「ふわぁぁぁぁー。」
 本当に久々に眠る事を楽しんだラグは大あくびをしながら甲板に出てきた。
「よく眠れましたか?ラグ?」
 笑いながらミネアがミルクを渡してくれた。
「ラグ、おはよ、もうすぐミントスに着くわよ。あーもう、こんな代わり映えしない風景 飽きちゃったわ!早く地上におりたーい!」
「マーニャさん、船なんだから当たり前だよ。退屈できるくらい何事も無くてよかったよ、本当。」
「そうですな、初めての航海で嵐にあっては、この船も可愛そうですからね。」
 甲板で軽い食事をしながら、語り合う。まぶしい朝だった。たった一つの心の闇が晴れた。 その事が世界を変えることが出来るのだ。
「あ、見て下さい!陸地が見えますわ!」

 まだ揺れているような、そんな感じをもちながら、ラグはミントスの地に降り立った。 体全体が、波にあわせて揺れているような気がした。
「ここが、ここがミントスなんですね!ついに、ついに来たんですね!」
 ホフマンは感激しきりだ。目を輝かせて、今にも飛び出しそうである。
「やっと着いたわね。あたし海、嫌い。ルーラだったらひとっとびなんだけど。」
「姉さん、行った事がない場所にルーラする時は、一人でやってね。訳のわからない場所に 飛ばされるのは嫌ですからね。」

 そうこう話している内に、すでにミントスの門前まで来ていた。
「ラグさん、マーニャさん、ミネアさん、トルネコさん!僕はここで、ヒルトンさんに弟子入りしたいと思います。 短い間でしたが、今まで旅が出来て嬉しかったです。…抜けさせて、いただけますか?」
「寂しいけど、それがホフマンさんの夢だったんだから、僕達は応援するよ!」
「もっともと、いろいろな事を語りたかったですが、若いものの夢を応援するのが、我々のようなものの 勤め。頑張って次代の商人を支えて下さい!」
「ホフマンさんにはきっと素晴らしい未来が待っていますわ。たくさんの人のお役に立てるような。私の占い当たるんですのよ。 頑張ってくださいね。」
「頑張んなさいよ、あんたなら出来るわよ。」
 ホフマンは、すでに涙を流していた。短い間だった。だけどその日々は、怠惰なそれまでの日々を補って余りある 時だった。
「いつか、困った事があったら、僕が必ず力になります。皆さんといられて良かったです。ありがとうございました。 パトリシアはラグさんのことが好きみたいですから、これからも旅のお供をさせてあげて下さい。それでは、またお会いしましょう!」
 そういうと思い切りよく、駆け出していった。4人はその背中を見送った。
「ホフマンさんの夢がかなったことは嬉しいですけれど…寂しいですね。」
 ラグはそうため息をついて、パトリシアを撫ぜた。パトリシアはラグに頬をよせ、擦り寄った。
「これからもよろしく、パトリシア。」
 パトリシアは、寂しげにそして嬉しげに、一鳴きした。

「にぎやかな街ですわね。」
「ふむ、商人の活気もなかなかですね。」
「おっきな宿屋ねえー。王様でも住んでるんじゃないの?」
「すごいですね…エンドールのような都会でもないですけれど、それでも十分にぎわってますね…」
 世界というのは広いものだ。新しい町に行くたびにいつも違うものが、違う人が見える。 代わり映えしない昔の生活にくらべ、今は目がさめるたびに違う風景が見えるのだ。
「あ、あっちに人だかりがあるわよ!なにかしら?」
 そこにはちょっとした台座があり、机、椅子が並んでいた。
「学校でしょうか?ポポロもそろそろ学校に行かさなくてはいけませんな。」
 しみじみとそんなことをつぶやくトルネコ。目には息子の姿が映っているのだろうか?
「あれ?ホフマンさんじゃありませんか?ほら、あそこ。」
 椅子の一番後ろに座り、ひたすらに前にいる老人の話を聞いていた。とても熱中しているようだ。
「ならあれが、ヒルトンさん?なんだか普通のおじいちゃんに見えるけどねえ…。」
 マーニャがじろじろと授業風景を眺める。ミネアもじっと見たあと、笑った。
「眠ってらっしゃる方もいらっしゃるみたいですわね。ホフマンさんより熱心に聞いてらっしゃる方はいらっしゃらないみたいですわ。」
 商人風の男達。年齢はバラバラだ。だが皆、誰かと話していたり、眠っていたり。その中でホフマンは一人だけ熱心に 老人の話を聞き入っていた。ラグはなんだか誇らしくなった。
「確かあの方が、地図を持っていらっしゃる方だとか。どうしましょうか?」
「お休みがあるはずですわ。その間に少し話し掛けて、地図を分けていただきましょう?」
 ミネアがそう提案したその時、ヒルトンが壇上から降りてきた。ラグは駆け寄り、思い切って話し掛けた。

「あ、あの、貴方が…世界に詳しいと言う…ヒルトンさんですか?」
 老人はじろじろとラグをみつめた。まるで穴が開きそうだった。その眼光は鋭く、見られただけで押されるようだった。
 ラグは少し押されながらも、魔法を教えてくれた先生のことを思い出していた。はじめて魔力を 見極める時、先生もこんな目をしていたような気がした。
「…少しは出来るようだな。そうだ、わしは世界に詳しいヒルトンじゃ!」
「あ、あの…僕達お願いがあってきたんですが…地図が欲しいんです。旅をするのに。それで世界に詳しい ヒルトンさんにお願いしようと思って…」
 するとまた、ヒルトンはラグをじっと見、マーニャたちもみつめる。しばらくの後、ヒルトンが口を開いた。
「…商売に一番大切なものとはなんじゃ?」
 いきなりの質問。ラグたちはその展開についていけなかった。
(えーと…商売に大切なもの?…なんだろう?信用かな?でも一番大切…駄目だ、僕にはわからないや。 トルネコさんにはわかるのかなあ?)
 チラッとトルネコを見ると、トルネコも真剣に考えているようだ。マーニャは何か言おうとしたようだが、 ミネアに押さえ込まれている。
(しかたない、判らない、といってあやまろ…)
「よくわかったな!そうじゃ、沈黙は金じゃ!うむ、やはりわしの見込んだ通りだったな!うむ、ではこの地図を進呈しよう。」
 それは一枚の世界地図だった。ここからそう遠くない場所に、大きな×印がある。
「…これは?」
「このマークはな、ワシが解けんかった最後の世界の謎じゃ。おぬしに託そう!たのんだぞ!」
 そう言うと、ヒルトンはまた壇上にあがって行った。

「…ラグ、あんた、判ってて黙ってたの?」
「いえ…ぼくわからないと言おうとした時に…」
「どうしましょう…やはり言った方が良いのではないでしょうか?」
「黙っておきましょう。それが沈黙は金なんですよ。」
「そ…そうですわね…トルネコさん…さすが…商人ですわ…」
 気軽に言うトルネコの言葉に、ミネアはどっと疲れたようだ。
「もう、あたし疲れちゃったわ。次の町に行くのは明日でもいいでしょ?ここの宿屋綺麗そうだし、 今日はここで泊まりましょ。」
 まだ先ほどの衝撃に立ち直ってなかったか、ラグは呆然としながら言った。
「…そうですね…そうしましょう…。」
 その決定が運命に導かれていた事、それはすぐに判明する事になる。

 
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