事は無いんだし、次の便がいつか聞きましょ。」
 そう言うマーニャに倣い、三人は宿屋に入った。

「すいません…砂漠の向こうに行きたい者なんですけど…」
 ラグはそう言いながらおずおずと入っていく。
「馬車出してくださると聞いてやってきたんですけど…」
 ミネアがそれに続く。マーニャはその後を入りながら周りを見渡していった。
「変だわ…宿屋にもほとんど人がいないわ…。」
 する遠くのほうから男の怒鳴り声が聞こえた。
「今は馬車は出払ってるよ!出直してきな!」
 よく見ると奥のほうに若い男が座っていた。その男は険しそうな顔をしていた。 どうやらこの宿の主人の息子らしい。マーニャはむっとした顔をして言い返した。
「何よ!外には馬車がちゃんとあったわよ!大体あんたここの息子でしょ?客がきたんだから、 もてなすのが筋ってもんじゃない!商いってのはね、信用第一なのよ!」
「お前なんかに何がわかる!お前みたいな頭のかるいねーちゃんに、商売を 語られたくないね!」
「お生憎様、あたしは踊り子なの。踊り子だって商売よ。あたしはね、客の期待を裏切った事なんて 一度も無いのよ!」
「は、踊り子!ただの売女じゃねえか!だいたいな、人間に信用だの、期待だのをかけるほうが間違ってんだよ!人は 絶対裏切るんだからな!」
 確かに踊り以外にもう一つの商売を持っていた同僚も多かった。だが、マーニャは一度たりとてそのような事はした事は 無かった。なによりそのような事をせずとも、十分に稼げた。マーニャは思わず呪文を唱えかけた。
「どうしてそのような事が言えるんですか?人は信頼しあって生きるものです。信用がなければ何事も 成り立ちませんわ。」
 ミネアが毅然と、それでいて優しくその男に話し掛ける。その口調は、初めてラグが見た、あの声。 信じるに足る、清らかな声だった。男はその声を聞き、一瞬ひるんだが、それでも大声で叫んだ。
「俺はなあ、唯一無二の親友と、少なくとも俺はそう思っていた男と、 この先の洞窟に行ったんだ!凄い宝があると知ってな。だがな 洞窟に入って、はぐれたんだ。しばらくあいつを探してさまよって、やっと見つけたと思ったら 、あいつは俺を殺そうとしやがった!多分お宝を独り占めしたかったんだろうさ!もう、俺は誰も信じねえ!」

 ラグは呆然と見ていた。自分とはまったく違う目にあった人。だけどもしかしたら、 あの後、自分もこうなっていたかもしれない。自分を勇者になるためだけに育てたと、愛情も全部嘘だと。 全ては偽りだったのだと。もう、あんな目に遭いたくない、だから誰も信じないと。 信じたから、こんな辛い目にあったのだと。そして今ごろ心を閉ざし、マーニャとミネアを拒否し、 今ごろ一人で、旅をしているかもしれない…
(もう一人の自分。自分がなったかもしれない、可能性…)
「そんなの…判らないじゃないですか…」
「なんだと!」
 自分でも不思議なほど自然に出てきた言葉。ラグはその事に驚きながら、それでも言葉を続けた。
「なにか…理由があったのかも、知れないじゃないですか…」
 いまだ信じきれない自分が言うには滑稽すぎる台詞。だが、心から出てきた その言葉は、自分を暖かく包んだ。
「お前らには何もわからねえよ!とにかく馬車なんてださねえ!あれは俺の馬車だからな!帰ってくれ!」
 そういうと男は奥に去っていった。

「なんなの、あいつ!いっそこの宿屋ごと、ベギラマで燃やしてやろうかしら!」
「どうもすいませんでした」
 マーニャの怒り狂った声に、奥のほうから宿屋の主人が出てきた。
「何が…あったんですか?」
 ミネアが宿屋の主人に尋ねる。主人は語り始めた。
「あれはうちの息子、ホフマンです。あいつも昔は性根の通った、優しい息子だったんですが、 少し前に親友と東にある洞窟に行ったんです。あそこには昔から『素晴らしい宝』があるといわれ、 けれどその余りの仕掛け、そうして恐ろしいモンスターのせいで誰も手に入れられていないと言います。 そして、そこから帰ってきたのはあいつ一人でした。おそろしい数の 傷を体に受けて…中で何があったかは私も知りません。 ホフマンの親友もすっかり姿を消し、消息がつかめません。それ以来あいつはずっとあの調子なんです。」
 その話を聞き、三人は表に出た。

「もうもうもうもう、むかつくわ!どうしてくれよう!」
「どうすればいいのかしら…ここで旅を終わらすわけには行きませんわ。何とかしなければ。」
 あの後宿屋の主人に聞いたところ、最近はモンスターが激しく向こうに 行った馬車がいつ戻ってくるかわからないとのこと。 もしもすぐにここから先に行くには、馬車の持ち主の好意によって送られるか、どこかで馬車を 手に入れるか、だ。
「あの洞窟に行きましょう」
 ラグはそう言った。
「行ってどうなるって言うの?」
「洞窟には何も無いのではありませんか?」
「もしも、その親友が宝を手に入れて、一人で逃げたなら、多分次に行く所はエンドールだと思うんです。 ここから南に行くには、この宿屋を通らなければならない。そして宝を手に入れたなら、 見せびらかすか、売るかの二つですよね。売るしろ、売ったあとに何か買ったり遊んだり するのに、ここから北側で、一番相応しい街は多分エンドールだと思うんです。」
「たしかエンドールには珍しい宝を集めてる好事家のお金持ちがいたわね。売るにはもってこいよね。」
「でも…私達、エンドールでそんな噂、聞かなかったと思いますわ…お金持ちの若者の話なんて…」
「そうね、でも、酒場で大判振る舞いの奴も、カジノで大金持って遊ぶ奴も見かけなかったわ。」
「たとえ、もしほかの街でお金に変えたりしたとしても、 きっと噂になると思います。そうなら消息がつかめないわけはないと思います。」
「じゃあ、お宝がつまらない宝だったってことじゃ?」
「良くありますよね、いい宝だって噂があるのに、実際はたいしたものじゃない、そんな話に何度姉さんが乗ろうとしたか…」
 ミネアの一言から、今までもいらだっていたマーニャが言い返そうとしたとき、ラグが口をはさんだ。
「もしそうなら、ホフマンさんを攻撃して、ひとりじめしようとするのはおかしな話です。」
「確かにそうね、じゃあ、誰にも渡したくなくて、誰にも見せないように隠しながら逃げたってのは?」
「姉さん、…そんな不審な人、どんな田舎町でも一発で噂になるわよ…。よそ者が、誰にも見せないように 警戒する荷物を持ってるなんて…」
 それは田舎でも都会でも長い間すごしたマーニャとミネアの体験談でもあるのだろう。すらすらと推測が出てくる。
「つまりホフマンさんの友人は宝を取っていないんじゃないか、そう思うんです。ならきっとなにか 事情があったのかもしれませんし、もしかしたら呪われていたのかもしれません。」
「ええ、たしか味方を攻撃するような呪いの武具や防具があると聞きますわ。」
「なるほどね、じゃあ行ったら宝があるかもしれない、無いにしても、ホフマンの友人の…」
「出来ればそれは考えたくありませんが、それ以外でも何かしら痕跡が残っているかもしれません。呪いのアイテムの 破片とか。それを見せれば…」
「あいつの鼻を明かせるってわけね!やりましょう!洞窟探索!」
「…姉さんが洞窟に行く気になるなんて珍しいわね…私も賛成です。ラグ。」
「行きましょう!東の…洞窟へ!」

   はい、序章に出てきた文がここにも出てきました。はたしてこれはなんなのでしょう?とちょっとだけ 心にとめておいて下さったら嬉しいです。
 うーむ、ラグの行動が予想できなくなってきました。どうして推理なんてしてるんでしょう… なんだか妙に物知りさんになってしまいました。一応フォローを入れておくと、冒険に関わる事なんかは ラグは先生や大人の話、図鑑なんかを読んで結構詳しいです。あの隔離された空間で、外を認識できるのは そういう知識だけだったので、ラグはそういうのを勉強するのが好きだったのです。でも地理や常識、そして 娯楽なんかはほとんど知らないと思います。そう言うたぐいの本は無かったですね。物語とか。 あと勇者に関わる事は出来るだけ、村の皆排除してきたので 何も知らないと思います。伝説とか。外に興味を持つことをさける為、地理にも詳しくないでしょう、多分。
 念のために、もう一つフォロー入れとくと、私はホフマンがマーニャに 言った様な職業も立派なサービス業だと思ってます。 多分、人間関係大変だろうなーと思いますし、ほかの職業よりお客へのサービス等大変だと思っておりますので、あしからず。

 さて、これから裏切りの洞窟に入ります。果たしてラグはどういう反応をするか!…実は私にも予想つきません… がんばって書いていきたいです。

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