「やばいわ!隠れて!」
 アリーナに押し出され、部屋の隅の彫像の陰に倒される。
「な!」
 マーニャが文句をいう前に判った。モンスターが近づいている事を。
 普段ならかまわない。だが、たった今、この部屋に入る階段を上がる前に変化の杖の効力が失われてしまったのだ。
「なあ、あの話聞いたか?」
「何の話だ?」
 マーニャが変化の杖をさぐっていると、モンスターの声が聞こえた。
「エビルプリースの話だよ」
「エビルプリーストって言うとあの?」
「そうそう、強いのに最近になるまでなんの恩賞もピサロ様から授からなかったやつさ。」
(?ん?)
 ライアンはモンスターが言う「ピサロ様」という発音にすこしひっかかりを覚えた。
「まあ、忠誠を誓ってる、ワリに裏で何かしてそうだったからなあ。でもまあ、あそこまで手柄を立てれば さすがにほっとけんだろうしな。」
「で、エビルプリーストがなんだって?」
「あいつ、ピサロ様を蹴落とそうとしてるらしいぜ。」
 変化の杖を使おうとしたマーニャの手が止まった。
 三人も驚いてモンスターの会話の行方に息を飲む。
「え?あいつが?でも進化の秘法を使うピサロ様に勝てやしねえぜ。」
「いや、どうやらピサロ様を蹴落とす為人間を使うらしい。」
「!?」
 四人は目を見張る。それに気がつかず、モンスターは話を進める。
「人間なんて何の役に立つんだ?」
「いや、でもそう言うからには何か利用法があるんだろう。もし、ピサロ様が…」
「いや、その話はここではよそうぜ。誰が聞いてるかわからんからな。」
 四人がびくっとする。ライアンの剣が鳴った。
「誰だ!」
 モンスターが凄い形相で近寄る。側に近づいたのはマーニャが杖を振るのと同時だった。
「なんだ…スライムか…」
 モンスターが息をはく。
「お前らさっきの話、聞いてたか?」
「ピッキー?」
 アリーナが言う。
「ああ、いいさ。行こうぜ。」
「そうだな。」
 モンスターが階段を下りる。全身の力が抜けた。
「…や、やばかったわね…」
「しかしなんなのだ?先ほどの話は?」
「わかりませんが、エビルプリースト…その名は覚えておいた方がよさそうですね。」
 マーニャが手を震わせ…るが全身がぷるぷると揺れた。
「…人間を利用するって、どういうことなの?また、あいつみたいに実験台にするってこと?」
「とりあえず、気を配りましょう?マーニャさん。もう、させたら駄目よ。人をモンスターの犠牲になんて。」
「そうですね、姫様。そのために私達がいるのですから。」
 ぽん、と頭を叩こうとしたが、その青い体はただ揺れた。
「では行こうか。偵察を早く終え、帰ろう。」
 そうして一行はぷるぷる体を揺らしながら奥へと進んでいった。


 緑の中。緑に溶け込みそうな翠の人間。それに集う三人。その三人はラグの言葉に こめられた感情に触れ、おだやかに微笑んでいた。
「たとえ、その方が死んでも言葉に込められた魂は、その人間の中で彩られるものじゃからな…」
 なにかを懐かしむようにブライはそっと告げる。
「私たちは、その方に感謝しなければいけませんね。私たちがラグさんと旅が出来るのは、その方の おかげですから。」
 トルネコがそっと笑う。
「シンシアさん…ってどんな方でしたの?」
 ミネアがいたわるように聞いた。
「シンシアですか?シンシアは…」
 そうしてとつとつと、話し出した。一緒に剣や魔法の修行をしたこと、最初は勝てなかったこと、 ゆっくりと勝てるようになってきたこと。いつも一緒に遊んでいた事、村の真ん中にあった 花畑が好きだったこと、いつも笑顔だった事…
 ラグの顔はとても幸せそうだった。三人はゆっくりその話を聞いた。そしてミネアが言う。
「ラグは、シンシアさんがお好きだったんですね。」
「え?」
 ラグは心底驚いた顔をした。
「え?違うんですか?」
 トルネコも聞き返す。
「え、えっと…僕、そんなこと考えた事、なくて…特別に思ってたけど、でも…」
 ラグはしどろもどろになっていた。落ち着かせる声でブライが言う。
「そんなに深く考える事もあるまいて。名前の付けられない想いも大切じゃよ。無理に位置付けてしまうことはないんじゃよ。」
「そ、そうですね…」
(もう、シンシアはいないんだから…)
 すこし顔に陰が走る。それに気がついてかミネアが声をかける。
「すいません、ラグさん。私エンドールで言って下さった『大切な人』ってシンシアさんかと思ったので…」
「え?」
 ラグは首をかしげた。
「旅の理由を尋ねた時に、ラグさんおっしゃってましたよね。『大切な人が遺した言葉の意味を探しているんだ』って。」
「ええ、確かに言いましたね…」
「見つかりましたか?」
「いいえ…」
 未だに判らない。シンシアがどんな気持ちであの言葉を言ったのか。これだけ旅をしても。仲間に出会い、絆を結んでも。
「どんな言葉だったんですか?」
 トルネコが聞く。そう言われて、ラグは気が付いた。

 それがとても普通の言葉だと言う事に気がついたから。死ぬ間際の台詞としては、助けを求める何の変哲のない言葉だと。
 それが特別な意味を持っている、そう思った理由は二つ。
 シンシアの顔が助けを求めている顔ではなかったから。とても毅然とした顔だったから。
 そして―シンシアは自らの死を、自らで決めていたから。自分を守る為にと。

 ”私を、守ってね。私を、救ってね。”
 その台詞は反響せずにただ胸にしこりとなって残る。解けない、氷。それが心に、魂に張り付く。
「とても…気高い言葉でした…」
 ラグはそれだけ言って、哀しげに微笑んだ。


 城中をめぐり、ついにデスピサロの話があると言う会議室へとたどり着いた。
「と、とおいわね…なんでこんなに…」
「マーニャ殿。声を静かに…」
 言われた椅子に座り込んで愚痴るマーニャをライアンは諌める。
「結構厳粛な雰囲気ね。モンスターでも上下がきっちりしてるのね。」
「カリスマのようなものがあるのかもしれません。」
 雰囲気に慣れた様にアリーナとクリフトが話す。そうして過ごしている内に、空気が濃くなった。
「静かに!ただいま、ピサロ様がいらっしゃるぞ!」
 前にいたモンスターが叫ぶと同時に水を打ったように静まる会議室。そして。
「皆の者、良くぞ集まった。」
 光る銀の髪をなびかせ、そこにはイムルの夢に見た姿、デスピサロがあらわれた。そして威厳ある声で堂々と話す。
「諸君。地獄の帝王のことは知っておろう。」
 そう話すピサロを見ながら四人はこそこそと話す。
「あ、あれが私と戦い損ねたデスピサロね…」
「なかなか畏怖堂々としておりますね。たしかに魔族の王と言えるだけはあるかもしれません。」
「しかし想像していたより優男だな。」
 初めて見たライアンが、感想を述べる。
「そうね、ロザリーの恋人として見るとおかしくないけど、こんなモンスターの王としてはもったいないほど いい男よねー。…でもさ、なんか気になるわね…」
「なにがだ?」
「夢以外じゃ知らないはずなのに、なんか知ってる気がするのよ…」
「そういえば、そうね。なんか懐かしいって言うか…」
「そうですね。私はなにか違和感を感じます。」
「ああ、何か知っているけど知らん。そんな気がするな。」
 ピサロの声が大きくなった。
「そこでだ!ここから西の鉱山の町、アッテムトで人間どもが地獄の帝王エスタークを掘り当てたのだ! 我らはエスターク帝王をなんとしても我が城にお迎えしようと思う!」
 周りから歓声が飛んだ。そしてピサロが動く。
「飛べる者は我についてくるがいい!そして飛べぬ者は自らの足でエスターク帝王の元へはべるのだ!では、行くぞ!」
 ピサロはそう言うと近くにあったバルコニーから呪文を唱えた。虚空へ消える。
 呪文が使えるもの、空が飛べるものはそれに続き、できないものも、各々会議室から去っていった。
 そして四人だけが残った。

「世界に闇をもたらす者・・・エスターク。ほっとくわけにはいきませんね!」
「当たり前でしょ!クリフト!お父様があの時見た夢はあれだったのよ!それに、だからお父様はデスピサロに捕まえられたのよ! 倒さなきゃ!デスピサロも、エスタークも!」
 アリーナが盛り上がる。その横で、ライアンは顔を下げるマーニャを覗き込んだ。
「どうかしたのか、マーニャ殿?具合でも悪いのか?」
「アッテムト…」
 マーニャがいつになく暗かった。アリーナとクリフトもマーニャを見た。
「どうしたの?なにか怪我した?」
「回復呪文かけましょうか?」
 マーニャが首を振り、言う。
「大丈夫よ、早く戻りましょう。アッテムト。…もう二度と行きたくなかったわ、あの町には…」


 ついにでっぴー登場です!というか、よかった、一話で終わって…ほとんど無理やり納めましたけれど。
 余り覚えてないので昔の冒険日記書いたときのメモを引っ張り出して書いてました。でも字が汚くて余り読めない…しくしく。

 サントハイム…どうしようかと思ったのですが、FC版の設定をちょっとだけ借りました。基本はPS版なんですけれど、 この小説。だけどサントハイムの話、ほっとくのもなんだと思ったのと、アリーナがデスピサロに戦いを挑む最も 強い理由が欲しかったんです。「デスピサロを倒したらもしかしたらお父さんが戻るかもしれない」じゃ、ちょっと弱いかなと。

 そして、ラグ君。「僕は、ずっとシンシアの言葉に救われてたんだ…」この台詞はずーっといわせたくて、だけど ずっとラグ君言ってくれなくて、すっごく苦心しました!やっと言ってくれたよ…長かった…ふう、ちょっと一仕事終わった気分です。
 ですが小説はまだまだ終わりません!次はエスターク編!これも一話で終わるか?多分、予定では八人で挑むと思います…。

 



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