地上に降り立った時の事は、覚えていなかった。ただ、天空城に登る時と同じような感触がしたような気がした。
「ああ、神よ!感謝いたします!!!!!」
 涙ながらにクリフトが祈っていた。
「これであんたも、もう高いところが平気になったんじゃないの?」
 マーニャが笑いながらからかっている。アリーナも笑いながらそれに同意した。
「なんだか、とても強い気を感じます…これが地界の気…これが、デスピサロの気…」
 目の前にある、岩に囲まれた洞窟。ミネアはその入り口を凝視していた。
「やはりここに入れということなのだろうな…」
「この年になって洞窟は堪えるのう…」
「何を言ってるんですか!ブライさん!私なんて下手な洞窟だと腹がつっかえるんですぞ!」
 ライアン、ブライ、トルネコ。…どうやら全員無事なようだった。
「ヒヒィーン」
 ふりむくと、そこにパトリシアがいた。
「ああ、そうだったね。パトリシア。君も仲間だよ…一緒に行こう?」
 パトリシアは嬉しそうに鼻面をラグに押し付ける。
 そして、魔界への第一歩を踏み出した。


 そこは地上ではありえない空間だった。
 異質な空気。上がっていないはずなのに、なぜかただ、下りていく階段。見たこともない金属で彩られた壁。
「確かに、近づいています…どんどん強くなっていきます。魔の…だけれど妙に心地よいですわ…」
 ミネアの導き。強くなっていく敵。皆の緊張が嫌がおうにも高まっていた。そして。
 扉の向こうに、紫の空と、太陽のない景色が広がっていた。

「ここが…魔界…」
 誰が言ったのか、既にわからない言葉。それは皆の心でつぶやいた言葉だったから。
「なんだかくらくら来ますじゃ…」
 濃い魔の気にあてられて、ブライは少し顔色が悪かった。
「ブライ、大丈夫?」
「回復呪文をかけましょうか?ブライ様?」
「いやいや、すこし夜更かしが過ぎたようじゃな。しばらく休めば治るじゃろう。」
 そう言うブライにライアンは馬車の扉を開ける。
「すこし馬車の中で休まれよ。その間に・・・どこか休める場所があればいいのだが…」
「いいなー。ねえ、あたしも馬車に入りたいわー。」
「でも不思議ですな。見て下さい。洞窟を降りてきたはずなのに、なぜか私たちは塔から出てきたようですよ?」
 ラグが周りを見渡すと、すぐ近くに祠らしきものがあるのが見えた。
「あそこで休めるかもしれません、行ってみましょう。」
「気をつけていきましょう、ラグさん。ここは魔界ですから、なにが待っているかわかりません。」
 クリフトの言葉にうなずいた。あれがピサロの居場所の可能性はないだろうが、もしや手下がいるかもしれないのだから。
 きぃぃぃ、音を立ててきしむドアをあける。そこはまるで時が止まったような空間だった。
「…なんて、神聖な空気…ラグ。ここは安全な場所です。ブライさんたちを呼びましょう。」
 そこはまさに祠だった。ここだけ魔界の空気から隔離したような・・・心が現れる空気に満ち満ちていた。 ラグはそっと、奥へと足を進めた。すると、そこには炎が…いや魂があった。
 皆が息を飲む中、ラグはおだやかに声をかけた。
「どなたですか?」
 その魂は天空人の姿へと変わる。
「…ここは希望の祠と呼ばれる場所。魔の気に染まる中の唯一の希望の場所。 勇者、ラグリュートよ、貴方が来るのをここでずっと待っていました。」
「僕を…?」
 天空人はただ空を見ながら言葉を発する。
「デスピサロは城の周囲に結界をはり、そこで進化を続けています。 まずは結界をやぶることです。4つの祠。そこでデスピサロに仕えし魔の者が、結界を守っています。」
「つまり、四人敵をぶちのめせばいいのね!」
 アリーナが張り切って言う。天空人の魂はうなずいた。
「導かれし者たちよ。貴方達に神の、そしてマスタードラゴン様のご加護がありますように…」
 そう言うと、天空人はそっと手をさしのべた。その手の先から光るものが発せられ…一同の 体に再び力が宿った。
「あら?なんだか元気出てきたわ!あのおばさんもやるわね!」
「姉さん罰当たりな事、言わないで!」
「しかし助かりました…神よ、尊きご加護、感謝いたします。」

「とりあえず、結界を壊さないとデスピサロを倒す事は出来ないんですよね。」
「なんだかまどろっこしいわねー。」
 マーニャがうんざりと言うが、アリーナは腕を振り回している。
「いいじゃない!とっとと行きましょうよ!腕が鳴るわよ!」
「ふむ、確かにここで考えていてもしかたあるまい。その祠とやらを一つずつ当たっていくしかないだろうな。」
 ライアンの意見に皆がうなずいた。
「わしももう元気じゃし、早めに出発した方がよかろうて。姫がこの祠を壊してしまいそうじゃ…」
「いえ、ブライさん、いくらなんでもそこまでは…」
 そう言うトルネコにブライが重々しく首を振る。ラグは少し笑って立ち上がった。
「そうですね、じゃあ、行きましょう。」


 希望の祠から出て、四天王を探して、歩く。
 晴れない空。燃える溶岩、毒の沼地。
 そして、何よりも中央に立つ、禍々しい城。
「…たしかに結界が張られてますわね…」
「判るんですか?ミネアさん?」
 クリフトがそう聞くと、ミネアはうなずいた。
「ええ、気をつけてくださいね。触ると怪我しますわ。」
 そこに見えない力の壁。それを確かに読み取ってミネアが言う。クリフトは 城の方へ足を向けているアリーナを、即座にとめた。
「やっぱり結界を守ってる敵を倒すしか解けないんですか?」
「ごめんなさい、ラグさん、そこまでは…」
 首を振るミネア。ラグは手を振る。
「いえいえ、いいんですよ。」
「しかし凄いですな、見えないものまで鑑定できるなんて。」
 トルネコがうんうんとうなずく。
「ラグ殿、あそこになにやら見えるのだが…」
 ライアンが指差した先を皆が見た。そこには一つの祠が立っていた。
「…あたしにも、わかるわ、何か力を感じる…」
 マーニャの言葉どおり、なにやら嫌な気が、その祠を包んでいたのを全員が感じた。
「…なにやら魔力を行使しとるようじゃ…間違いないじゃろうな・・・」
 緊張の汗をかく。
「間違いないのね!あそこにいるわ!」
 アリーナの明るい声に、皆の緊張が一気にとかせた。
「よし、とっとと倒してデスピサロをぶちのめしましょう!」
「姫様…せめてぶちのめすは辞めてくだされ…」
 ブライがいつもの調子で言う。魔の空気に圧倒されていた皆が、完全にいつもの調子に戻る。
「そうだな、このようなところにいてはなにやらしけってしまいそうだ」
「そーそ。あたしの美貌も台無しだしねー」
「姉さんの厚化粧も取れそうだしね。」
「あら、失礼ね、あたしは天然よ!それを彩らせるために、化粧ってのはするもんなの!」
「たしかにそうですね、ネネも化粧をしなくても綺麗ですが、するとまるでよその人のようにどきどきします。」
「…化粧をした姫様…どんなにお美しい…いやいやそれでは他の男が姫に…いや、それを 私がどうこういえる筋ではないのですが…ああ、私はどうすれば!」
 旅はいつもにぎやかだった。楽しく、自分のペースで。だからこそ、自分達は強くあれたのだ、と思う。

 祠の中で、なにやらうごめく人形を交わし、皆は奥へと進んだ。
「人間が…この祠になんの用だ…」
 そこには異形の姿のモンスターがいた。
「結界を壊しに来たのよ!大人しく倒されて!」
 アリーナな爪を構える。モンスターは不気味な声で笑い出した。
「そうか、お前達か、デスピサロ様の進化を邪魔しようとする不届きものは。」
「人の父の形見を奪っといて、不届きも何もないわよ。」
「そうです!あれは父がみつけ、封印しようとしたものですわ!」
 マーニャとミネアが水をさすと、モンスターの笑いが止まる。
「小ざかしい人間どもめ!デスピサロ様の手を下すまでもないわ!デスピサロ様の 四天王の一人に選ばれた俺様が成敗してくれる!」
 そうしてヘルバトラーは炎を吐いた。炎も魔物の一部と言わんばかりに 禍々しくラグたちへと襲い掛かった。
 それが、戦闘の合図となった。

 血を吐き、苦しげにヘルバトラーはうめく。
「おぬしらが…勇者だ…な…。…あ、あやつめ…た…倒したと…いうたではないか…」
 ずずんとすさまじい音をたて、ヘルバトラーは倒れ、そして大気に消えた。
「僕は、勇者なんかじゃない。」
 ヘルバトラーの血で汚れた手をラグは見た。
「ただ、…多分自分の決められた道へと、進んでるだけなんだ…」
 クリフトが、そんなラグの手を半ば乱暴に拭いた。
「ラグさん、血は清められます。神によって…そして人によって清められます。 許されてこその神ですから。」
「ありがとうございます。」
 綺麗になった手をひらひらさせる。
(いまさら、逃げるつもりなんてないから。)
 そう思って微笑んだ。

「ねえ、あと三人いるのよね?」
「そのはずよ…あーあ、こんなのが3回もあるのねー。」
「めげてる場合ではなかろう。早く結界を解かねば。」
 ライアンの言葉に全員が前を向く。ここで落ち着いているわけには行かないと。
「恐ろしい邪気を感じます…結界が一つ解けただけではありません…進化がなおも深まっています…」
「急がなくてはならんじゃろうな…」
「そうですね。まだ一つですから。いきましょうかな。」
 よっこいせ、とトルネコが重い体を持ち上げて立ち上がる。今まで疲れて座り込んでいたのだ。
「…ポポロは戦わせたく、ないですなあ。」
 戦う理由。トルネコが立ち上がる理由。そして、八人が次へと急ぐ理由だった。


   

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