「…皆さんすいません。」 ラグは頭を下げる。 「ラグは悪くないわ。…ほんっとむかつく国よね!」 「姉さん…すこし同感ですけれど…」 「しかし災難でしたな、ラグさん」 「まったくだ。」 しみじみとトルネコとライアンが愚痴る。その横ではアリーナとクリフトがブライを止めていた。 「ブライ!どうしてそんなこと言ったのよ!」 「ブライ様!人質など…」 「そうよブライ!どうしてそんなこと言ったの!」 「そうでもしなければ収まらぬよ。」 ラグがそこへ割り込む。 「僕が人質になります、僕のせいですから。ブライさんが牢になんて入る必要ないですよ。」 「いいえラグ!私がラリホーマなんてかけたからこじれたのです!私が!」 「いやいや、犯人の顔をみてるのはラグ殿とミネア殿だけじゃ。二人にはいてもらなわくてはのう。」 「ではブライ様!私が!」 アリーナがクリフトの腕をぐいっとつかみ、止める。 「クリフトは駄目!」 「ひ、姫」 「駄目ったら駄目!またあんなふうになったらどうするの!!」 「そうじゃよ。ライアン殿もトルネコ殿も駄目じゃ。地下牢が大混乱になってしまうわい。 姫様を地下牢に入れるなど大問題じゃ。わしが一番の適任じゃ」 「あたしが変わろうか?ブライ」 「いやいや、どうせ人質ならば反感をもたれないほうがよかろう。このじいさんならばみな、見向きもせぬよ。 せっかくじゃ、ゆっくり骨休めしようかのう。」 カッカッカと笑いながらブライが笑う。 「ブライさん、すぐ迎えにきますから!」 「当たり前よ!ラグ。もう、そいつ私がとっちめてやるんだから!」 「姫様。くれぐれも、お気をつけて。では参りますかの。」 ブライは女兵士の元へ自らの人質を名乗り出た。そして地下へと消えた。 「絶対見つけ出すわよ!その男!どこにいるのかしら!」 「そうですね…ラグさん、その人は男性ですよね…」 「ええそうですよ、クリフトさん。やはりこの国の人じゃないんでしょうか?」 「いいえ、あせりは禁物ですわ。ゆっくり考えましょう。」 ミネアの合図で円陣を組んで座る。 「牢なんて真っ平ごめんだけどさ。やっぱあたしが代わればよかったかしら。 こういうときこそブライが役に立つんじゃないの。」 「そんなこと言っても仕方ないわよ。知恵を絞りましょう。それでさっきの話ですけれど、 この国にも男性はいますわ。」 ミネアの言葉をトルネコが受ける。 「そうですね、火山の噴火で身動きがとれなかった同業の人がいたはずですよ。あとは神官さん。 他にもいてもおかしくはないはずです。」 「そうだわ。あたしが岩壊すまでここ封鎖されてたはずでしょ?ならこの城の人よね!」 「私達の後からこの城に人が入ったってことはないと思うわ。私たち、広間の近くで聞き込みしてたもの。」 「もしそうでしたら、この城の人たちのことですもの、もっと大騒ぎになりますわね。では城の中かしら。」 「けれど…」 「なあにクリフト?」 女三人の保障にクリフトが疑問を投げかける。 「ラグさんはあの時、女王様に男性の特徴をはなしていらっしゃいました。閉鎖されていて男性の数が少ないこの国でなら、 女王様なら特徴を聞けば、心当りくらいはもたれるはずでは?」 「すっごいやな感じだったもの。わざと言わなかったんじゃないの?」 「違うわ。違うと思うわ、マーニャさん。私、なんとなく女王様が無理してらしたような気がするのよ。」 「そうですな。でなければ、わざわざ私たちに犯人探しなぞさせぬだろう。ここの兵士達にのみ 頼めばよいことだ。」 アリーナとライアンいった言葉にマーニャは黙り込む。 「じゃあ、やっぱり城の外の人なんでしょうか?僕達の直後くらいに入ってきた人とか…」 「いえ、ラグさん。それはないでしょう。」 自信満々のトルネコの言葉に皆が振り返る。 「どうしてですか?」 「もしもただ旅人ならば、どうしてあそこにブロンズのロザリオがあるとわかったのでしょう?」 「あ…」 「じゃあ、こういうこと?」 マーニャが怒りを燃やしながらまとめる。 「そいつは、あたし達が城を混乱させてるのをいいことにブロンズのロザリオを盗んだって、そう言うこと?」 「許せませんね…!」 「でもじゃあ、そいつはこの城のなかにいるのかしら?」 「いえ、アリーナ様。それも違うと思います。」 「クリフト、どうして?」 「アリーナ様は無理をなさっている、とおっしゃいましたね。この国は閉鎖されている国。 一人一人が何か役割を果たしていく事、そして助け合う事で成り立っていきます。こんな小さな国では 小さないさかいが大きな争いとなります。ですから女王様は例えどんな事があっても、公平に厳しく断を下さねば ならないのでしょう。」 ラグが当たり前のことのように言葉を続ける。 「そうですね。それに閉鎖された所だとそれだけ他の人のことがよく知ってますからね。 もし国の人なら女王様が気がつかれたのだと思います。」 「それにこの国で盗品を売りさばく事も出来ませんし、かといって盗みが会った直後に誰かいなくなっていれば、 これほど怪しいことはないでしょう。それは向こうもわかっているはずです。」 「じゃあ、犯人は、この国にある程度知っていながら、外の人…ってことですね。 つまり…盗もうとこの国を調査していて、他に隠れ家がある盗賊…」 「そうです、ラグさん。私はそう思うのです。おそらくはよほどの腕でしょうね。気取られず調査をしているのですから。」 ラグの意見にクリフトがうなずく。そして。 「ここから南。…ブロンズのきらめきが見えるような気がします。」 水晶を目の前にミネアがきっぱりといいはなった。 「ありました!ミネアさん!」 ラグが指差すその場所は、ミネアが占ったとおりのガーデンブルグの南。ぽっかりと暗い口をあけた洞窟だった。 「ここが盗賊の隠れ家ね!やってやるわよ!」 武器をきらりと光らせ、アリーナが気合を入れる。 「早くブライ殿を牢から出してさしあげねば。行きましょう、ラグ殿。」 ライアンを先頭に、一同は洞窟に入っていった。 「この国は、洞窟までねじくれてるの?!」 もはやマーニャの愚痴にフォローも入れられないくらいだった。その洞窟は相当ねじくれた天然の迷宮になっていたのだ。 「ブライ、いなくて良かったかもしれないわね。」 「そうですな、お年寄りにはこの段差はきついでしょう。」 そう言うトルネコも既に息があがっていた。 「皆さん、あそこに階段がありますよ」 ラグは文句をいわずにただ歩いていた。 「ラグは、平気そうですね。」 ミネアもすこしうんざりしながら歩いていた。段差もそうだが土の中も気が滅入るものなのだ。 「僕の村、山の奥でしたから。村の裏の森は結構傾斜があったんです。あまり上に行くと怒られましたけど。」 しれっと言うと、ラグは階段を下りていった。 「これが最後の階段だといいんだけどね。」 マーニャのその言葉に一同は心から賛成して、共に階段を降りた。 そこは明らかに人の手が入った部屋だった。 「ここね…腕の立つ盗賊がいるのは。うん、たしかに気配がするわ。」 アリーナが小さな声でぼそっとつぶやく。そしてラグが、そっと扉を小さく開け、中をのぞく。 そこは小さく、そして居心地のよさそうな場所だった。小さなベット。豪奢な調度品。 そして中央に一人の男が寝ていた。 「ローブじゃないですね…武道用の防具のようですが…」 トルネコの言うとおり、その男はローブを着ていなかった。 「よもや人違いか?」 「いいえ、ライアンさん。この人に間違いありません。」 ミネアがきっぱりという。 「わかるんですか?顔ももっとやさしそうな感じでしたけど…」 少し自信のなさそうなラグが、ミネアに問い掛ける。はっきりとうなずいた。 「ええ。顔も格好も違いますわ。ですが、気が同じです。」 「わかるんですか?」 と不思議そうにラグが言う。気配はラグにもわかる。だが、ただあることが判るだけで、固体識別などは できなかった。 「人には特性や性格、そして強さに合わせたオーラのようなものがあります。ラグのはなぜか力に似合わず 弱弱しいのですけれど。私は商売上でしょうか、人一倍そう言うものが詳しく読み取れるのですわ。 この人に間違いありません。」 そういわれるとなんとなくわかるような気がした。その目の前にいるミネアこそ、月の気を放つ 持ち主だからだ。 (ミネアさんじゃなくても、皆のならわかるな、きっと。) 得心がいったようにうなずく。皆と顔を見合わせうなずきあった。そして扉を大きく開けた。 「誰だ!」 男は飛び上がる。 「いつぞやはお世話になりましたわね。」 ミネアがにっこりと言う。 「よくもラグ殿に盗人の汚名を着せ、のこのこと寝ていられるものだな」 ライアンがそれに威圧をかけた。盗人は飛び上がった。 「よくここが判ったな。俺はバコタ。あの盗賊カンダタ、ラゴスに続く伝説となるもの。こんな所でつかまる 訳にはいかない。さらば!」 そういうとバコタはミネアとライアンの横を駆け抜けた。しかし二人はそれを悠然と見送る。 「俺の素早さに…」 「遅いわよ。」 捨て台詞を放とうとしたバコタに後ろににっこり笑ったアリーナが立っていた。 「ば、馬鹿な!この俺がスピードで負けるなど!こうなったら力で言い聞かせてやろう!伝説の 盗賊、バコタ様に逆らうということがどういうことかをな!」 そして、戦いの火蓋が切られた。 |
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