「綺麗ですわね…。」
 灯台に灯った聖なる炎を見ながら、ミネアはつぶやいた。身を清められる炎というものがあるならば、 まさしくこれであろう。
「そんなことより疲れちゃったわ。あたしの呪文はほとんど効かないし!さっさと帰りましょ!」
 マーニャはご機嫌斜めだ。邪悪な炎を守っていた魔物が、炎の魔物だったのだ。炎の呪文を 操るマーニャには、多少苦手な相手だったようだ。
「そうですね、疲れました。港や海の様子も気になりますし。マーニャさん、まだ魔力は残ってますか?」
 ラグの言葉にホフマンが頭をなでながら言う。
「ちゃんとリレミトしてくださいね…あれは痛そうだったから…」
 塔の中で、どうやらトルネコを付け狙っていたらしいモンスターが、トルネコがいないことに気がつき、あせってルーラを 唱えたのを四人は目撃していた。…ここは室内。当然モンスターは頭をぶつけ、失神していた。
「…ホーフーマーンー。このあたしが信用できないのー?」
「まあ、とりあえずあのモンスタ―が間抜けで良かったですよ。そうでなければ コナンベリーが大変な事になっていたでしょうから。」
「そうですわね、ずっとあそこで失神していてくれればいいのですが…。」
 ラグとミネアがのんびりと話している間、ホフマンはただひたすらマーニャに平謝りしていた。 ミネアは苦笑いしながら、マーニャの脅しを止めた。
「姉さん、いいから帰りましょ?私も疲れましたわ。」

 僕は少しは強くなれたのだろうか?今、魔物を倒し、皆と楽しげに話す。 最初に魔物を倒した時の事は、よく覚えていない。ただ、生きることに必死だった事は覚えている。
 それが今、皆とこんなにも、楽しく話すことが出来る。ただ、足りない。 僕はまだ、本当に強いわけじゃない。だって、未だに心が開いている。楽しいけれど、 皆と一緒にいるのが寂しいけれど、なにか、自分には足りないような、そんな気がするんだ…

 ぐんぐんと、コナンベリーが近づく。空から見える海は、本当に綺麗だった。あの荒れた海が嘘みたいだった。
(この街に、僕の足りない何かが一つある。そんな気がする。)

「やってくれたなー!」
「お前らただもんじゃねえな!」
「ありがとうな!全部聞いたぜ!」
 ラグたちを迎えたのは、大歓声だった。マーニャは笑顔を振り撒きながら手を振った。 それに男達が口笛と歓声で答える。ミネアは微笑みながら、ホフマンとラグは目を丸くしながら 港へと歩を進めた。
「やってくれたのですね!ありがとうございます!」
 港の男達の中央に、トルネコがいた。そうしてラグの手を握り、ぶんぶんと振った。
「貴方達、強いんですね!私感激いたしました!」
 男達が、いや、町中の人たちがそれに同意した。まるで祭りのような騒ぎだった。 その中心が自分であるということに、マーニャ以外は信じられず、どきまぎしていた。
「ご存知でしょうが、私は魔物に狙われているのです。貴方達も船を捜していたとの事。 私の旅にあてはありません。もしよろしければ、私も一緒に旅をしてはいけないでしょうか? 貴方のような方々と一緒に旅をすれば、私も安心です。」
 トルネコは畳み掛けるように三人に話し掛ける。周りは人の山。そして異様な盛り上がり。 計算していたわけではないだろうが…断りにくい状況である。
 ミネアはおもむろに占いを始めた。そしてしばしの時が立ち…ミネアは姉に向かってうなずいた。
「いいわよ、しょうがないわね。一緒に旅をしましょう。あんたはどうやら、あたし達と 一緒に旅をする星回りみたいよ。導かれし者っていうね。」
「導かれし者…?」
 トルネコは首をかげていた。
 ラグは驚いていた。ミネアの言葉に。
(このトルネコさんも…導かれし者…自分の復讐に付きあわせる人なのか?…だって、この人には…)
「その事はあとで告げますわ。とにかくトルネコさん。これから、よろしくお願いいたします。」
 ミネアは頭を下げる。その台詞に皆が湧いた。それに答えるようにトルネコが叫んだ。
「皆さん!今日は私がとことんまでおごります!すでに酒場には話を付けてありますよ!貴方達は 必ず帰ってくる!そうしたらその日の酒代は全て私持ちだとね!」
 そう大声でトルネコは宣言した。周りの声が最高潮に達した。町の人達は歌い、叫び、大喜びで酒場に急いだ。
「やっるじゃない!じゃあ今日はとことんまで飲もうじゃないの!」
 マーニャは大感激をした。ホフマンもそれに答えた。  ミネアがため息をついた。それでも仕方ない、と姉を止めるのをあきらめ、姉について酒場に向かおうとした。
「あの、トルネコさん!」
 姉妹の足を止めたのは、ラグの声だった。
「なんですか?」
「トルネコさんは、どうして船を作ったんですか?」
「私は、旅をしているんです。見たことがない武器をすべて見て、世界一の武器屋になりたいんです。」
「トルネコさんは…凄い人だと聞きました。そんな風になっても、駄目なんですか?」
 素直なラグにしては、なにやら様子がおかしい、と三人は思った。だが、口は出さず、ただ見守った。
「もうひとつは…商人としての勘でしょうか?今動かなくてはならない、そう思ったのです。天空の剣と言うのを ご存知ですか?私は、それを探しているのです。」
 気が付くと、まわりには誰もいなかった。穏やかな海の音。それが5人を包んでいた。
「そうだったのですか…だからなのですね…トルネコさん、貴方が導かれし者なのは。導かれし者、とは… ごめんなさい、ラグ。」
 そう謝ったあと、ミネアは凛とした、占いの結果を、宿命を告げるその表情で、トルネコに告げた。
「勇者ラグに集い、世界を平和にもたらす仲間の事です。ラグの光を中心に、7つの光が集まります。 それがいつか一つになる。私も、姉さんもその光の一つです。そしてトルネコさんも。」
「違う!」
 鋭い声が、その場を支配した。
「違う、違うよ!トルネコさんは違うよ!!だってトルネコさんには家族がいるじゃないか! エンドールで待ってる、家族がいるじゃないか!」
 自分が望んでも、もう手に入らない望郷のもの。父を亡くした、マーニャとミネア。 友の信頼を失ったホフマン。だけどトルネコは違う。 なにもかも、持っている。自分が望むものを。それを持っているのに、どうして、どうして それを捨てるんだ?!
 心でそう叫び、そして、トルネコにつめ寄った。

「どうして…」
 ラグは、トルネコを見据えた。
「どうして家族がいるのに!家族から、離れるんだ!どうして旅になんて、出ようとするんだ!」
「私も最初はわかりませんでした。」
 戸惑いながら、トルネコは言葉を返した。
「だけど思うのです。私は家族がいるからこそ、旅に出るのだと。」
「…家族が…いるから…?」
 その言葉は、自分には理解できないものだった。
「今、世界がおかしいと、エンドールで店を出し、全てが満たされている私が、何故だかそう感じました。 そんな時、天空の剣の噂を聞いたのです。勇者のみが使えるという、その剣。それを探し出し、 真に正しい人に持たせなければ。私はそう思ったのです。それが私の二つ目の目標でした。」
「…」
 トルネコの言葉に意図を判るものは誰もいなかった。ここにいる人間は、ただ、自分自身に 必死な人間ばかりだったから。
 ただ、感じていた。この言葉は、とても大切な言葉だと…。
「ですけれど、私はもういい年です。あと少し商売さえ出来れば、例え世界が魔物に支配されようとかまわないじゃないですか? もしかしたら、それこそ勇者がほっといても世界を救ってくれるかもしれないのですから。 どうして私が動くのでしょう?…この世界にはネネが、ポポロがいるからです。私の大切な。 自分しかいないなら、世界なんてかまいません。ですが家族を守りたいのです。そのために私が動かなくては いけない…そう思ったから、私は旅に出たのです。…もちろん、それは私のわがままですが。」
 誰も、何も言わなかった。言えなかった。ただ、心に刻んだ。その言葉を。
 ラグが、ぽつりと告げた。
「僕は、自分が勇者なんかじゃないと思っています。僕の旅の目標は、ただの敵討ちです。みんなを殺した デスピサロが…憎いだけです。地獄の帝王なんてどうでもいいんです。 トルネコさん、僕と一緒に旅をして下さい。 もし天空の剣を見つけて、僕が装備出来ても、僕はそれをトルネコさんにお渡しします。 …そしてもしいつか、僕が本当に勇者だと相応しい、トルネコさんがそう思うようになったら… その時は僕に、その剣を渡して下さい…。」
 自分がそんな人間にはなれないだろう。そう思う。心に闇や憎しみがある限り。 みんなを助けられなかった、その事実がある限り。シンシアの最後の言葉が、判らない限り。 だけど、もし、トルネコにそう思われるような人間になれたら、その時は 誰よりも強い心を持つという、勇者の心に一歩、近づいたのかもしれない。


 塔の戦闘をまるっきりすっ飛ばしました。いいのかな、と思いましたが、 ここのメインは戦闘じゃないし、いっか、と思いました
 マーニャミネアが「同志」で、ホフマンが「友達」だとするなら、トルネコはお父さん、でしょうか? もしくは先達。ゲーム版ではあまりにも強引に仲間になるので、トルネコが仲間になる意義、というものを 強めてみました。実際トルネコがいなければ、旅も大分違っていたでしょうね。私はそう思います。<

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