「王妃様!」
 白い霧の中、ブライは問い掛ける。
 ”ブライ…”
 霧から聞こえた声は、確かに王妃の声だった。
「王妃様…わしは…」
 ”ありがとう…よろしくお願いいたします…”
 一瞬移りこんだ王妃の笑顔とその声は遠く響き、そして消える。
 ブライは確かにその言葉を胸に刻む。
(幸福じゃった。他の人間には与えられぬ。死に別れた人に、礼を言われるなぞ…)

「お妃様!どうされましたか?」
 姿は見えなかった。ただ、白い霧が浮かぶ。
 ”娘を、よろしく頼みます…”
 にっこりと笑い、そしてお辞儀をする王妃。それが白い霧の中、クリフトにははっきり見えた。
「確かに、承りました。もとより、命をかけて守る覚悟です。」
 ”ありがとうございます…”
 嬉しい言葉だった。お妃様、そしてアリーナの母に託されると言う事が、無性に嬉しかった。
 そして春の花のような笑顔。姫との違いはここにあるのだと、そう思った。

 いきなり溢れた白い霧。それにただ、ラグは戸惑っていた。
 ”南へ…”
 その声は、優しく上品な声だった。
「アリーナさんのおかあさん、ですか?」
 ”ここから、南。リバーサイドに貴方の求めるものはあります…”
「ありがとう、ございました。」
 頭に色々な感情が入り混じり、ラグはただ、それだけを告げた。
 霊の気配が上へと移る。そして声がまた聞こえる。
 ”あまり、無理をしては壊れてしまいますよ…”
 その言葉にラグはとっさに言葉を返した。
「どういうことですか?」
 だが、声はその答えを返してくれなかった。


「おかあ、様?お母様!私!」
 アリーナはほとんど涙目だった。母が消えた、そのことが悲しかった。
「ごめんなさい!私、お姫様らしくなれなかった、お母様みたいになれなかった!」

 ”アリーナ…”
「お母様?!」
 アリーナは白い霧の中、問い掛ける。
「お母様、私、私!」
 ”なかないで…”
 それは母の言葉。絵の中で笑う貴婦人でも、自分の影でもない、ずっとずっと自分が忘れていた母の声だった。
「お母様!ごめんなさい。私のせいで、サントハイムはあんなふうになってしまった!お母様が大切にしてた 花壇も全部モンスターに…」
 ふわり、と霧が、霧に映る母がアリーナを抱きしめる。
「お母様…私のせいで、私がお母様みたいになれなかった、せいで…」
 ”ごめんなさい、育てて、あげられなくて”
 帰ってきた言葉。それは思っても見なかった謝罪の言葉だった。
「そんな、お母様は悪くないわ!」
 ”曲がってしまわないで、アリーナ。今のままの貴方が、私も、あの人も大好きですよ。”
「お母様!」
 それはあの時、クリフトが言った言葉と同じだった。その言葉はすとん、と 胸の奥に収まる。そしてただ泣いていた顔をあげた。
(もう後悔したくない。絶対に。言わなくちゃ!)
 ただ、母をみつめた。泣きながら。突然の死で言えなかった言葉を、アリーナは母の前でこぼした。
「愛してる、お母様。きっときっと、元のサントハイムを取り戻すわ。だから、安心して。」
 ”愛してるわ、アリーナ…私と愛しいあの人の子供、アリーナ…どうか、健やかに…”
 最後に見えた母の笑みはとても暖かかった。アリーナは全力をもってその笑みに答える。 そんな笑顔を見せられる母と、同じ顔を持ったことを誇りに思いながら。

 霧は徐々に消えていった。そして後には不思議そうな顔をしたラグと、さっぱりとした顔を した三人が立っていた。


「おかえりなさい。」
 外に出たラグたちを皆は笑顔で迎えた。
「なにか見つかった?」
「ええ、こんな杖がありました。トルネコさん、見て下さいませんか?」
 そうして皆がトルネコの周りに集まった。その横で、ミネアはこっそりとアリーナに話し掛けた。
「いい顔をしてらっしゃいますわね。何かありました?」
「ミネアさんの言ってくれた通りだった。大丈夫、もう迷わないから。」
 そう言って夏の太陽のような笑みをうかべた。ミネアは満足そうにうなずいた。

 そして変化の杖を持ち、一行は南へ向かう。
「なんにでも変身できるなんていいわねえ。」
「姉さん、悪用しないでよ」
「大丈夫よ、あたしのこのナイスバディ、変身したらもったいないしね」
「しかし、このアイテムで入り込むということは、やはり今度こそ、本拠地になるんでしょうか?」
「そうだと考えるのが妥当だろう。デスピサロに会えるやも知れぬな…」
「そうだ、トルネコ、ライアン、ミネア。相談があるのよ…」
「なあに?姉さん?」
「ラグのことなんだけど…」

 青い、蒼い空と海。マーニャ達から離れた甲板に、アリーナはいた。
「なにを話していらっしゃったのですか?」
「誰と?」
 アリーナは笑う。とてもとても軽やかに。歩み寄りながらクリフトも柔らかく笑い返した。
「お妃様とです。お話になられたのでしょう?」
「お母様の事、好きだって。そう言えたの。」
「良かったですね」
 そう言って、クリフトはもう一度微笑んだ。
「あ…」
「どうかされました?」
 アリーナは大発見をしたかのように呆けている。
「クリフトは凄いわ。お母様みたいに笑えるのね。私もクリフトみたいに笑えたらいいのに。私、 その笑顔が好きよ。」
「ひ、姫様…」
 アリーナにじっとみつめられ、クリフトは耳まで赤くなった。しかしアリーナはそれに気が付かず、 クリフトをみつめながら言った。
「お母様もね、クリフトと同じ風に言ってくれたのよ。『自分を曲げないで』って。ありがとう…」
「いいえ、姫様。姫様は忘れていらしただけですよ。私は思いつく当たり前のことを言っただけです。」
「ううん、クリフトは凄いわ。私ね、当たり前のこともすっかり忘れてた。思い出せたのは、きっとクリフトのおかげよ。」
 そうして笑うアリーナ。それはとてもとても尊くて。
「私も、姫に仕えられた事、幸運に思います。」
(必ず、必ず守り通します…例え、この命に変えても…)

 ラグは海を見ていた。アリーナの母との会話。
(皆の事、聞きたかったな…)
 アリーナのお母さんは出てきてくれた。皆はどうして出てきてくれないんだろう?
 ひとつ、恐ろしい考えが浮かぶ。
(もしかして、魂すらも破壊されてしまったんだろうか?デスピサロに…それとも、何もかも判らなくなって さまよっているんだろうか…)
 地に還る事は許されなかった。かけらすらも残さずに消えていた。なのに、魂の救いすらも、皆は与えられなかったのだろうか?
(何もやっていないのに。皆ただ、僕を育てていたそれだけなのに。どうしてそんな目に合わなくちゃいけなかったんだろう?)
 ふつふつと、憎しみが育つ。許してはいけない。たとえ、ロザリーが泣こうとも。
(もうすぐ、会える。もうすぐ倒せるんだ、デスピサロが。許さない、絶対に)
 早く逢うのだ、この憎しみが膨らまない内に。復讐の塊になってしまわないうちに。
 何もかも滅ぼしてしまいたくなるから。そう、…デスピサロのように。

     結局「サントハイムの墓」と言うことになりました!はい。 つーことはつまり、この展開はただの思いつきです。…すいません、いきあたりばったりで。 でもそれなりに上手くできて我ながらびっくりです。
 アリーナのお母さんって作中全然出てこないのでただの想像ですが、皆さんの想像と食い違ってない事を祈ります。 お名前出そうかなーと思ったのですが、やっぱり適当にごまかしときました。(ちなみになんとなくミアーナってつけようかなー とは考えてました。※後日、「ユーナ」と付け直されました。)
 ちなみにゲームの王家の墓って棺ありませんよね…?一体本当に何を入れてるんですか?あそこ。サントハイム の墓って言うのもゲーム中でアリーナが「お母様の葬式の時にきた」って言っただけですもんね。かなり謎な場所ですね
 さて、次回は輪をかけて謎な場所ですがとりあえずとっととクリアして、シリアスに参りたいと思います。 デッピーちゃん(笑)とのこと、ちゃんと考えておかなくちゃね。




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