アリーナが宿屋の階段を降りてきた。
「おはようございます、アリーナさん。すこし村を回ってたんですよ。」
 あとあと、村人の酔っ払いに捕まり、えんえん酒盛りの相手をさせられ、解放された時はすでに 朝日も昇ろうとしていたときだった。
「ラグ、貴方あの夢見た?!」
「ああ、女性の夢でしたっけ?いいえ、僕は見てません。」
「おはようございます!ラグ!…ラグは夢を…?」
 そこにミネアが降りてきた。ラグはきょとんとした。
「…ミネアさんも女性の夢を見たんですか?僕は見てないんですけれど、 それじゃやっぱり偶然じゃないんですね。」
 そうして食卓で皆に聞いた所によると、夜、宿屋で寝ていないラグとライアンを除き、全員が同じ夢を見たようである。
「それで、どんな夢だったんですか?」
 当然の疑問としてラグが聞く。だが、全員が押し黙った。
「どうされたのだ?」
「…ラグさん、おちついて聞いて下さいね。」
 全員の無言の話し合いの末、トルネコがその話を引き受ける事になったようだ。
「女性…おそらくエルフの女性が高い塔にいます。…ある男が塔の下で笛を吹くとそこに階段ができました。… その笛はあやかしの笛によく似ていました。
 そしてしばらくすると塔の上に男が現れます。男はこう言いました。『 聞いてくれ、ロザリー、私は人間どもをみな滅ぼす事にした。』 ロザリーと呼ばれたエルフは、その男に…その男に…『おやめください、ピサロ様!』と…」
 その言葉を聞いて、ラグは立ち上がる。
「ピサロ!ピサロと言ったんですか!?」
「ええ、確かに言いました。…おそらくその男は、会話からしても…デスピサロでしょう。 『それまでこの塔で大人しくしているんだ』そういい残して、ピサロは去っていきました。 そしてロザリーさんが、私たちに呼びかけるのです…『だれか、ピサロ様を止めて。この 想いを受け止めて』と。ここで眼がさめました。」

(ピサロが…エルフの女性を…)
 その夢の話からすると、ピサロはエルフを守っている、そう判断できた。
(だって、シンシアは殺したのに!)
 どうして殺したんだ!シンシアを!村の人を!…自分の大切な人を守りたい、 ピサロはそう思うくせに、どうして僕の大切な人を奪うんだ!
「ラグ。」
 真っ青になって黙っているラグに、アリーナが声をかけた。ラグはアリーナに視線を向ける。
「…行きましょう、ガーデンブルグへ。…たとえ夢がどうだろうと、今は私達の行動を 変えるようなものじゃないわ。ね?」
「…そうですね。」
 今することは、ピサロのことを考える事じゃない。今はただ、前に進まなくちゃいけない。
(そう思える、僕の心はきっと変わった。…そう思わせてくれる、仲間を持てた。)
 仲間なんて、自分が持てるわけ、ないと思っていた。自分の為に皆を亡くしてしまったから。だけど
「行きましょう、ガーデンブルグへ。」
 こんな風に歩いていけるのは、仲間のおかげ。信じられる、仲間の。


 イムルの村から東へ船を走らせた。山を越え、陸地に降りる。
「ず、ずいぶん奥まったところにあるんですわね…」
「そうですな、これでは国交もままならんでしょう。」
「商売もですな。」
 バドランドへの入り口は、旅なれた皆にそういわせるほど山奥にあった。 山奥の村に住んでいたラグが驚くほどだ。ライアンが説明する。
「ガーデンブルグは、もとは修道院でな。さまざまな悩みを抱えた女性が集まって出来たらしいのだ。」
「男って、ろくでもないわよね。」
 いまだ怒りがさめていないのか、マーニャがとげとげしく言葉を返した。
「…マーニャさん、どうされたんでしょう?」
「…とくにライアンさんに風当たりが強いわね…クリフトもわからない?」
「いえ、私にも…バドランドに行ってからですね…」
 クリフトとアリーナがぼそぼそと話す。その声がラグに聞こえた。
(たしかに、バドランドのお城で…マーニャさんに何かあったんだろうか?)
 ラグはやっぱり鈍かった。気にはなったが聞く勇気は持てなかった。

 少し広まった所に出た。岩の間に岩石が塞がっている。
「…ここがマグマで塞がれた…?」
「そうじゃろうな・・・マーニャ殿、マグマの杖を。わしらは下がっておこう。」
 ブライの言葉にマーニャは近くにある岩に乗った。ラグたちは端のほうへよける。

 ずっと頭の中がグルグルしている。
(別にどうだって訳じゃないわ!あいつにも人生があるんだし、女の一人や二人いるでしょうよ!わかってるわよ! それにそんなこと、あたしには関係ないわよ!)
 どうして自分がむかついているのか、それがわからなくてさらにむかむかする。
 マーニャはマグマの杖を構えた。そして振り上げる。
「もうもうもう!一体なんだっているのよ――――――――!!!!!!!!!」
 おもいきり振り下ろす。小さな杖にから出たとは思えないマグマが杖から溢れ出し、恐ろしい勢いで 地面を、そして岩を飲み込んでいく。
 マーニャが荒い息をした。
 そしてマーニャの目の前には草木一本生えていなかった。
「…マグマの杖って凄いのね…ああいうので敵をぶちのめすのも、ちょっといいかもしれないわね。」
「姫様!またそう言うことを!…それにしても本当にすごかったですな。」
 皆がマーニャの方へ視線を向ける。一瞬、同じ考えが頭をよぎった。
「…いきましょうか。」
 ラグの呼びかけで皆が我に帰り、マーニャの元へむかった。マーニャの顔は先ほどより、妙にすっきりとした表情だった。

 クリフトが周りを見回す。
「…なんだか妙にいごこちが悪いですね。」
 ガーデンブルク城。それは女性の城。姿形も妙に女性好みに整えられていた。
 ライアンがうなずく。
「…兵士すらも女性だったな。」
 女性が治め、女性が守る、女性の城。その足に一歩踏み入れたとたん、ラグたちは今まで以上の注目を受けていた。
「…店に並ぶものも、女性専用装備ばかりですな。」
「内装も全て女性重視になっている、珍しいものですな。」
 トルネコ、ブライはクリフトやライアンほどはむずがゆいものを感じていないようだ。どうやら浴びる視線の 差らしいが、それでもどこか落ち着いていない。
「と、とにかく少し落ち着ける場所へ…」
 大勢の女性達が遠巻きにみつめる中、極度に緊張したラグの先導で、城をさまよい歩いた。


 バドランド、少し手間取りました。ベホイミンのイベント、本当は入れたかったんですがあきらめました。最後の鍵、 持ってないですし。
 皆さんには意外だったでしょうか?ラグが夢を見ないこと。…反則ですよね、まったく。我ながらそう思うのですが、 なんとなくそうしてしまいました。…ライアンは完全にとばっちりです、はい。

 次回はガーデンブルグ編です…1話で終わらせるつもりではいるんですけれど、すでに無理な気もひしひし してます(笑)…がんばります。


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