ふたつめの、祠。それは城と結界を見ていた為に見落としていたらしく、希望の祠とヘルバトラーの祠の間にあった。
 ぎぎ、と扉を開ける。
「しかし、四天王と言っておったが…なにゆえその様な者がこのようにほこりくさい所におるのじゃろうか?我が国ならば ありえないことじゃて。」
「魔物と人間とは感覚が違うんじゃない?」
 マーニャが軽くいなす。
「きっと、この結界を作ると言う名誉を授かったからだろうな…王の為ならば、そう思うのは魔物も人も変わらんのだろう・・」
 ある種、ライアンと同じもの。
「なんでしょう?魔法陣がありますわ?」
 少し進むと広い広間に、血のように赫い、魔法陣が据えてあった。
「魔法が得意な敵なのかしら?…ちょっと嫌ね…呪文を唱える前に先手必勝、ってところかしら…」
「姫、守りは私にお任せください!」
 魔法陣を見ながら騒ぐ声を、太い声がさえぎった。
「・・・騒がしいな・・・」
 何か億劫な声。ラグたちは一瞬にして警戒して、少しずつ近づいた。
 そして玉座に、重々しい鬼のようなモンスターが座っているのを見た。
「人間…か…?」
 そう言うとモンスターは笑った。何か上機嫌のようだ。
「はっはっは!よくぞここまでたどり着いたな、敵ながら天晴れな奴!そうじゃ、 褒美をやろう。お前の足元にある魔法陣の中央あたりを調べてみるが良い!!」
 しばし、その魔法陣を眺めた。ラグが笑う。
「…嘘はつかないほうがいいですよ。貴方の目は…そんな人を褒め称えるような目じゃないです。」
「馬鹿にされたものですな、見ただけで何か褒美になるような物がないことくらい判りますて。」
 トルネコも笑った。ブライが軽蔑の目で見る。
「愚かじゃな…このように騙してでしか行動できぬのじゃな。ピサロの四天王も落ちたものじゃて。」
「まったく、我と同じなどと思ったのがまちがいだったな。」
 ライアンの言葉。そして全員の冷たい視線。モンスターは逆上した。持っていたこん棒を振る。
「けけけ、素直にひっかっかっていれば、楽に死なせてやったものを!このギガデーモン様が始末してくれるわ!!!」
 だが、遅い。すでにアリーナは最初の一撃を、ギガデーモンに加えていた。

「卑怯なわりに、あっけなかったわね。」
「アリーナさんが強いんですよ。」
 腕を振りながら、言うアリーナにラグが言う。ミネアがラグに語りかける。
「ラグも、随分強くなりましたね。最初見たときは、本当に細くて、儚げでしたのに。」
「きっと、たくさんの道を今まで歩いてきた証拠ですね。…私も少しは強くなったのでしょうか…」
 クリフトが自らの腕を見て言う。その腕は旅に出た頃とは比べ物にならない、綺麗に筋肉のついた腕が そこにあった。
 ラグは微笑む。沢山の時を経ても、ラグの、その表情だけは変わらない。 いつもラグは笑っていた。いつも「勇者」らしく微笑む。困った時も、楽しい時も。ただひたすら微笑む。
(旅を始めた頃は、まだ心の悲鳴が聞こえたのに。)
 ミネアは不安に思った。ラグの、心は今どうなっているのかと。


 希望の祠で少し休憩をした後、今度は逆の方向へ。
 そこに、小さな祠があった。古い古い祠だった。
「他の祠も古いけれど、この祠はもっと質素ですね。」
 他の祠の外の世界を圧するばかりの禍々しい気は、ここではただ、結界の一点へと 向かっているのだ。
 禍々しくも純粋。そんな一見相反するものがここにあった。
「不思議な・・・とても不思議な感じがします…」
 祠の石の床をかつんと鳴らしながらミネアが言う。
「やっぱりモンスターも、色んな性格のがいるのよね。」
「いいスライムって言うものいましたからなぁ。」
「うむ、ホイミンはモンスターだったがいい奴だった。」
「美形だったしねー。あたしもホイミスライム育ててみようかしら。」
 軽口を言いながら、その顔は軽くない。
 純粋であると言う事は、強いと言う事なのだ。唯一つのことを思いつめている者は、 ただ、それだけで心自身が強いのだから。
 そして、暗がりの奥に、一匹の竜がいるのをラグたちは見つけ、そして その竜も、こちらを知覚したようだ。
「私はアンドレアル。ここの結界を守るもの。おぬしらは、ここに何用だ…?」
「僕は、ラグ。…デスピサロを倒す為に、結界を解きにきました。」
 ラグの馬鹿正直さに、皆が少し頭を抱えた。
 そして、その言葉を聞き、案の定、アンドレアルは怒り狂った。
「そうか、お前がラグリュートだな!私はピサロ様にこの結界を守れと 命じられた!命に代えても結界を破らせるわけにはいかない!人間どもめ!滅びるがいい!」
 そう言ったとたん、アンドレアルは3匹に増えた。そうして襲い掛かってきた。
 マーニャはメラゾーマをかけながらラグに文句をいう。
「ら、ラグの馬鹿!馬鹿正直に言うから3匹に増えちゃったじゃないの!」
「すいません、マーニャさん・・・つい…」
「いや、ラグ殿。どのみち同じだ。気にすることはない。」
 メラゾーマの追い討ちをかけながらのライアンの言葉に、アリーナは攻撃しながらも同意する。
「そうよ、いっぺんに片付けちゃえばいいだけよ!」
「姫様!余所見はなさらないで下さい!」
 クリフトがスクルトをかけながら言った。
 ブライがマヒャドをかける。一匹が凍り、床に伏した。
「まずは一匹じゃ!」
 ブライが言う。…すると、残りの二匹のうちに一匹が、二匹に分裂した。
「なかなか気持ちが悪いですな…」
 分裂した一匹に攻撃していたトルネコが、少し間を取りながら言った。
「同じ物が同時に3匹。…ありえないことですが、それを魔力で可能にしているのかもしれません。 ですが、その3匹が限界なのでしょう…ラグ、どうします?」
 ミネアの言葉にラグが鋭い声で指示を出す。
「同時に倒しましょう!3匹以上増えないなら、多分それが一番です!マーニャさん、ライアンさんは今増えた奴を 御願いします!トルネコさんは僕と、今増やした方を御願いします!ブライさんとアリーナさんは最後の一匹を! クリフトさんとミネアさんは回復と補助をして下さい。余力があればミネアさんはバギクロス、クリフトさんは ダメージ具合を見て、足りないと思った敵を御願いします!」
 ラグの声は、どんな混戦中でも良く響く。そしてその指示はいつも正確で、命を預けられるものだった。
 全員はラグの指示に従って、敵に向かい合った。そして、攻撃を加えていく。
「悪いけど同じものが三人いるよりも、頼れる仲間が八人いるほうが強いにきまってるじゃない!」
 アリーナのその言葉に励まされるように、皆は最後の一撃を、力を込めてそれぞれの、そして同じ敵へと ぶつけた。
 そして、アンドレアルは倒れ、一匹へと戻った。憎憎しい目でこちらをにらむ。
「ロザリー様を…ロザリー様を人間が殺し、 失ってしまったことで…ピサロ様がどれだけ嘆いた事か…おぬしらはわかっているのか! すべては人間の仕業ではないか!!!人間なぞ、滅びてしまうがよい!!!!」
 その声で、皆はアンドレアルがあれほど純粋でいられた理由がわかる。
 このモンスターは本当にピサロのことが好きだったのだ。
 だが。
「ふざけないで!じゃあ何?ピサロはあたしたちの大切な人を、奪わなかったとでも言うの?!」
 マーニャが怒鳴る。
「お父様が、お父様が何をしたって言うの!勝手な事ばかり言わないで!
 アリーナが力の限り叫ぶ。
「オーリンは、そのせいで傷つきましたわ。…バルザックも狂ってしまった…魔物の罪に目をつぶるのは よして下さい。」
 ミネアが冷たい声を出す。
「我が国民は苦しんでいるのじゃぞ、今も。おぬしらの王に我が王が奪われた事が。」
 ブライが言い聞かせるように言う。
「貴方の言葉は正しいのでしょう。ですが、自らの罪を認めずして、他の罪に眼を向ける事は愚かだと、私はそう思います。」
 聖職者の威厳を持って、クリフトが言う。
「おぬしらは、子供を攫った。何の罪のない子供を苦しめた。それもまた罪ではないか?」
 ライアンが、アンドレアルに問う。そして、ラグは静かな声で、もう死に逝くアンドレアルに告げる。
「…もしもピサロが僕の大切な人たちを殺さなければ、・・・僕はこんな事はしませんでした。」
 そう告げたとき、すでにアンドレアルは物言わぬ屍になっていた。
 少しずつ、灰になって消えていくアンドレアル。八人は、それを最後まで見届けた。
「行きましょう。最後です。」
 ラグの言葉に皆は出口へ向かう。
 アンドレアルの正しき言葉を、確かに胸にしまいながら。…導かれし者は、自らの決めた道へと進む。
 仇を、討つために。自らの大切な者を守る為に。取り戻す為に。…宿命の道へと歩んだ。


 予定通りの進行で、ホッとしました。最後の一人はお楽しみ、ってことで。
 次回ははっきりいって原作をかなり無視している事をお約束いたします。すいません、はい。 「そんな設定でてこねえよ!」とか「ありえねえ!そんなこと!」とか心置きなく突っ込んでください。

 では次回。結界が破れる時をついに迎えるラグ君を、どうぞ見守ってやってください。  



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