星の導くその先へ
〜 疑惑と絆 〜




「ここが…その洞窟?」
 あの宿屋から東へひたすら進み、いくつもの橋を越えてついた先。そこに洞窟がぽっかり 入り口を開けていた。
「これはどうやら、昔の遺跡跡のようですわね。少なくとも天然ではありませんわ。」
 ミネアが入り口を分析しながら言う。
「そうすると、この中の宝を収めるために作られたのでしょうか?もしそうなら その宝を守る為に仕掛けがあるのでしょうか?」
「遺跡の仕掛けってのは厄介だからね、十分注意しなくちゃね。」
 ラグの言葉に答え、あのマーニャがそう言った。どうやら怒りは多少収まったらしい。三人は洞窟の中に入っていった。 中は洞窟特有のじめじめ感があり、三人を辟易させた。
「なに?あれ?」

 マーニャが前を指差して言う。見てみると大きな壁が立ちはだかっていた。石で出来ているようだ。
「これじゃ中に入れないじゃない!」
「変ですね…ホフマンさんたちは入れたのですから、隠し通路か何かがあるのでしょうか?」
 ミネアのその言葉に、三人は周りを見渡す。ラグがあることを発見した。
「マーニャさん、ミネアさん、見て下さい!ここと、ここと、ここ。ひびが入って脆そうです。 三人で力をあわせてここを武器で攻撃すれば、もしかしたら壊せるかもしれません。」
「ほんとね、じゃあやってみましょうか!」
 三人はナイフや剣を構え、合図でいっせいにひびへ攻撃した。すると石の壁は脆くも崩れた。
「なーんだ、けっこう脆いのね。いきましょうか。」
「これが仕掛け…?どういう意味なのかしら?」
 そう言いながら歩いていく。その先の通路は狭かった。
「一人通れるか通れないかですね…」
「やばいわね、こういうところで挟み撃ちされたら…」
「しかし変ですね、今まで一度も魔物の姿が見えませんわ。」
 この洞窟に入ってまだ間もないが、それでも魔物に遭っていないのは稀有な例だと思われる。 まして『恐ろしい魔物』を覚悟してきただけに、拍子抜けの気分を、ミネアは味わっていた。
「じゃあ、僕が前を守ります。マーニャさんはどちらから敵が来ても魔法でフォローできるよう、 真ん中にいてください。ミネアさんは後ろを警戒してくださいますか?もし敵の気配がしたら、 大声で知らせてください。」
 ラグの作戦に二人はうなずき、歩いていく。
(勇者なんかじゃないって言うけど、リーダーシップは結構あるわね。頑張ってる、って事なのかしら?)
 マーニャはそう思索しながら、ラグの後ろを着いて歩いていた。少し足元が心もとないような そんな気がした時!
「へ?」
「きゃあああー」
 マーニャとミネア、二人の足元がぱかっと開き、二人は暗い下へと落ちていった。

 その声に気がつき、振り向いた時には二人の髪が、目に入っただけだった。
「マーニャさん!ミネアさん!」
 そう呼びかけて覗いてみても、底の様子は見えなかった。
(急いで助けなくちゃ!気絶しているかもしれない!そんなところを魔物に襲われたら!)
 そう思うが早いか、ラグは大急ぎで近くにある階段を下っていった。

 その先は、薄暗かった。ラグは息を切らせながら降り立つと、叫んだ。
「マーニャさーん、ミネアさーん、大丈夫ですかー、いたら返事してくださーい!」
 そう叫んでも響き渡るばかり。とりあえず落下地点と思われる場所に進む事にした。気絶してるにしよ、 怪我しているにしよ、その場所にいる可能性は高いと思われたからだ。
 ふと、先の曲がり角に、紫色の長い髪が横切ったのが見えた。
「マーニャさん?ミネアさん?」
(あの髪は…あの人たちだよなあ?気がつかなかったのかな?)
 そう思い、ラグは二人を追いかけた。先は運良く行き止まりになっていた。 壁の手前に二人の女性の姿が見える。
「マーニャさん?ミネアさん?」
 二人に駆け寄った。暗がりの中から現れたのは、姉妹の姿だった。
「マーニャさん?ミネアさん?」
「探したのよ…。」
 マーニャがボソッとつぶやいた。
「ああ、勇者様、怖かったですわ!私どうしようかと思いましたもの!」
 ふたりが言う。
「僕も探しましたよ、二人が落ちた時にはどうしようと思いました。」
(…?なんか、変だ…どうかしたのかな…ふたりとも。)
 ラグはそう思いながら二人に近づいた。そのとたん、二人は微笑んだ。
 最高の、邪悪な笑みで。

「そして、さよなら、ラグ。」
「永遠に、ですわ、勇者様」
 マーニャが、ラグに切りかかった。
「え?ええ?」
 ラグがとっさによける。
(どうしたんだ?二人に何があったんだ?)
 ラグは二人の攻撃をよけながら呼びかける。
「どうしたんですか?なんなんですか?やめてください!マーニャさん!ミネアさん!」
「ふふふ、姉さん、おかしいわね。勇者様ともあろう者が、あんなふうに逃げ回って。」
「ほーんと、まるで虫けらみたい。」
「なに言ってるの、姉さん。虫けらそのものじゃない」
「そうね、あははははは!」
 そう言って笑いながら二人は攻撃を繰りかえす。ラグはただひたすらよける。そして考えた。
(どうしたんだ!どうしたんだ!何があったんだ?マーニャさんとミネアさんは最初から僕を、殺す気で?)
「どういうつもりなんですか!どうして僕を殺すんですか!!」
「だあって、あんた見てると不快なんだもん。」
「そうよ、人の血を見るのって素敵だもんね。」
 そう言って二人はまたくすくす笑う。
 二人が武芸に長けていない事が幸運だった。師匠の腕には遠く及ばない二人のナイフとやりなら、ラグは考え事をしながらでも 何とかよけられる。
(どうして!どうして!どうすればいいんだ!僕が殺されるわけにはいかないんだ!仇を取らないといけないんだから。 じゃあ僕が二人を殺すのか?それしかないのか?)
 一瞬、剣の柄に手を添える。マーニャのナイフが迫る。ラグは身をそらしてよけた。
 剣を手に取り、二人を切る事はきっと簡単な事。とてもたやすい事。だけど。
 柄から手を離し、胸の鍵を握る。
(また、自分が生きるために、誰かを、殺すのか…?)
 この鍵は、自分の心が弱い証。自分の愚かさを示すもの。そして、そのせいで、みんなは死んだ。
(また…繰り返すのか?)
 それは自分への問いかけ。そして次の瞬間ラグは叫んだ。
 


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