「…グ…ラグ!」
「あ、ごめんなさい、マーニャさん。」
「ラグ、ここには人間が居ないみたいです。」
「あちらにモンスターがおったよ。なかなか平和的だったな。」
「いえ、正確にはいるみたいですよ。」
 ライアンとトルネコがこちらに歩いてきた。すでに仲間は村の偵察をしていたらしい。
(僕…どれくらいぼんやりしてたんだろう…)
 ラグは首を振って気を引き締めた。
「どんな人ですか?トルネコさん。」
「いえ、なかなか頼もしい商人ですよ。他の村人も感心してたみたいですね。…それともう一人、同じ商人として 恥ずべき存在が。」
 トルネコが珍しく人を嫌うように言う。そこにアリーナ、クリフト、ブライが帰ってきた。
「ラグ、あの塔の上、やっぱりいるみたいよ。」
「ええ、この村の男の子が『夜になると女の人が顔を出す』と言ってました。」
「やはりあの夢と関係あるのじゃろうか…じゃが、皆、あまり近づけたくないようじゃった。」
「エルフの涙のせいですよ、ブライさん。きっと人間に狙われるんでしょうね。ルビーってなにか効果あるんでしょうか?」
「よく知ってますね、ラグさん。もっともこの村の話では人間は手に取ることは出来ないようですが。…この村を 訪れた商人はエルフを攫いにきていたようです。」
 ラグは塔を見上げた。高い塔、唯一つの窓。
(ルビーの涙なんかより、シンシアの笑顔の方が大切なのに…)
 エルフが流す涙がルビーだと知った昔から、ずっとそう思っていた。…もう笑顔は見られないけれど。
「行きましょうか。」
「そうね、ここでこうしていても仕方ないわ。」
「受け止めて、とおっしゃってました。ピサロを止めて…と、あのエルフの女性はそう訴えてました。」
 クリフトは思い起こした。横にいるアリーナをみつめながら。エルフの切ない思いを。イムルの夜を。
  夢を見たのだ。閉じ込められた、女性の夢を。目がさめたとき、まるでそれは愛しい女性にも見えて。 王族という身分。城という塔。出たいと願う気持ち。ただ、そこの纏うオーラは、まったく違うもの。
(最もアリーナ姫ならば、泣きはしないでしょう、泣いて呼びかける前に自分から、飛び出すでしょうね)
 そう思うと、笑みがこぼれる。そして。
(もしあれがアリーナ姫ならば、私は絶対にピサロを許さないでしょう)
 泣かせておいて、相手の気持ちを考える事もできないような相手に、姫を渡す事はできない。 そしてそう考えたとき、次に出たのは自嘲の笑みだった。
(ただの臣下が渡さないなどと。私は一体、何様のつもりなんでしょうね)
 それが想いの強さだと、この神官は、気づいたのだろうか。

 想いは高い塔の上。その塔に、今、一行は近づく。不思議な模様の板の上で皆は立ち止まった。
「たしか…笛を吹いとったかのう…どれ。」
 ブライはそう言うと、サントハイムの秘宝、あやかしの笛を取り出した。
「音色に不思議な魔力が篭るといわれる。…もしかしたらじゃがな。」
 そうして吹き出した音色は、不思議な気持ちがこみ上げる、心地よい音色だった。そして。
「うわ、なんだ!」
 突然乗っていた板が下がりだした。
「そうです、ラグさん。確か夢でもこうやって下がっていきました!」
「うわわわ、先に行ってくださいよ!」
「塔なのに、地下に人がおるのか?」
 ラグとライアンは少しうろたえ気味に板に乗った。
「遺跡に似てるわね。…父さんがみたら喜ぶかもしれないわね。」
「そうね、姉さん。」
 塔の中は姉妹が言うとおり、コーミズの西の遺跡に少し似ていた。

「あっちに階段があるわ!ラグ!」
 廊下の先、アリーナは駆け寄った。どうやらただ歩く事にすこし退屈していたらしい。
「姫、慎重になされ。」
「そうですよ、ここはデスピサロの塔。どこに敵がいるかわからないんですよ。」
 アリーナをたしなめるいつもの二人。そこに珍しくライアンがわりこんだ。
「この先におる。」
「そうね、多分あれが敵でしょうね。」
 あっさりとアリーナがその言葉に続く。思わずラグは聞き返した。
「いるんですか?」
「鎧の音がしたもの。敵でしょ?」
「まだそうと決まってないですけれど…覚悟した方がいいですね。」
 そして一行は身長に階段を上がっていく。そして長い階段の後に全身邪悪な鎧に包んだ男が一人、待ち構えていた。


「何用だ。…いや何用とてかまわぬ。お前達は人間だ。…ロザリー様を付け狙う、おろかな人間はデスピサロ様の命により、 このピサロナイトが闇へと葬ろう!」
「やっぱりデスピサロなのね!」
 アリーナはそう言うと爪を構える。皆の戦闘の構えを取る。…そして戦闘がはじまった。

「ロザリー様はおぬしらには渡さぬ!」
 そう言いながらラグに剣をむける。ラグは剣を受けた。
「僕はただ、ロザリーさんと話してみたいだけです!」
 やりにくい相手だった。何せ相手は誰かを守ろうとしているだけなのだ。
「ロザリー様はデスピサロ様の大切な恋人なのだ!おぬしらごときが話せる相手ではないわ!」
 ピサロナイトはそう言うと美しく光る珠を取り出し、掲げた。

「あれは…」
「間違いないわ…」
 それを見、マーニャとミネアは一瞬珠に魅入られるようにみつめた。そしてその珠から、不思議な波動がうつりだした。
「なんじゃ、これは!ええい!」
 ブライはそう言うと呪文を唱え出した。
「無駄よ、ブライさん!」
「何故じゃ、ミネアどの!こいつには魔法は効かぬと?」
「違いますわ、あれは静寂の玉。あれを使われると魔法は使えなくなるのです。」
「つまり、剣で攻撃するしかないのだな」
 そう言ってライアンはピサロナイトに切りかかる。ピサロナイトはそれを受けながらピサロナイトは不敵に笑った。
「ほほう、ピサロ様より授けられたこの秘宝を知っているとは、おぬしらただ人ではなさそうだな」
「ざけんじゃないわよ!」
 その言葉にマーニャは激情した。そして静寂の玉を指差す。
「なーにがピサロ様よ!デスピサロは罪人、いえ盗人なの!いい、その静寂の玉はねえ。 父さんが、オーリンが、…バルザックが!作り上げた物なのよ! 進化の秘法といい、勝手に取り上げたあげく、人に託すなんてどうかしてるんじゃない! …遠慮はいらないわ、ラグ!こいつらはやっぱりバルザックを操った奴ら。そして、サントハイム城を 荒らした奴ら。そして、あたし達のの父さんを殺し、ラグの村を滅ぼした奴らよ!」
 マーニャがラグの目の前でラグの村のことを告げるのは珍しかった。ラグがそれに触れられたくない事を、知っているから。
 マーニャはそれだけ怒っていた。その言葉で、ラグも、アリーナも、全ての仲間が今までのためらいを忘れた。
「…僕はデスピサロを討ちます…どいてくれないなら、僕は貴方も討ちます…それが僕に出来る唯一つのことです。」
「忘れるところだったわね。…サントハイムの美しい日。それを取り戻す為なら、わたしは… 目の前にいる敵を全て討ち砕くわ!」
 そして、八人は自分の意思で、自分の信念で、ピサロナイトを討ったのだ。


「父さん…」
 ミネアは静寂の玉に駆け寄った。
「…一つ、取り返したね。父さんの残したもの。父さんの生きてた証拠。…魔物になんかに使われてたなんてね。」
 そう言うとそっとマーニャはそれを取り上げた。そしてそっと、壊れ物を扱うような手で道具袋に入れた。
「マーニャさん、ミネアさん…」
 静寂の玉のせいで出来なかった回復をクリフトがそっと優しくしてくれた。
「ありがとうございます、クリフトさん。」
「…サンキュ、いきましょう。ロザリーさんのとこへ、さ。」



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