星の導くその先へ
〜光となる。〜







 陰鬱な空気立ち込める。因縁のこもるこの城。
(ようやく、このときが来たわ。あいつを倒す為の、時が)
 だけど、不思議なのだ。なぜか、何も感じない。怒りも、苦しみも…ただ淡々と城を眺めていた。何の 感慨も起こらない自分が不思議だった。
「姉さん…やっと、仇が討てるのよね…」
 ミネアは父と、オーリンのことを思い、怒りを悲しみを、心に抱えているようだ。
「そうね…。」
 けれど自分は、心のどこかが冷めていた。自分でも不思議だった。何故だろう?以前来た時は 憎くて憎くて、今だってバルザックのことを思うと、殺したい、そう思うのに。この城に 対して自分は何にも感じないのだ。
「どうしたの?姉さん。」
「なんでもないわ、ミネア。開けて頂戴。」
 ミネアも、そして他の皆も、マーニャの態度は予想外だったようだ。ミネアは鍵を取り出し、 扉を開けた。
(あの時はオーリンが開けてくれたのよね…お父さん、オーリン、今仇を討ちますわ…)


 探し物は、二つ。まるで片腕のような友と、死した友が残した、遺言。それが今のライアンの、生きる理由だった。
 友人の遺言。それは勇者。勇者を探し出し、そして手助けをする。今までただ空虚に生きてきた自分に響いた言葉。 自分はそのために生まれてきた、そう思った。
 もうすぐ逢える。お告げの巫女はそう言った。それが、何よりも嬉しいような気がするし、 何か、寂しいような気もする。
「何だ、お前は」
 捕らえられている最中にもかかわらず、おびえる様子を一向に見せない戦士に、キングレオの兵士は、気分を害したようだった。
 しかし怖くは無い。自分がこの程度に遅れをとるわけでもない。そして何より。
「お前には判るまいよ。」
 ライアンはそういうと、兵士の手を振り切り、剣を携えた。
(もうすぐ来る。光が)


 城内は静まり返っていた。皆の心臓の音が響くようだった。
「こっちよ。こっちの隠し扉に王がいるのよ。」
 マーニャは皆を導いた。廊下を曲がる。そこに一人の戦士がいた。
(敵!…ううん、多分…違うわ…)
 感覚が鋭くないマーニャにもわかった。空気が違う。この悪しき城の中、負けることなく 自分自身の凛とした気を放つ、そんな戦士だ。

 足音がする。ライアンは剣を構え…そして降ろした。
(足音が軽い…この城に連れてこられた女だろうか?)
 この荒れ果てた城には、女が信じられぬほどたくさんいた。…これはある実験の為に連れてこられた者達だと言う。
 ライアンは女は嫌いではない。請われれば誰とでも、何度でも付き合ってきた。だが。
(ここの女の目はにごりきっている…)
 ここにとどめ置かれる為か、贅沢をし、そして何も考えずただ、生きているもの。美しく着飾っていても、中は どろどろした汚いもの。それを気持ち悪く思うのだ。もとより女に夢中になった事ないライアンには、 むしろ吐き気がするほどだった。
(しかし…女がこの階に何用で…しかも…全部で七人。中には使えるものもいるようだが…)
 足音を聞き、気がついた。女だけではなく、ここは兵士すらもにごった目をしていた。だがこの足音には その様なものたちでは出せない足さばきを感じさせた。

 紫水晶の髪。小麦色の肌。そして…美しい眼。最初に目に入ったものは。 この城では見られなかった美しい瞳だった。

「あんた・・・誰?ここの兵士じゃなさそうね。」
 うしろから、ミネアが追いついた。そして、前の戦士を見る。
「我はライアン…わけあって旅をするものだ。…そなたは?」
 他のメンバーも追いつき、そしてライアンに目を向ける。
「…あたしたちは…ただの旅の者よ。ここの主の大馬鹿者にちょっとした用があってね。」
「ライアン…では、貴方が!」
 ミネアはライアンを見て判った。その空気は他の皆にも共通する何かを感じる。
「貴方が…ライアンさんですか?」
 ラグが前に歩み出た。そしてライアンの前に出る。
「僕はラグといいます。ミントスの宿で、従業員さんが心配してらっしゃいました。…無事なようでなによりです。」
 だが、ライアンにはその言葉は届いていなかった。翠の髪が眼をかすったとき、気がついたから。これが 光だと。
「…お告げ所に言われたとおりの服装!もしや!今まで探しておりました!勇者殿!…我はバドランドの王宮戦士、ライアン。 勇者殿、よろしければ貴殿の旅のお供をさせていただきたい。」
 そう言いながら、ひざまずいた。ラグはあせって手を振った。 もう慣れていたとはいえ、いくらなんでもオーバーすぎる。
 ミネアはそれを見て、なぜか懐かしくなった。
(この方は確かに、導かれし者だわ…けれど、なんだかあの生真面目な所が…オーリンに似てるわ…)
 たくさんの思い出に触れたからだろうか、それとも年のころが似ているからだろうか、 どことなくオーリンを思い出すのだ。
 ラグは息せきこんで言う。
「…ぼ、僕はそんなに偉くありません!ひざまずかないでください!立ってくださいよ!」
「いえ、勇者殿が我の同行を許して下さるまで、いつまででも頭を下げます。勇者殿、是非我を仲間に!」
 さすがにこのリアクションは初めてだった。ラグは言った。
「…僕は世界平和の為に旅をしているわけじゃないですし、自分が勇者だと言われても、よく判らないんです。 それでもいいですか?」
「むろんのこと!我は…貴方の噂を聞いた時、これが自分のなすべき道だ、そう感じだのです! 我は勇者ラグについて行きます。それが我の道です!」
 ラグはライアンに真似をして、ひざまずいた。
「ラグって呼んでください。それで、もし良かったら僕のほうこそお願いします。僕と一緒に 旅をして下さい。そして僕に色々な事を教えて下さい。…それと…そんなに かしこまらないで下さいね。」
 そう言って笑った。ライアンは顔をあげた。
「かたじけない…」
「だからかしこまらないで下さいって!」
 ライアンは立ち上がる。
「我…私はライアン…これからよろしく頼む。私は皆の力になれるよう、全力を尽くそう。」


 ひとしきり、挨拶が終わる。そして、マーニャが壁の隠しボタンを押すと、壁が開き、隠し部屋への扉が開いた。
「…いきましょう。ミネア、みんな。」
「ええ、姉さん…ついに、この時が来たわね…」
 そして、中に入ると一匹の魔獣が待ち構えていた。それは、バルザックが進化の秘法を使った時の姿に良く似ていた。
「おぬしら、何者だ?皆の者!曲者じゃ!」
 魔獣が叫ぶ。すると兵士が集まってきた。その眼はにごり、様子はとても正気だとは言いがたかった。
「ここは私に任せて敵を!」
 ライアンが叫ぶ。
「マーニャ殿、ミネア殿、心置きなく仇を討ちなされ!」
「姫は三人のサポートをお願いします!」
「こちらは大丈夫です!早く仇を!」
 そして近くにいたトルネコやブライ、クリフトもそれに参戦した。


「…悪いけど、雑魚には用はないのよね。」
 マーニャは軽口をたたく。魔獣は笑った。
「ほほう、我を雑魚とほざくか。うぬ?おぬしらには見覚えがあるぞ?」
「あんた、バルザックじゃないでしょ?」
(あたしはそれを知っていた。判ってた。だからこんなに冷静だったわ。この城に入ったときから。 あいつの気配がしないもの)
 三人がマーニャを見た。そしてミネアはその後、魔獣を見た。 よく見ると、オーラやしぐさ、そして眼があのときのバルザックとは違っていた。…ならば。
「あなたはキングレオですわね?」
「そう、我はこの城の王、キングレオ!…おぬしらはエドガンの娘だな? まんまと逃げ出しおって。その上殺されに舞い戻るとは愚かな奴め。…どうやって逃げ出した?」
 あの時を思い出す。…今あの老人はどうしているだろうか…
「貴方のお父上が助けて下さいましたわ。」
「そんなことより、あんたに用はないのよ!バルザックはどこなの!」
 声を切り裂き、マーニャが叫ぶ。魔獣キングレオは大声で笑った。
「我に勝てば教えてやろう…真の王者たる我に勝つことが出来ればな!!!」




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