「助かった。困り果てていたのだ。」
「あんたもねえ、なーにでれでれしてるんだか知らないけど、なんで律儀に相手してるのよ!適当にあしらえるでしょ!」
「バドランドの王宮戦士規律条項第32条に『女性は大切にする事』とあるのでな、つい」
「…えらく軟派ね。」
「いや、ただの冗談だ。」
「真顔で言わないでよ、普段冗談も言わないのに。もしかして馬鹿にしてる?」
「何をいらいらしておるのだ…さては嫉妬か?マーニャ殿」
 ライアンはにやりと笑う。マーニャの血が逆行する。
「何勘違いしてるのよ!馬鹿じゃないの!」
「では何をそんなに怒っておるのだ。」
 ライアンはますます嬉しそうだった。マーニャは後ろを向いて歩き出す。
「知らないわよ!あんたには関係ないでしょ?!うぬぼれないで!あたしは、あたしには!」
 頭がグルグルする。マーニャはすでに何がなにやら判らなくなっていた。
「冗談だ。…判っておるよ、マーニャ殿。…おぬしがまだ、忘れておらぬ事を。」
 あっさりと追いつき、マーニャの頭にライアンは手を乗せる。
「だが…関係ないというのは少し辛いな。私はマーニャ殿の仲間。何も出来ぬがせめて先ほどから いらだっておるのか、その理由くらいは知る権利があると思っていたが…」
 虚空を見る目。マーニャに向けられたライアンの目は、過去を、バルザックを討ったときの過去を 見ていた。
「…やはり失いし者を消し去ることは出来ぬのだな。すまなかった。」
「あたしは!」
 マーニャが振り向く。ライアンを見る。
「あたしは忘れない。まだじゃなくて、きっと一生、忘れない。忘れてはいけない事だから」
 ライアンはただマーニャを見る。
「忘れないけど、消し去る事なんて出来ないけど!」
(なに言おうとしてるの?あたし?)
 熱に浮かされたようだった。口が勝手に動く。
「けどね、あたし!」
「泥棒が出た―――!こそ泥よ!」
「銀のロザリオが盗まれましたわ!」
「女王様!犯人を捕まえました!裁きを!」
 声が割り込む。その声は謁見の間からした。
「犯人は旅人の翠の髪の少年と紫の髪の女です!女王様!」
 マーニャとライアンは同時にはじかれたように謁見の間を見た。
「まさかラグとミネア!なにやってるのよ、あの二人!」
「まさか、ラグ殿とミネア殿がそのようなことするはずがない!」
「言ってみましょ、ライアン!」
「そうだな!」
 そう言って走り出す。謁見の間に向かう途中、走りながらライアンはマーニャに話し掛ける。
「…マーニャ殿、先ほどの続きは?」
 マーニャはライアンの方を向かずに答えた。
「消し去る事は出来なくても、足していくことは、きっとできるわ。信頼できる、仲間がいれば。」


(クリフトさんはアリーナさんが見つけてくださるでしょうし…するとライアンさんかラグですわね…)
 しかし探すまでもなかった。ミネアが少し歩くと、そこは騒然としていた。
 国中の女が集まったのではないか、と疑いたくなるほどの女性達が、廊下を占領していたからだ。 そして中央に埋もれて見えるは、翠のきらめき。
(ラグ…きっとむちゃくちゃにされてますわね…どういたしましょう…)
 この群集をかきわけてく度胸はミネアにはなかった。そして決意した。
(みなさん、ごめんなさい…)
「ラリホーマ」
 興奮状態にいた女性達がばたばたと眠りにつく。その間をかけぬけて、ミネアはラグにかけよった。
「ご無事ですか?ラグ?」
「は、はははい。…助かりました。ありがとうございます」
 ラグは少し震えながらも、大きくため息をついた。
「少し歩いてたら、皆さんが次々に寄ってきて…いろんなところ触ったり…されました… 僕が何を言っても聞いてくださらないし、僕どうしようかと…」
「とにかくここを離れましょう?ラグ?」

 ミネアの提案に従い、広間と逆の方向へ歩いた。
「ミネアさんたち、天空の盾の事、聞けましたか?」
「いいえ?ラグは…それどころではありませんでしたわね…」
「はい…」
「とにかく、一人出歩かない方がいいですわ。私とご一緒してください」
 そんなミネアに縋りつくような目をラグは向けた。
「お願いします…だけど、女性は少し怖いです。」
「あら?私も女ですわよ?」
「いえ、そうではなくて…あれ?あそこにいるの、男性じゃないですか?」
 ラグに言われ、目を前に向けるとそこには全身をローブに包んだ男が部屋から出てきた。
「すいませんー」
 ラグが臆せず話し掛けた。男はラグのほうを向いた。そしてじろじろと観察している。
「あの…」
「あ、貴方は旅人ですか?」
 男はラグの言葉を遮った。ラグがうなずくのを見て、男はうなずいた。
「実は困っているのです。…あなたは私より力がありそうだ。少し頼んでいいですか?」
「なんですか?」
 ラグが言うと、男は部屋の中の箪笥を指差した。
「実は大切な物を箪笥にしまったのです。ですが何かに引っかかったようで箪笥が開かなくなってしまったのです。 どうひっぱっても開かなくて…仕方ないので箪笥を壊そうと道具を取りに行く所なんですが、 一度貴方に試してみていただけませんか?私が力が足りないのかもしれませんし。」
「ええ、かまいませんよ、あの箪笥ですね?」
「私は道具を取りに行きます。お願いしますね。」
 そういって頭を下げると男は大急ぎでその場を離れた。ラグは部屋に入った。
「壊そうとなさるなんて、とても大切な物なんですのね。」
 ラグの後に続き、ミネアも室内に入る。
「ええ、できるなら開けてあげたいですね。」
 そう言ってラグは箪笥の引き出しを引いた。
「あれ…?」
「開きました…わね…?」
「全然引っかからなかったですよ…」
 そう不思議に思ったのは一瞬だった。
「きゃああああああ―――!泥棒――――!」
 部屋の扉の前に立ったシスターがおもいきり叫んだ。そして部屋に入って来た。
「わたくしの部屋で何をしておりますの?どうして箪笥を開けて…ロザリオがありませんわ!」
 シスターは箪笥の中を丹念に確かめた。そしてこちらをにらむ。
「あれは女王陛下に戴いた大切なブロンズのロザリオですわ!返して下さいませ!」
「違います!僕は何も!」
「そうですわ!ラグも私も何もしておりませんわ!」
「おだまりなさい!盗人猛々しい!誰か、来て下さい――――――――!」
(今度ミネアさんに占ってもらおう…女難の運命なのか・・・)
 すでにそう考えるしかないほど、ラグは疲れきりながら呆然と立っていた。


   予想通り、1話で終わりませんでした。せめて3話にならないように頑張ります!あとは人質イベントと盗賊倒すだけだから 簡単だと思うのですけれど…さて問題、人質は誰になるでしょう?(笑)
 そして強引に箪笥を開けさせてみました。…部屋に入っただけ、という案もとろうかと思ったのですが、やはり 盗まれたと思わせるためには箪笥開けなきゃね、うん。しかし実際の所、盗賊はごついと思わなくもないです。ちょっと 無理があったでしょうか?
 この話、誰が一番不幸でしょう?盗賊と間違えられた女難のラグか、告白できなかった悲劇のクリフトか、まったく出番が なかった暇人ブライか(笑)(ライアンは不幸でもないかな、多分)



戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送