マーニャが慣れた様子で舞台裏の奥、座長の部屋に入っていく。そこには顔が道化の仮面をつけた男と、 身なりの良い男が座っていた。身なりの良い男の方が、マーニャを見て立ち上がった。
「マーニャちゃんじゃないか!仇は討ったのかい?」
 マーニャは朗らかに笑った。営業用ではない、自然な笑顔だった。
「ええ、座長さん。けれどまだごたごたしてて、戻れそうにないの。いつか必ず戻ってくるわ。 …ところで、そっちがパノン?」
「ああ、貴方がマーニャさんですか。初めまして、お会いできて光栄ですよ。」
 真面目な声。だが仮面の顔とあいまって、何故だか妙におかしかった。
「あの、お願いがあります!」
 そこにラグが割り込んできた。そしてあわてて頭を下げる。
「すいません、突然。僕、ラグといってマーニャさんと一緒に旅をしている者です。パノンさんにお願いがあるんです。」
 そう言ってラグは、スタンシアラのことを話した。
「僕は、天空の兜が必要だと思ってます。何故だか判らないですけれど、そう思います。 その所有者に自分が相応しいかわかりませんけれど…お願いします、パノンさん、 僕達と一緒に来ていただけませんか?」
 そう言い終わり、もう一度頭を下げる。パノンはただひたすら、ラグを見た。
「…貴方はもしや…いえ、いいです。私の力が必要ならば、私はどこへでも行きますよ、お供させていただきましょう。 おそらく天空の兜は貴方に相応しいと思いますからね。それに貴方が天空の兜をかぶった所を私も見てみたい。」
「………」
 あまりにもあっけなさ過ぎてラグは拍子抜けした。
「そんな拍子抜けしないで下さいな。人と付き合う商売です、人の見る目はあるつもりですよ、その眼はこの仮面の下ですがね。 さて、いきましょうか。団長さん、今までありがとう。」
「…パノンみたいな芸人はもう、いないだろうな。また、踊りでやっていくかな。」
 拍子抜けしてるラグと違い、他のメンバーは、パノンが言っていることが、妙に納得できた。 もっともあまりにあっさりしすぎてびっくりした事は事実だが。皆が仲間になった理由も、おそらくパノンと同じだろうからだ。
「ありがとうございます!」
「それに脅されるのは、ごめんですからね。」
 そういうと、仮面の中からでも判る笑みを、パノンは浮かべた。

「なかなかぐるぐるしたところですねー。中もぐるぐるしてるんですか?」
「ここがスタンシアラです、パノンさん。」
 ルーラで飛び、そしていかだに乗る。船を移動するたびに、周りの視線がこちらに向く。パノンの容貌は いかにも『笑わせる』者だった。そして実際パノンはそんな人間達を、即座に笑いの渦に巻き込むのだ。

 だが、城に入り、王の間に入ると、とたんにパノンは無口になった。そしてじっと王様をみつめる。
 そして順番が来た。周りの人間の一部は、パノンだと気がついたのだろう、希望に満ちた目で見ている。どれほど面白い事を言うかと。

「王様、恐れながら私では王様を笑わす事は出来ません!」
 だが、パノンは真剣な表情でそう言ったのだ。
「ほう?なんのつもりだ?」
 王様の興味に満ちた声が聞こえる。パノンはおくさずに続けた。
「ですが私を連れてきたこの方なら、王様を笑わす事が出来るでしょう。どうかこの者達に天空の兜をお与えください! この者達なら世界を救い、きっと人々に笑いをもたらすでしょう!」
 一瞬の沈黙、そして王様の豪快な笑い声が聞こえた。
「はっはっは!良くぞ我の心を見破った!…おぬしの評判はきいておる、パノンよ!このようなお触れを 出したのもこの国を明るくせんがため。このようなお触れを出せばお笑い芸人がたくさん来て、この国は明るくなると思ったのだ!」
「それだけではないでしょう?」
 そこに、歩き出して来た者がいた。アリーナだ。だが、そこにいるアリーナは、いつものアリーナではなかった。
「そなたは?」
「私は、サントハイムの王女アリーナ。ずっと考えていました。どうして王様がこんな事をしたのか。…待っていたのでしょう? 勇者を。こんなお触れを出せば、ここに天空の兜があることも広まる、そう思ったのでしょう?そして勇者に、 この兜を渡そうと思ってたのでしょう?」
 その口調は、姿はラグたちが今まで聞いた事がないほど、王女らしかった。
「国王は国民の為に、それが王族の基本です。だけど王様は違ったのですね。国民の為、そして世界の為に。…ここにいる ラグは私が、いいえ私達が見込んだ方。…世界を、私達を、世の中全ての運命の星を導くに相応しい方だと思った方です。 そして、私自身も貴方のような偉大な王の期待に応えたいと、そう思っています。」
 そう言うと、アリーナはスカートのすそをつまみ、礼をした。
「…姫様…」
 ブライは感涙していた。…初めて、自らの教育が実った成果を見たのだから。
「兜を持て。」
 王は召使に呼びかける。そして厳かに天空の兜が捧げもたれる。アリーナは、ラグを立たせた。
「アリーナさん、僕は…」
「ラグ、いいのよ。」
 アリーナはそう言って腕を引く。ラグは躊躇した。その背中をミネアが押した。
「ラグ、行ってください。私たちは、貴方が何者でもかまいませんわ、ラグ。私たちが勝手に 期待しているだけです。先ほどトルネコさんにラグさんが言った言葉と同じです。貴方でなければ誰にも為せない事。 天空の兜を装備する事。…世界を救う事。貴方がやって出来なければ、誰にも出来ない、そう信じてるだけですわ。」
 史上最高の占い師。ミネアの言葉は何よりも説得力をもっていた。ラグは歩いた。
「この兜は、真の勇者でしか、選ばれしものにしか装備できぬもの。おぬしはそれに選ばれしもので ある、皆はそう期待している。」
 そう言う王様の元へ、ラグは歩く。
「僕は…自分が勇者だなんて、思えない。そんな偉くない、ずっとそう思ってます。その兜だって装備できる自信 なんてありません。世界の運命なんて握れるわけがない。だけど、仲間の期待に答える努力をしたいと、心から思ってます。」
(そして、村のみんなの期待に、少しでもこたえたい。たとえ無理でも。今ならそう思うよ。…シンシア。)
 どんな困難でも最初からあきらめない事。それはこの7人の仲間達に教えてもらった、大切な事。
 そして兜を持った。ゆっくりと、頭にかぶせる。
 兜は、シャラ、と清らかな音をたてて、ラグの頭にぴたりと納まった。まるでラグにかぶられるのを喜んでいるように。
「今ここに、勇者が登場した!皆の者!宴の準備を!今夜は祝いだ!」


 次の日の朝。パノンはラグに別れを告げた。
「行ってしまうんですか?パノンさん。お世話になったのに、僕何にも出来ませんでしたね。」
「いえいえ、ありがとうございました。貴方のその姿、笑いと共に人に広めに行きます。」
「…笑いと共に、広めなくてもいいと思うんだけどね…」
 マーニャがあきれたように水をさす。
「また、いつかお会いしましょう。」
 パノンはそう言うとキメラの翼を放り投げ、去っていった。
「行ってしまわれましたね…」
 その姿を、ずっとトルネコが見守る。寂しげに空を見上げた。
「これから、どこへ行きますか?」
「そうですね、やはり、他の天空の装備を探すべきでしょう。」
 クリフトの言葉に、ライアンが反応する。
「そう言えば…昔の話だが、天空の盾がバドランドにあったらしい…よくは覚えておらんのだが。」
「本当ですか?ライアンさん!」
「しかし昔の話だ。今はもしや失われているやも知れぬ。実物を見たことはないのでな。」
「でもとりあえずヒントにはなるわね。行きましょう!バドランドへ!」
 アリーナの掛け声と共に、船は走り出した。武芸の国、バドランドへと。


   意外と難航しました。スタンシアラのイベントって、意外と地味なんですよー。しかも私ギャグなんて知りませんし、 どうしようかと思いましたが、適当にごまかせてらっきー(せこい)
 …私はマーニャが可愛くて仕方がないんだろうか、どうしても活躍させてしまう…てかこんな予定なかったぞ!自分でも びっくりしました。ちなみに前回「マーニャを話題にしていた部下」と今回の男とは一応別物です。ライアンの直接の 部下は、あんな事しないでしょうし、ライアンの顔を見て判らないわけないだろうし。 しかしナイスなチームワークだよ、みんな。まあ、私は仲良しさんが好きなので。戦闘でもあんな感じでしょう。 皆が思い思いに勝手に動くけど、ラグはそれを上手く統率するって感じですね。
 そして後半、またもやびっくり。アリーナさんやるねえ。もっともうちのアリーナはお父さんの後継ぐことに 熱心なので、ある程度王族らしい知識はあります。やるときはやる。刺繍とか「貴婦人のたしなみ」 は避けて通ったけど、王族として必要な礼儀作法は最小限ありますし、無駄のない動きは武道家の特技ですしね。 優雅さは余りないだろうけど、気品はある。だけどそれより武道の方が好きなので、あまり実行しないだけです。 机にかじりついてるのも嫌いですけど、影では努力家ですね。でもぴらぴらしたドレス が苦手なので、普段の礼式等ではふてくされてたのではないでしょうか?
 そしてラグ。今回でちっとは前向きになってくれました、やっと。それでも「期待に応えたい」という 消極的な前向きですけれど。この人の闇は、そう簡単に解けないです。少しでも解けたのは7人の仲間の 力ですね。先に予告すると、ラグの闇が完全に溶ける事はないです。思い起こしては落ち込み、自分を責めて いくのだと思います。ただ、闇を内包した上でどう変わっていくか、ですね。
   それでは、次回もよろしくお願いします。



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