トルネコ、ブライ、クリフト、ライアンが玉座の間に昇ってきた。
「姫様!大丈夫でしたか!?」
「王は、魔物はどうなったのじゃ!?」
 クリフトとブライがアリーナの元へ駆け寄る。この二人も…いや、ライアンもトルネコも ぼろぼろだった。さぞや下でも死闘を繰り広げていたのだろう。だが、そんな事を 見せることなく、ブライもクリフトも、アリーナのことを心配していた。
「お父様の場所に座っていた魔物は退治したわ。だけどお父様は戻ってこなかった。 だけど、大丈夫よ!どうやらデスピサロが黒幕みたいね!そいつを倒せば今度こそ、お父様は 戻ってくるわ!」
 そう明るく言う。クリフトも、ブライもとりあえずは納得したようだった。
「大丈夫か?マーニャ殿?」
 ライアンが、いぶかしむようにマーニャを見た。マーニャは不思議そうな顔をして、即座に答えた。
「何の事?大丈夫よ?怪我なんてないわよ。」
「…そうか、ならば良かった。」


「そういえば、さきほど宝物庫に気になるものを見つけたのですよ。」
 トルネコが話を切り出した。
「気になるもの?それはなんですかな?」
「不思議な杖と、不思議な笛です。」
 トルネコはそう言って、魔物にあらされた宝物庫へ向かった。そして宝箱を開けると、そこには 不思議な魔力を感じる笛と、そして奇怪な形の杖があった。
「杖の方は…マグマの杖ですね。マグマを導く魔力を感じます。…こちらはあやかしの笛。なにやら魔力が篭っているようですが… 使い方は分かりません。」
 鑑定を終え、トルネコは皆を見た。
「ねえ、ブライ、クリフト。持っていってもいいわよね?こんな事態ですもの。何かの役に立つかもしれないわ。」
「そうですな。かまわんじゃろう。」
「ええ、きっと王様もそうなさるようにとおっしゃると思いますよ。」
 二人の同意を得て、アリーナは袋に入れた。少し傾いた日が、宝物庫を照らしていた。

 マーニャは、ラグの顔を、そっと覗き込んで言った。
「ねえ…ラグ。あたしたち、コーミズに行きたいんだけど、かまわないかしら?」
「父の墓前に、報告に行きたいんですわ…よろしいでしょうか?」
「かまいませんよ…でも、おふたりはどうなさいます?…これから…」
 ラグためらいながら、二人にそう聞いた。二人は、もう本懐を果たした。父の仇を討った。…それに心の傷がある。このまま、 旅を終わらせるのだろうか?
 勝手な話だが、ラグはそれを残念に思っていた。いや、ラグだけでなく他のメンバーもだ。この旅に、この姉妹… いや、それぞれがすでに欠かせない仲間となっていたから。だけど、無理強いは出来なかった。 あの姿を見ていれば、なおさらだった。

 ミネアはようやく涙を止めながら、ラグに近寄った。
「ラグ…これを、お渡ししておきますね。」
 ちゃり…と言う音と共にラグの手の中に収まったもの…それは魔法の鍵だった。
「こ、これはミネアさんの大切な物じゃ…まさか!」
 思い出の品に?そう続けようとしたラグの言葉をミネアは遮った。
「…大切な物ですわ。それはお父さんの形見。私達はこれからお父さんに 会いに行きますから必要ありませんわ…オーリンは生きていましたから。」
「父さんの前で、父さんの形見持っててもしかないからね。…それはラグに預けとくわ。ちゃんと帰ってくるから、それまでね。」
 マーニャはウインクしながらそう言った。ミネアもうなずく。
「進化の秘法も父の形見のようなものですわ。それを悪用させるわけにはいきません。 進化の秘法から全てが始まったのなら私たちはそれを止めなければなりませんわ。」
 ミネアのその言葉に、マーニャも続けた。
「そうね、あれは父の遺産であたしが受け継ぐものよ。…あたしは あれをこの世から消し去るわ。…それに、あたしはデスピサロを許さない。あたしはデスピサロを、討つわ。」
(バルザックを実験台にした、デスピサロを…)
 心の声は聞かない。自分の心の声なんて、聞こえない。聞いてはいけない。自分に、バルザックを討った 自分にそんな事、思う資格はないから。
「ありがとうございます!」
 ラグはそうお礼を言い、鍵をしまった。皆もほっとしたような顔をした。
「行ってきてください。僕達は…」
 そこで言葉を止めた。どうすればよいだろうか?自分はここの事はさっぱりわからないのだ。
「サランの街で待っていたらどうでしょう?隣りの町なんですよ。」
 ラグにクリフトが助け舟を出す。サランの街はここからすぐだ。魔物で荒らされたこの城で待つよりもずっといいだろう。
(…それに、今の姫にここにとどまる事は…きっとお辛いでしょうから…)
 いつもの顔をしているアリーナをクリフトは見た。そしてその顔に少し影があることも、クリフトは気がついていたから。
「そうですな。サランはここからすぐじゃ。わしらはそこに行っていよう。」
「では、宿屋で待ちましょうか。」
 そう快く言う仲間たちに、姉妹は礼をいい、そしてルーラを唱えた。二人は空を越えていった。

「じゃあ、サランに行きましょうか。」
 二人を皆で見送ったあと、ラグは皆を見、そう言った。
「おお、忘れておった。すこし用があるから、先に行ってはくれんかの?クリフト、道案内を頼むぞ。すぐに追いつくからの」
 返事も待たずに城の中へ入っていく。
「大丈夫でしょうか?」
 ラグはそれを見ながら言うと、ライアンはうなずいた。
「とりあえず魔物は全て排除した。だからブライ殿一人でも大丈夫だろう。私たちは宿の方に行っていよう。」
「そうですね、久々にサランの街で神にご報告したいですし。」
 クリフトはせかすように言う。他の人間もうなずき、城を出た。
(またね、私の城…いつか、帰ってくるから、その時は…いつもの顔で迎えて頂戴…)
 一度後ろをふりむいて、アリーナは心でサントハイム城に呼びかけ…そして笑顔でサランに向かった。 昔と同じように。ただ違うところは、帰る場所がない事、そして仲間が増えた事だった。

 暗く冷たい廊下。慣れた場所も、魔物の巣窟だったとあっては、まるで異世界のように感じられる。
 次にここに来るときは、きっと元のサントハイムに戻ったときだろう。そう思いながら、やがて一つの絵の前に着く。
 緩やかな栗色の髪を持つ、美しい女性の絵画だ。
「必ず、必ず取り戻しますぞ。元のサントハイムを。貴女の…愛する人を。そして守ります。貴女の忘れがたみを」
 ブライは、その絵の瞳をじっと見つめながら、ゆっくりと言った。
 その顔は、アリーナにそっくりだった。ブライの、生涯たった一人の想い人。我が主君の 妻。主君が結婚相手にと連れてきた、その時に一目ぼれをした人。
 クリフトとアリーナを見ていると、ブライはその事を思い出す。けして実らぬ恋を抱いていた昔を思い出す。
(じゃが、あやつは決して実らぬわけではないぞ…もっとも今のままのクリフトでは、まだまだじゃがの…)
 じれったく思う、昔の自分を重ねて。そして、自分が育ててきた大事な姫を、半端な男には譲るまい、 そう思う心もある。そして、自分の想い人の忘れがたみを、そう簡単には渡すまいと思う。絵画と見比べる。
「本当に似てこられたものじゃ…もっとも、性格はどうやら王に似られたようじゃがの…」
 帝王学や武芸をたしなみ、そしてマナーや礼儀作法を嫌う…それは昔、苦戦させられた王そのままだった。
 生涯の忠誠を誓った方と、そして想い人。その二人の子供を、今守れぬ二人の為に、必ず守る。ブライはそう思っていた。
 もう一度、絵を眺め…そして一礼すると、足音を響かせながらサントハイム城を後にした。


 バルザック編でした。完全にマーニャが主役でしたね…そうなる予定だったんですけれど。
 この展開は、大体自分がPSでバルザックを倒す前からそうしようと決めてました。
 決めてましたけど…書いてて妙に辛かったです…なんだか哀しくて…どうしてこうならなきゃいけないんだろう… とかつぶやいてました。決めたの、自分なのに(笑)
 一つ、どうしてマーニャの武器が毒蛾のナイフなのか?といいますと、私がそうだったからです。だって理力の杖、 嫌いなんですよ、私。MP節約したいから攻撃するのに、MP減るものですから。あとは、懐に飛び込ませたかったので、はい。
 そしてブライのことを、ちょっとだけ出しました。ブライがクリフトとアリーナのことをどう思ってるか、ということを 簡単に。…いつか番外でもうちょっとちゃんと書きたいですねー。三人の恋模様を
 ここはとても書きたかったので、書けて満足してます!辛かったですけれど。もうちょっと、暗い雰囲気が続きます。どうぞお付き合い くださいませ。



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