魔神像から東。深い森を抜けたところに禍々しい城があった。 「これは…」 「きっと魔族の城ね!うふふふ、腕がなるわね!」 「姫様、まずは偵察じゃ。何のための変化の杖じゃ、まったく。」 ブライはふう、とため息をつく。そこへぼんやりとした声が割り込んだ。 「でも、ここにデスピサロが…いるんですよね…」 「ラグ…?」 「ずっとずっと探してた。やっとやっとたどり着いたんですね…」 ”デスピサロ様ー!勇者を仕留めました!” その声は今も鮮やかに甦る。その言葉を聞いたときから、ずっとずっと捜し求めていたもの。 仇を討つのだと。みんなの、大好きな皆を死に陥れた者を倒すのだと。その者に生を許せないのだと。 (そのために、僕は生きている、今ここにいるんだから) 仲間たちの声が雑音のように響く。耳に聞こえて、頭に響かない。 「やっぱり八人は無理ですな」 「モンスターは普段あまり団体行動を取らないですからね。トップに従う時は別のようですが…」 「弱いモンスターに上手く化けられればいいけど、この杖、色んな姿に勝手に変身するんだもんね。」 「うむ、せいぜいが四人、といったところだろうか。」 「今回は偵察に留め、デスピサロの居場所を探りましょう。」 「そうね、この城、サントハイムの数倍のモンスターがいるわ。強さも桁違いのが多いわね。…残念だけど いちいち戦ってたら持たないわね。」 「デスピサロはどこにいるのじゃろうか?やはり王座じゃろうか…?」 「出来るだけモンスターがいない場所で戦いたいですしね。上手くそんな場所があればよいのですけれど…」 ラグは強い声で言った。 「行きましょう。」 「ねえラグ、今回は偵察よ?わかってる?」 「ええ、大丈夫です、アリーナさん。いきましょう、デスピサロの元へ。」 そう言ってラグは城へ歩き出した。その背中にマーニャが声をかける。 「ううん、ラグ。今回あんたは留守番よ。」 ラグは勢いよく振り返る。 「どうしてですか?マーニャさん!」 周りを見ると、全員がわきまえた顔をしている。その証拠とばかりにトルネコが答えを出した。 「ラグさん、貴方は今、周りが見えていません。この状態ではたとえ今はわかっていても実際デスピサロを見たときに 冷静ではいられない、そう思えるのです。」 「今、ラグ殿は自分の世界しか見えておらんだろう…今その状態では偵察は無理だと思えるのだ。」 「それに、ラグの気では、モンスターに化けるのは難しいですわ。」 「気…??僕の気は、確かとっても小さいって…?」 ミネアはうなずいた。 「たしかに、今のラグの力量からすると不思議なほど小さいですわ。けれどそれでもそれは、ラグの力量にしては、 です。そうですね…普通の旅の戦士ほどの気の大きさはあります。それに問題は大きさではありませんわ。 ラグの気は、清浄すぎるのです。…神聖、ともいえるでしょうか。モンスターが纏うにはあまりに 不自然な気ですもの。」 「ラグ、私もお父様のことが気になるわ。だけど必ず探るだけにしてくるから。」 皆が言う事は理解できた。だが、ラグは感情で理解できなかった。 「だけど、だけどここまで来たのに…」 マーニャはため息をついた。 「ラグ、あんたの気持ちはわかる。あたしもバルザックを討とうとしたとき、そうだったから。」 「判ってくれるのなら、どうしてですか?」 「ねえラグ、あんた昔キングレオ城からサントハイムへ直行しようとしたあたしとアリーナを止めたの、覚えてる? ねえ、あんたそのとき、なんて言った?」 ラグは顔をあげた。アリーナが続ける。 「ラグはあの時、『最善の状態で挑まないと、後悔します』そう言ってくれたわ。私、良かったと思ってる。 止めてくれて。きっとあのままじゃ、バルザックに勝てなかったんじゃないかしら」 「あたしもそう思うわ。あの時、ラグが止めてくれなかったらオーリンにも会えなかったし、 たとえバルザックに勝てても、きっと後悔した。仇を討つって事は、勢いのまま成し遂げたら駄目なのよ、きっとね。 だから、止めるわ、あんたを。」 ラグはハッとした。覚えている、そのままでは駄目だと言う事を。皆が自分の為に言ってくれているんだということを ラグは心の底から初めて理解できた。けれど… 憎しみが焼くのだ。自分の預かり知らぬ場所で。ただひたすら胸を焦がすのだ。 焦らすのだ、自分の心に。今討たなければならないと。ロザリーの涙をこれ以上思い返さないようにと。 「ありがとうございます…けど、僕は行かなくちゃ、いけない…じゃないと…」 うつむき、喉の奥から絞り出すような声。自分が言っている事が無茶だとか、わがままだとはわかっている。だけど、 止められない。 そのことが全員にもわかったのだろうか。そして今度はミネアがため息をついた。 (この手段だけは使いたくなかったのですけれど。) 「いいですわ、ラグ。そこまで言うのでしたら。」 全員が驚いたようにミネアのほうを見る。ラグも顔をあげる。 「ミネア!あんたね!」 マーニャの怒声が飛んだ。だがミネアはただ、マーニャを見返した。それだけで通じたのだろうか、マーニャは それ以上何も言わなかった。 「いいんですか…?」 ミネアはうなずく。 「ええ、もし、何かあっても私たちがラグを守りますわ。…たとえ、命と引き換えにしても、守って見せますわ。」 その声は、その言葉がラグを覚醒させた。胸の傷をえぐる。 (僕は、僕は…) 今度は皆を犠牲にするのか?仇を討つ事と引き換えに、今度もまた、自分の為に誰かを殺すのか? 胸の鍵を握った。忘れていた、ここに鍵があることを。忘れてはいけない事だったのに。 「すいません…僕、待ってます。しばらくここで色々考えてみます。…ありがとうございます、 止めてくださって。」 そう言ったラグの目は、とても静かだった。森の奥に静かに横たわる湖のように。 デッピーはまだでした。次回は出てきますけれど。しかし魔神像、ほんとうに一体何のために作られたんでしょう? すっごく悩ませて戴きました。 それで、今回の話どおり、次回ラグはパーティーから外れてお留守番です。…自分で書いててなんですが、すごい 反則のドラクエ小説だと思います。勇者を初め、メンバーはとても正統派な設定だと思うのですけれど… 性格とか。おかしいなあ?一重に蒼夢の性格が変わっているからでしょう。 では次回、ラグが不在で偵察劇、パーティーは誰だ?をお送りします(笑)
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