「…僕の両親は、やっぱり…」
 乾いた口を湿らせながら、ラグはマスタードラゴンにつぶやく。
「おぬしも知っておろう。数々の天空人の伝説に、恋物語があったことを。あれがおぬしの両親だ。」
「そうですか…」
 うすうす気がついていたから、ラグはなんとも思わなかった。あの時のお墓が自分の父親なのか、そうぼんやりと思っただけだった。 だが、一つ質問をして、ラグの心は少し落ち着いた。一番聞きたかったことを、聞く。
「…どうして、僕が勇者なんですか?どうして僕が勇者でなければならなかったんですか?…僕は自分が 勇者だなんて、思えないんです…」
「…歯車が狂わなければ、おぬしはそう思うこともなかっただろうに…」
 マスタードラゴンは哀れみの眼を向けた。


「で、姫様、されたいこと、とはなんなのでしょうか?」
 クリフトが、アリーナに聞いた。アリーナはにっこり笑う。
「言いたい事があるの。クリフトも着いてくる?」
「ええ、是非お供させていただきます!」
 いまだ知識欲絶えぬブライは飄々と兵士に告げた。
「じゃあ、わしはここの書庫にでも案内していただこうかのう。」
「私は先ほど行った部屋の、不思議な若木が気になりますな。」
「ふむ…ここにはどんな敵がいて、どんな武術を使っておるのだろうか?」
「私はルーシアさんにもう一度ご挨拶をしたいですわ。」
「あ、じゃああたしも行くわ。なんか変な生き物いるって言うし?踊り子仲間のいい土産話になりそうだしね」
 皆も、ラグを気にしながらも、思い思いのプランを立てた。そして、天空の城を、ただ一度も 見たことのない天空の城を、あの邪悪な攻撃を忘れるために探索する事にした。


「歯車?」
 ラグは聞き返したが、マスタードラゴンはそのまま話を進めた。
「おぬしでなければならなかったのだ。ラグリュート、おぬしは全てを自らの心の内に省みる事ができるもの。 そして他者に手を差し伸べようとするもの…おぬしでなければ決して成し遂げられぬ事だった。」
「…貴方はわかっていらっしゃるでしょう?僕が世界平和なんてものの為に旅をしてきたわけじゃないと。」
「我はそれでもかまわぬ。おぬしがどんな目的であれ、その結果この世界が守られるならば。… この世界は我が授かりし、ただ、一つの宝だからな。…おぬしがたとえどのような心を 持とうとも、この世界に仇なさぬならば、そして、世界を救うならば、それは我にとって勇者と 認められるものなのだ。」
「…かまわないというのですか?僕が、たとえ、勇者の資格がなくても。」
 マスタードラゴンはゆっくりとうなずく。
「その心のままに、ゆくが良い。おぬしが正しいと思う方向へと。それが、ラグリュート、おぬしの運命なのだ。」


 アリーナの導かれるまま、クリフトは扉に立った。
「ここは…」
 クリフトは気がついていた。それは先ほどさんざんに無視されたエルフの部屋だった。
「姫様。ここで何をなさるおつもりで…」
 アリーナはノックをしようと扉に近づいた。その中から声がした。
「こんな形なんて…」
 リースの声は涙声だった。
「あんなのって、あんなのってあんまりです!…私は、私は!」
 震えたと嗚咽の声がする。それをただ、抑えるように姉のエルフは言う。
「…あれが、あの方の望みだったのです。…幸せそうになさってたでしょう? あの方も、とても立派でした。…ですから泣いてはいけませんよ。」
「?」
 いぶかしげに思いながらアリーナはノックをした。
「お邪魔致します。」
 そうして入ったアリーナとクリフトの眼には、先ほどと変わらぬ様子のエルフの踊りが見れた。
「あの、お話があるんです。」
「ツーン」
 エルフは耳を傾けようとしなかった。アリーナはそれに気にせず言う。
「さえずりの塔ではありがとうございました。覚えてらっしゃらないでしょうけれど、リースさん。そしてお姉さん、 私は貴方達があの時落としていってくれたさえずりの蜜に助けられました。」
 クリフトはアリーナを見る。その表情には、次代の王たる風格が、確かに感じられた。
「…あなた達には不本意だったでしょうけれど。そうじゃないとお父様はきっと一生口の聞けないままだったから。 私は、呪われて口の聞けなくなった父のために、あなた達が集めていたさえずりの蜜を探していたんです。 ただ、感謝してます。…ありがとう…」
 そう言って頭を下げた。クリフトも、感激の気持ちでいっぱいになりながらも一緒に頭を下げる。
「踊り、お邪魔してごめんなさい…それでは失礼します。」
 そういってアリーナは部屋を出た。クリフトも続いて部屋を出ながら、一度だけ振り返る。
 エルフ達は、不思議そうな顔をしながらこちらを見ていた。


 最後にラグは気になったことを聞いてみた。
「ラグリュート、ってなんですか?」
 マスタードラゴンは、自分をラグリュートと呼んだ。 ピサロもそう、自分のことを呼んでいた。しかしその言葉にマスタードラゴンは楽しげに笑った。
「ラグリュート。それがおぬしの本当の名だ。私が、天空の勇者にその名を与えた。… おぬしを託した村の者は、それを略して呼んだようだな。」
「…皆は、…皆はこの名を、知っていたんですか?」
 マスタードラゴンは、はっきりとうなずく。
「ああ、我が確かに言った。あの者たちはそれを知っていた。」
 それだけを聞いて謁見の間を出たラグの胸に、こみ上げる気持ちがあった。
 ラグは判った。皆は略して呼んでいたんじゃないことに。あの村の一員として新たに名前を付けたのだということに。
 たとえ別れの瞬間も、励ましの言葉も、皆はラグリュートじゃなく、ラグに向かって言葉を発した。 村の最後の一人の為に。頑張れ、と。けして勇者の名を呼ぶことなく。
 父も、母も、師匠も、先生も…皆、皆、たしかに愛してくれていた。
 村の一員の、ただの『ラグ』を。

(必ず、仇を討つから。…僕も、皆を愛しているから…)
 村の皆に一番近いところ。そこにいることに感謝しながら、ラグはただ、ひたすら村の皆に祈った。


   天空の城編、終了!ラグリュート、この言葉は、村の最大の禁忌。そして。村の最大の宝。大きな愛にくるまれたからこそ、 ラグは今のラグだということを、はたして万能ではない竜は知っているのでしょうか?
 ルーシア全然活躍しなかったですねー。だって仲間の期間短いせいで、愛着無いんですよ。これがまた。 ついでにドランは仲間になりません。だってしゃべらないし。私全然使わなかったんです。導かれし者じゃないしね。

 アリーナのエルフイベントも出せてよかったです。…本編に出てきてないイベントを出してしまってすいませんー。 ドラクエ4をやった事ない方、アリーナは2章でリースに逢ってるんです、って事だけ覚えておいて下さい。
 それでは、次回魔界編です!驚くべき展開が待ち受けているか、それは誰も知らない。
 



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