「そういえば…どうしてロザリーさんは生き返らなかったんでしょう?」
 夢の哀しさを振り払うようにラグは言う。クリフトはなれた様で答えた。
「そのためにはどうして呪文によって私たちが生き返るかを知らなければなりません。」
 王宮の授業を思い出しアリーナは顔を横にそらした。それをブライが目ざとく見つける。
「姫、ちゃんとお聞き成され!きちんと学習する事が王への期待に応える事なのじゃよ!」
「私は呪文使えないもの、関係ないわよ。」
「いやいや、アリーナさん。そうではありませんよ。わからないことも勉強して知ることによって、相手の行動や 望みがわかるのですよ。」
 トルネコの言葉をアリーナは両手を振って止めた。
「もう、トルネコさん!やめてよ!これ以上口うるさい先生なんて要らないわよ!」
 その行動がが皆の陰鬱を忘れさせる行動だと判っていたから…皆は少し笑った。

「それでは話を続けますね。私たちが生き返れるのは死によって 魂が離れようとするのを呪文で呼び寄せ、元通りの肉体へ宿らせるわけです。ですが、ただ 魂が宿っただけでは生き返る、と言うことにはなりません。いくら魂があってもそれを 自らの肉体へ保護する力、それがなければ出て行ってしまいます。 たいていの生き返すことの出来ないのはこの『力が足りない』状況です。」
 ミネアがクリフトの言葉を継ぐ。
「あとは余りに長いときを経てしまった場合ですわね。余りに長いときが経ってしまった人間の魂は 空に登って行ってしまいます。そうなってしまった魂を呼び戻す事はできませんわ。天に昇る 時間は人によって違うので、どうとは言えませんけれど…強い心残りがあったりして、地上に残っても たいてい魂が変質してしまいます。よほど強い精神力があれば別ですけれど、その場合でも、たいてい 体が地に還ってしまっていますから生き返ることはできませんわ。」
 それはラグの村でもあった伝承だったので、ラグはたやすく理解できた。
「だが、我らは時が経っても生き返る事ができよう。」
 ライアンが当然の疑問をぶつける。クリフトが答えた。
「それは神のご加護です。神が我らの魂を保護してくださっているのです。我らの体が 地にならぬよう、我らの魂が天に登らぬようにと。」
 アリーナがつぶやく。
「でも、ロザリーさんの場合は…体はあったわ…」
「多分、『力』が、もうなかったのでしょうね。生き返る気もなかったみたいだし。」
 ミネアが姉の言い方に不本意ながらもうなずく。
「ええ、その『力』というのは素質はもちろんですが、なにより本人の生きたいという意思が大きく 影響します。ロザリーさんはエルフですから素質の点では問題なかったと思うのですけれど…」
「死に、救いを求めたのじゃろうか…」
「…それほどまでに、この世界は…苦しかったのでしょうか…愛する人のいる世界を…」
 ブライをトルネコがしんみりと言う。8人全てが思った。
 愛する人と決別させる想いとは、一体どんなものなのだろう、と。


「じゃあ、とりあえずリバーサイドに行きましょう。この壺見せたいですし。」
 宿を出て、ラグが皆に提案した。とりあえず行く先もないので、異論なく決定された。ルーラを唱える。
「相変わらず、この村、船ばっかりね。」
「そんなすこしで変わるわけないじゃない。」
「でも、ずっと船に頼ってばかりだと体なまっちゃうんじゃないかしら?ちょっとは泳いだりすればいいのに」
 女三人の少しずれた会話を横目に船は学者の家についた。トルネコは壺を抱え、船を降りた。ライアンが トルネコに笑いかける。
「トルネコ殿は随分張り切っておられるな。」
「ええ、空飛ぶ乗り物。それならば戦えなくとも様々な大陸を行き来することができるでしょう。物品も運びやすくなりますし、 とても安全ですから。」
 その対極に位置しているのがクリフトだった。
「ああ、神よ…空を飛ぶ…その様に恐ろしい事が本当に起こりえるのでしょうか…それも 私に課せられた試練なのでしょうか…」
「大丈夫ですか?クリフトさん?」
 ラグがうつむくクリフトの顔を覗き込んだ。顔は少し青ざめている。
「だ、大丈夫ですとも。私はラグさんと共に旅をしますから…で、ですが余り高いところは…」
「…気をつけますね…でも乗ったことのない乗り物を上手く操れるといいんですけれど…」
 なにげなく言ったラグの言葉はクリフトの顔をさらに引きつらせた。

「すいません、お邪魔します。」
 トルネコが声をかけると仕事に没頭していた学者が顔をあげる。少しいぶかしげに眺めたあと、一度見た 顔だということに気がついたようだ。
「ああ、この間の方ですね。どうか…おや?ちょっとその壺を見せてくださいますか?」
「ええ、貴方にこれを見せようと来たんですよ。」
 トルネコは壺を渡した。学者はしばらく調べた後蓋をあけ、ガスを出す。
「こ、この壺は!おねがいします、この壺を私に下さい!」
「いいですよね、ラグさん。」
 トルネコはラグの方を振り返る。ラグはうなずいた。
「ただ、お願いがあります。貴方の言う乗り物が出来たらそれを売ってくださいませんか。」
 トルネコの申し出に学者は首を振った。
「いいえ、お金は要りません。もともとガス以外は安いものなんです。空飛ぶ乗り物、気球第一号を あなた方に差し上げましょう!もう形は出来てます、裏庭に来てください。」
 そう言ってそのまま学者は裏庭に駆け出した。
「ああ、もうできているなんて…神は我らを地にお作りになられた。ならば人が空を飛ぶのは 神に反しているのではないでしょうか…どうして人は地を生きながら空にあこがれるのでしょう…」
 一縷の望みにかけていたらしいクリフトが膝をがっくりと落とした。その横でアリーナが目を輝かせている。
「空が飛べるなんて素敵ね…鳥から見た世界はどんなのかしら…空のむこうにはどんな 敵がいるのかしら…あら?クリフト大丈夫?」
 覗きこんできたアリーナの笑顔は青空のようで。
(地を生きるべく生まれた人間だからこそ、手の届かない空に憧れるのでしょうか…)
「大丈夫です、姫様。」
「そ?じゃあ行きましょうよ。そんなとこに座ってないで。ほら!」
 そう言ってアリーナは手を差し伸べた。
 人が空へ手を伸ばす。それは不相応で恐ろしい事。
 クリフトはそっとアリーナの手に触れた。
 けれどだからこそ、こんなにも触れたいと、思うのだ。

 ラグたちは見守る中で、かごについた布はどんどんと膨らんでいった。学者はトルネコに操縦を説明している。
「これが気球…」
「大きいですわね…」
 ラグとミネアが唖然としてつぶやいた。ライアンとブライは上を眺め、マーニャは見すぎて首が痛く なったと首を抑えた。
「こんなのが飛ぶの?ただの布に見えるけどねえ。」
「しかし力強いな。しかしどこまで大きくなるのだ…」
「これが空をとび、わしらを山脈の向こうへと連れて行くのじゃな…しかし姫とクリフトは何をしておるのじゃ?」
 クリフトとアリーナが扉を開けた。
「すいません、遅くなりました。」
「すっごーい。ただの布がこんなにもおおきくなるなんて!」
 そうしている内に、布は膨らみきり、かごを止める紐を力強く引き始めた。
「さあ、皆さん、乗ってください!」
 馬車ごと入るような大きい籠に揃って乗り込む。全員が乗り込んでもなお、籠は紐に引かれて地上に とどまるのを振り払うように、力強く宙に浮いていた。
「では、ついに私の人生の成果が出る時です!どうぞ、良い旅を!」
 そういって学者は紐を外した。ふわり、と風に乗り、気球は空へと飛んだ。
 空へと近づく。ロザリーが向かった場所。シンシアがいる場所へ。 その向こうに、自分の目標があることを願って。




 ロザリーのイベントが終わりました。実はFC版とPS版の違いなんですが、FC版では言い終えてないんですよね、これ。 たった一言ですけれど、その一言は大きかったんじゃないかな、と。PS版になって言えたという事は ロザリーにとっても大きかったと思ってます。

 気球が一晩置いてないのは…さっき寝たばっかりじゃん、って思ったので。それだけです。でもガスの壺って 気球に取り付けないとあがる事も降りる事も出来ないんですけれど…そこらへんは魔法かなんかでカバーしてるんでしょうか? ちょっと気になります。
 次回の話のつながりは 番外編になります。リンクからどうぞ。話の展開には関係ありませんので、ご安心ください 。あの洞窟へ行くイベントです。楽な気持ちで楽しんでください。  



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