マーニャとミネアは強かった。もちろん今までもそれを知っていた。だが今日の 二人はいつもとは違った。
「あんたを倒さないとバルザックは倒せないのよ!」
「…貴方もオーリンを殺したんですわ!私は絶対に許しませんわ!」
 二人の呪文が花を咲かす。その隙を狙い、アリーナの素早い動きとラグの力強い剣が血しぶきを あげる。
「同じ王族として恥ずかしく思うわ!キングレオ!王は支配するものではないのよ!私が教えてあげるわ!」
「…貴方には恨みはありません。ですけれど、人を傷つけたこと、許せなく思います! そして僕の、仲間の為に!」

 気がつくと、キングレオは血まみれになっていた。6本あった腕のうち、4本はすでに動きがぎこちなく、 2本は既に切られていた。
「…我が…負けると言うのか…?バルザックめ…だからあれほどこの者たちを、生かすなと…言ったものを…」
(やっぱり…あの時、私たちを助けてくれたのは…バルザックだったのね…)
 ミネアは確信した。バルザックは、あのような姿になっても、マーニャを愛していた事を。 そして、それでもあいまみえなければならないことを。
「ただの人間に、我が倒せるわけがないのだ…」
 そして、ラグを見た。実力に見合わぬ微弱な気を持ちながら、もっとも清浄な気を発する、ラグを。
「もしや…そなたは…勇者!」
 そう喘いだキングレオに、ラグはきっぱりと言ってのける。 「違います。…少なくとも貴方が負けた理由は僕じゃないです。」
「そんな事より、バルザックはどこにいるの!」
 そう、この女性だ。マーニャが、そしてミネアがいたからだ。この戦いに勝てたのは。
「バルザックは…バルザックは…あるお方から…城を賜り…あやつは…サントハイムを…選んだ… あやつは…すでに…人を捨てた…」
 そういうと、キングレオは沈黙した。そして徐々に魔の気が薄れていく。 外側から少しずつ体が崩れていった。その中側には 血まみれの一人の男性が倒れていた。
(サントハイム…エンドールにいた時からひかれていた国…そう、だったの、あいつがいたからなのね…)
 マーニャは思い出す。何故初めにサントハイムに行きたかったか。あいつの国。全ての始まり。


「キングレオ王!」
 同じく血にまみれた兵士が、倒れている男に駆け寄った。
「みなさん、大丈夫ですか?」
 トルネコが、こちらに向かってきた。
「操られていただけのようだったからな、致命傷はつけずに置いたのだが…これは、どういうことだ?」
 ライアンの疑問に答えるものは誰もいなかった。そんな中、アリーナの顔色がだんだんと白くなっていった。
「姫様!どうなされました!」
 クリフトはアリーナに駆け寄った。そして体を支える。
「…サントハイムに…魔物がいるわ…お父様の…私の国に…」
「姫様…」
 大好きな国だった。父がいて、皆がいて。花は咲き、皆笑っていた。たくさんの思い出、 たくさんの幸せ。…その全てを、魔物が踏みにじっている!
「姫…大丈夫です…王様は…きっと無事です!」
「そうじゃ、姫様、その魔物を倒せば、きっと王は戻ってまいりますじゃ。落ち着きなされ」
「そうね…そうよね…私がしっかりしないといけないんだもの。…ごめん、平気よ、クリフト、ブライ。」


 血まみれになった兵士は、キングレオ王をかばいながら言った。
「お怒りのほどはよく判ります。ですが、勝手な事を言って申し訳ありません。この王を裁くのは我々でありたいのです。 血を重んじ、王に償いをさせるか、それとも死をもって償われるか… わかりません。ですがこの方もあの魔の者たちに逢うまでは温和で賢い王だったのです!」
 どうかお許しください、そう頭を下げる。マーニャとミネアはため息をついた。
「あたしは…バルザックさえ倒せればそれでいいわ…ミネア、あんたは?」
 オーリン。思い出すと今での心の中が、暖かく…そして苦しくなる人。だから…
(そのオーリンに恥じない生き方をしたい。オーリンは、きっとキングレオ王を恨んではいない…)
「かまいませんわ…。」
 まだ心が痛いけれど、ミネアはそう言った。
「僕…馬車の薬草とってきます。皆さん、傷が深いようですから。」
 ラグはそう言うと城の外へ走り出した。


「…ラグさん…ラグさん…でしたよね?!」
 城の庭。そこに話し掛けてきたのは、あの吟遊詩人ホイミンだった。
「あ、ホイミンさん…」
「ライアン様には会えましたか?ご無事でしたか?」
「…ホイミンさん…はい、ライアンさんは元気でしたよ!…とても頼もしい方です。」
 ホイミンはそれを聞き、ほっとしたようだ。ふっと息を吐く。
「ライアン様のご無事をお祈りしています。…ライアン様によろしくお伝えくださいませ…勇者様。」
「ホイミンさん!…ライアンさんには会っていかないんですか?」
 どうして自分が勇者と呼ばれるのか判らなかった。ライアンが勇者を探していたとはいえ、どうして自分が その勇者だと思ったのか聞きたかった。…だけどそれより大切な事。
「ライアン様には、目標がありませんでした。あれほどの実力がおありになった方なのに、ただ漠然と生きてらっしゃた、 そうおっしゃってました。…ライアン様はやっと生きる意味への道しるべがつかめたのです。…僕も頑張ります。 いつか、僕もライアンさんに恥じない道が開けたら、その時きっと会えると信じておりますから…」
 そう言うとホイミンは城を去った。ラグは、ただ、その背中を見送った。


「ホイミンが!?」
 キングレオ王と兵士の治療が1段落し、城内を出た。その庭でようやくラグは、ライアンにホイミンの事を話した。
「もう一度聞かせて下さい!ホイミンが…」
「はい、ここでホイミンさんはライアンさんによろしくと言っていました。自分もライアンさんに相応しく なったらまた会おうと。」
「…ホイミンは、どのような格好を?」
 ライアンは確認するように聞く。ラグはわけがわからないなりにも答えた。
「…多分吟遊詩人の格好だと思います。」
「なかなかの美男子でしたよ。声も美しかったですな。」
 そこにトルネコが付け足す。ライアンは目を丸くした。
「そうか…あやつ…夢を叶えたのか…」
「夢…吟遊詩人になられるのが夢だったのですか?」
 ライアンのつぶやきにクリフトが尋ねる。ライアンは誇らしげに笑った。
「…ホイミンは、私と会った時にはホイミスライムだった。人間になるのだと、わずかな間、旅をした。 …離れ離れになってしまい、不安に思っていたが…そうか…」
 その言葉を聞いた時、皆が絶句した。怒りに燃えていたマーニャも、故郷を思い 落ち込んでいたアリーナもだ。
「あ…あの…美形のお兄さんが…ホイミスライムーーー!」
「そういえば、古い友人が…」
「スライム…でしたわよね…」
「けれど、その様な事がありうるのじゃろうか?」
「神が起こした奇跡なのでしょうか…」
 仲間たちが口々に言う。ラグはホイミンを思い出していた。
(ライアンさんを心から慕っていた方。実現できないような夢を自分の力で叶えられた方…)
「すばらしい…方ですね…」
「ああ、自慢の友人だよ。」
 ライアンは笑って言った。
 その顔は、どこか父に似ていると、マーニャは懐かしく思った。

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