デスピサロは、倒れなかった。
「こ、今度こそ!」
 何度そう思ったことだろう。だが、手が取れ、足が取れ、それでも不気味な変化を続けながら、デスピサロは苛烈な 攻撃を加えてくる。
「気持ち悪い…バルザックより酷くなってるじゃない…こんなんが究極の進化なんて…」
「お父さんやオーリンが封印しようとして当然だわ・・・」
 すでにつきかけた魔力を振り絞り、デスピサロに対抗する。が、何度でも幾度でも、デスピサロは耐えて見せた。
 ラグが息を吐く。体力も限界にきはじめている。
(もう、駄目なのか…やっぱり、僕には叶わないのか…)
 あの時、地下室で縮こまっていた時から、何も変わっていないのか…?
 ふと、そんな弱気に襲われる。
「大丈夫だ。」
 ライアンが、ラグの背中を押した。

「傷がつくならば、必ず倒せる。」
 それだけ言うと、ライアンはまたピサロへと向かっていく。素朴ながら、ライアンはいつもさりげなく力になってくれた。

 周りを見回す。

「大丈夫ですか?今防御魔法をかけます!」
 周りに気を配り、心を癒してくれたクリフト。

「これでどうじゃ!マヒャド!」
 いつも飽くことなく知識を求め、惜しむことなく皆の力になってくれたブライ。

「ブライ、バイキルトかけて!…やぁ!」
 その前向きな行動力でもって、なによりも皆を明るく前から引っ張ってくれたアリーナ。

「皆さん、賢者の石をつかいます!回復には気を配らず攻撃してください!」
 優しく包み込むように皆を見守り、支えてくれていたトルネコ。

「バギクロス!…少しずつでも倒してみますわ!私たちは、きっと勝てますもの!」
 見えないものの心を魂を伝えて、自らの辛い思いをいつも押し殺し、励ましてくれたミネア。

「いいっかげんにしてよね!しつこい男は嫌われるんだから!イオナズン!!!」
 自らの心と戦いながら、それでも笑い、皆に笑顔をくれたマーニャ。

(僕は、一人じゃない。…あの時と同じじゃない。)
 そうだ、きっと僕とピサロの違いは。
「ピサロ!!!!」
 そう言うとラグは高く飛んだ。ちりん、と鍵が鎧に当たって美しく鳴った。
「お前も、皆みたいな人がいれば」
 剣を高く構える。
「きっと今みたいに、大事な物を見失う事もなかったんだ!何のために戦うかを、忘れずに済んだんだ!」
(僕は、父さんと母さんと、皆と、シンシアの為に、そして僕の苦しさの為に戦う!)
 あの時のことを、忘れない。決して。自分は「力」のために戦うのではない。仇をうつために戦うのだ。
 ラグは一気に剣を走らせる。
 それにあわせて皆の攻撃が重なった。
 そして、デスピサロの進化が、止まった。


「ぐはあああ…!身体が熱い……。わたしは敗れたのか……。わたしの身体が くずれてゆく……。」
 その言葉どおり、まるでいつかのバルザックのように、少しずつ、体が砂になっていった。
「うぐおぉぉぉっ……!」
 そうデスピサロがうめく。最後の力とばかりによわよわしく、デスピサロは口の中から緋い光球を吐き出した。 それがラグの方へと向かう。
「危ない!ラグさん!」
 クリフトのその声は余りにも遅すぎた。ラグはとっさに剣を構えようとしたが、それをすり抜け、光球はラグへと ぶつかった。
 なにかが、体へ入ろうとする、感覚。それは痛いとか、苦しいとかではない「強い」感覚だった。ラグは その感覚に押されて膝をつく。
 そして。
「え…」
 ラグの心に、ロザリーの姿が描かれた。見たことも無い、ロザリーの顔。…戸惑う顔、すこし拗ねた顔。 輝くような笑顔。
(これは、ピサロの…記憶…?)
 崩れていくデスピサロの体。…その中に一瞬、元のピサロの姿が映った。
 憎い仇の姿だった。村の皆が、シンシアが死んでしまったことを自分はいつまでも忘れないと思う。
 だけど、強い感覚に押されるままに、ラグはピサロに初めて苦しみじゃないメッセージを送った。
(願わくば、ロザリーさんと空で二人で幸せに…)
 ピサロの姿が消えたとき、その感覚が完全にラグの中へ収まった。
「あ…」
 そして、ラグは全てを理解した。


 体を起こすと、すでに崩れ果てていくデスピサロ。
 ゆっくりと、ゆっくりと砂となり、虚空へ消えていった。
「終わったの…」
 アリーナがかくん、と座り込んだ。ミネアも座り込み、それでもラグを心配そうに見た。
「ラグ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。何とも無いみたいです。」
 ラグは笑って言う。全員が安堵のため息をついた。
「最後まで…心配かけさせないでよね…」
 体力も魔力も気力も尽き果て、マーニャが床に手をついてつぶやいた。
 ごごごごごごご…
 それを待っていたかのように、いきなり地面が揺れ始めた。
「なんだ!」
 地面に刺した剣によっかかっていたライアンが揺れに体を崩す。
「まさか…火山が噴火するのではないじゃろうな…」
 その言葉に答えるように、天井が少しずつ崩れ始める。ぱらぱらと岩が落ち始めた。地面にも大きなひびが入っている。
「すぐに出なければ危ないですね!」
 それでも体力が尽きているのか、激しい動きは出来そうに無かった。それでも各自できるだけの力を 振り絞り、立ち上がって出口に向かおうとした。
「ラグさん、どうしたんですか?」
 クリフトの視線には、動こうとせず、ピサロのいたほうをただみつめて立っているラグがいた。
「外に行ってください。…僕も行きますから。」
 そう言っていても、ラグは何かを待っているかのように動こうとしなかった。
「ラグさん急いでください!」
 クリフトはそう言ったが、既に間に合いそうに無かった。本格的に天井が崩れ、大きな破片が上から降る。そして、
「きゃぁぁぁぁ!」
 一番先頭だったアリーナの足元が、ガラガラと大きく崩れる。そして全員が宙に浮いた。
「…?」
 衝撃も何もない。身構えた体を少し緩め、目をあけた。
 そこには大きな竜…マスタードラゴンがいた。マスタードラゴンの体が全員を救い上げ、 マスタードラゴンの体の上に収まった。
 そしてマスタードラゴンは火山の外へ出る。みるみる遠ざかっていく火山が、つぶれながらも噴火したのが全員には見えた。

 そして、気がつくと八人は天空城の玉座の間に立っていた。




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