「疲れましたね…」
「まあ、こうでもしないと、簡単に取られてしまうんでしょうが…それにしても疲れましたな。」
「…凄い迷宮でしたね。」
「なんなのなんなの!あの洞窟は!ソレッタの王様は性格ひねくれてるんじゃないの!あのすべる床が張り巡らされた 場所!落とし穴!もうもうなんなのよ、一体!」
 三人が疲れ果てているのも、マーニャが怒り狂っているのも無理はない。床じゅうに張り巡らされた すべる床をきちんと把握して行動しなければ、宝箱は取れない上に、落とし穴に落ちてしまう仕掛けがあったのだ。 しかもその配置は複雑で、四人を散々困惑させた。
「種はとったし、とにかく帰りましょ。」
 と、マーニャがルーラを唱えようとした。
「けれど、アリーナさん、いなかったですね…」
 帰りにリレミトを使わず、アリーナを探しながら帰ったのだが、アリーナの姿も、他の三人の姿も 見えなかった。
「それに…例えソレッタに帰っても…。」
「そうですな、種ではどうしようもありませんな。必要なのは根っこです。」
「ええ、根ができるまでどれほどかかるでしょうか…」
 不安の影が顔を曇らす。それを抑えるように、ラグは言った。
「考えていてもしかたありません。僕たちはできるだけのことをしましょう。」
 不安が消える。きっとみんな、誰かにそう言ってもらいたかったのだろう。 もちろんラグもだ。それでも誰かじゃなく自分で言える。それがラグなのだ。
「判ったわ、ラグ。」
 そう言うとマーニャはルーラを唱える。ソレッタへと。


変わらない顔色。呼吸は荒い。
「ごめんなさい…私には…見つけられなかったの…もう、どうしようもないの…」
 クリフトの枕もと。アリーナは泣きながら謝る。ただ、泣く事しかできなかった。見つからなかった 最後の希望。クリフトは、ただ体を弱らせていくのみだ。
「私にもっと力があったら・・・皆、皆私のせいで…いなくなっちゃうの・・・」
 自分は無力だ。いくら武芸に通じていても、いくら王族でも、自分を助けてくれた人を 助けられないなんて、そんなのは無力なのだ。
「…お願い、クリフト…死なないでちょうだい…。」

「そ、それは…もしや種ですか!!」
 王様の前へ種の袋を差し出すと、王様はその袋を震える手で開けた。
「ああ…これで、これでこの国は…。ありがとうございました。ところで、皆様はどうしてこれを?」
「実は、ミントスに病人がいるのです。それでパテギアの種なら治るかと思いましてな…。」
「とても重い病気なのです。それで、もうこれしか…。」
 トルネコとミネアが沈痛に訴えると、王様は頷き、そして王宮へ走っていった。

 姫様が、泣いている…。
 自分の大切なひとが。誰よりも、大切な人が。
 力ない自分を嘆きながら、ゆっくりと手を伸ばす。
「…な…か…ないで…くださ…い…ひ…」
 自分は大丈夫ですから。
 姫が泣いている。泣きながら、自分に向かって何かを言っている。
 だけど、もう聞こえない。愛する姫の声がどんどん薄れていく。
 目も、見えない。もう、何も…見えない…。

「どうしたのかしら?王様?どこいったのかしら?」
「いつごろ取れるか聞かないと…クリフトさんが…」
「お待たせしました。ちょっと待ってて下さい。」
 気がつくと王様は汗だくになって戻ってきていた。そして…
「何、この呪文、聞いたことないわよ」
「…回復の呪文に似てますわ…けれど…。」
「種に呪文をかけて、一体何をするつもりでしょうかな?」
 王様は袋から出した一掴みの種に呪文をかけた。そして、蒔いた。すると、蒔いた場所から 色とりどりの花が咲き乱れ出した。
「これが、パテギアです。」
 王様はそう言うと花を引き、根だけ千切って渡した。
「これは、一体…?」
 ラグが不思議そうに聞く。17年間山の奥で暮らしてきた少年だ。植物を育てる事がどういうことか 肌で感じて育ってきたのだ。どんな植物でも、これはおかしい。
「…これが、この町からパテギアが滅びてしまった理由です。」
 王は重々しく告げる。
「あの呪文は…成長増進の呪文ですのね。」
「ええ。あるとき、この国の魔道士がこの呪文を開発し、この国は栄えました。ですが、あるときから パテギアに種が実らなくなっていったのです…どんどんと。その時、魔道士は既にいなくなってました。 逃げたのでしょう。」
「利益のみを優先させると、とんでもないしっぺ返しが来ますからな。全ての事に 気を配らないといけません。」
 トルネコが言う。それは商人として今まで生き抜いてきた人間にしかいえない重みのある台詞だった。
「ええ、まったくそのとおりです。我々もそれに気づき、この先は呪文を使わず自らの手で、野菜を育てていこうと思っていました。 ですが、貴方達は緊急に必要とのこと。我々に健康なパテギアをもたらしてくれた恩人でもあります。 ですから、最後に使いました。ですが、お願いです。」
 続きを言わせず、ラグはうなずく。
「ええ、わかりました。この事は誰にも言いません。呪文の事も。ありがとうございました。」
「お急ぎください。…大変なのでしょう?…回復をお祈りします。」
 王様は、ゆっくりと手を振った。

 かすれたはずの目に翠の光が見える。自分はついに、神の身元まできたようだ。
 クリフトが神官として何よりも大切に思っているはずの神の光も、今のクリフトには何の救いにもならなかった。
 今あるのは、後悔の念だけ。自分の主君に対する、申し訳なさが、ただひたすら、クリフトの胸を突く。
 最後までおつかえする事ができなかった。最後に、姫を泣かしてしまった。
 想いを、伝える事が、出来なかった。
(申し訳ありません、アリーナ姫。私は…貴方を…)
 そう言おうとしたとき、聞きなれた声が、クリフトの耳に入ってきた。
「馬鹿もん!いつまで寝とるか!!!」
 パテギアの威力はすさまじかった。煎じて口に入れたとたん、クリフトの青白い顔色に 赤みが差してきたのだ。
「良かった…。」
 アリーナはそう言ったとたん、床にへたり込んだ。
「ひ…!大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ、ブライ…。」
「後はわしに任せてお休みください。」
「ラグさん、マーニャさん、ミネアさん、トルネコさん。 …ありがとう…本当に…もし良かったら、あとでゆっくりお話しましょう?」
「ええ、ゆっくり休んでください、アリーナさん。」
 そう言うと、アリーナは去っていった。そして姿が見えなくなったとたん、ブライは叫んだのだ。クリフトに向かって。
 その声は怒っているように聞こえる。だが、知っていた。嬉しさと優しさが入り混じった怒声であった事が。  アリーナも、ブライも、そしておそらくクリフトも。三人が三人ともお互いをとても大切に思っているのだ。
(村の皆…僕を送り出すときに…どんな声を出していただろう?)
 ラグは、起き上がるクリフトを見ながら、そう思った。

   クリフト復活です!一応今回の見所はクリアリでしょうか? しかし…「こんなのアリーナじゃない!」って言う意見が怖いですね。
 私的アリーナはゲームブック三分の二。小説版三分の1って所でしょうか。 いきがってもいない、普通の女の子。ただそこにカリスマがあるかなー?って感じで。

 パテギアの設定はオリジナルです、あしからず。だってあの成長は異常でしょ。仮にそれが正常だと するならどうしてパテギアは取れなくなったんだろう?と考えた結果です…しょぼい設定ですが(笑)

 さて、人数が一気に増えます!ちゃんと書ききれるように頑張りたいと思う今日この頃です。


戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送