畏怖堂々と玉座に座るマスタードラゴン。竜の神と讃えられしものが、八人に向けて口を開いた。
「我はここにいながらにして、この世界全てを見通すもの。…そなたらの働きで進化の秘法は デスピサロともども地の底深くまで沈んでいった。最早人々がおびえることなく、世界に平和が訪れたのだ!」
 その言葉に全員の体の力が抜けた。どこか心配していたらしい。…耐えることなく復活していた あの不気味なデスピサロがどこかで生きているのではないかと。
「それもすべてそなた達のおかげだ。八人の導かれし者よ、心よりの礼を言おう。」
 竜であるが故、マスタードラゴンの表情はわからない。だが、どこか神妙な心から感謝した、厳かな ものを感じ取れた気がした。マスタードラゴンがライアンの目を見た。

「ライアンよ。自ら世界の危機を感じ取り、王で忠実であるおぬしが世界を救った。…とてもよくやってくれた。」
 ライアンはひざまずき、頭を下げる。それを見て、マスタードラゴンもうなずく。そして一人一人をいたわるように 今度はアリーナに声をかける。
「アリーナよ。王を失い、国が荒れた状態でありながら、決してあきらめることなく王族の誇りを持ち続け、 良くぞここまでやってくれた。…おぬしは国を見事に守り通したのだ。サントハイム国王は、 おぬしの国へと戻っておろう。」
 アリーナは口を抑える。そして瞳を涙で潤ませながら深々と頭を下げる。
「ブライよ。」
 マスタードラゴンの声が朗々とブライへと届く。
「おぬしの知恵と行動がアリーナを正しき道へと歩ませた。おぬしこそ、真の臣下だ。見事であったぞ。」
 ブライは一礼して、満足そうにうなずいた。
「クリフトよ。神につかえ正しき行いを続けた。そして真に神の教えを理解しながらも、 自らの主を支え、守り通したその行い。素晴らしかったぞ。」
 クリフトは誇らしいその気持ちのまま、ひざまずき、マスタードラゴンに礼を言う。
「トルネコよ。身を守る物を売るそなたが、世界のために戦い、そして平和を勝ち取った。そなたのような 者こそ、平和な世の中必要な者なのだ。これからも世の為人のため、商売にせいを出すのだぞ。」
 トルネコはいつものお客様への対応のように、とっておきの笑顔でそれを請け負った。
「マーニャよ。絶望から這い上がり、自らの心の闇と勝ち抜き、世界に光をもたらした。これからも 人々に希望と喜びを与える者となろう。」
 マーニャはとても上品におじぎをした。その顔はとても誇らしそうだった。
「ミネアよ。自らの意思を貫き決して絶望せず、姉と共に亡きお父上の意思を立派に果たしたな。 今のそなたを見れば、お父上もこころから安堵するだろう。」
 ミネアは涙をぬぐいながら小さな声でマスタードラゴンに礼を言う。その言葉を確かに聞き、満足そうに マスタードラゴンはうなずいた。

「天空人と、人間の血を引きし勇者ラグリュートよ!そなたのおかげで人々は陽に照らされたのだ!」
 マスタードラゴンはラグを真正面から見た。ラグの顔、ラグの体、ラグの周りの空気…そして ゆっくりと言う。深い、深い声で。
「お前は見事やり遂げたのだ、もはや地上に戻る事もあるまい。これからは私とともに この天空城に天空人として住むが良かろう!」
 その言葉に全員がラグを見る。そのラグの体はどこか消えてしまいそうで、希望に満ちていた 七人の心に暗雲が立ち込めた。
 ラグはマスタードラゴンの眼を、真正面から見据えた。マスタードラゴンも、ラグの眼を見た。 そしてその瞳の中でラグは首を振った。
「ありがとうございます、マスタードラゴン。…ですが、僕は僕があるべき場所へ、帰りたいのです。」
 確固たる意思。はっきりとした声。きっぱりと言い放った言葉に皆は安堵のため息をついた。
「そうか…その者達とともに地上に戻ると申すか…。判った!もう止めはせぬ! 戦いのさなか築き上げられたそなたらの友情は最早何人にも壊せまい。…気をつけてゆくのだぞ、 ラグリュートよ…」
 ゆっくりと淡い光が振る。体の疲れが癒されていくのが感じられた。
「ありがとう、ございます。マスタードラゴン…」
 その心に、ラグは心から感謝していた。


 そっと外へ出る。空が蒼くどこまでも透き通っていた。
 ラグはまぶしそうに空を見上げる。ミネアはラグへ手を伸ばした。
「?どうかしましたか??」
 ミネアは自分の手に眼をやった。
(私、何をしているのかしら…)
 空を見て目を細めたラグが、このまま消えてしまいそうで。あまりにも空によく似合っていて、怖かった。
(大丈夫、ラグは消えたりしないわ…ラグはここに残らないんだもの。)
「ミネアさん?」
「あ、ごめんなさい、あの、えっと、そう、頬に傷がありますわ!」
 ラグの頬に紅い筋が一本走っていたのを見つけ、ミネアはラグにホイミをかけた。
「どうかなさったんですの?」
「多分、さっきの洞窟で岩にぶつけたんです。ありがとうございます。」
 そうお辞儀して、ラグは城の中へと入っていく。
(そう言えば…ラグはどこへ帰るのかしら…)
 まずは村へと帰るのだろう。そしてその後、どうするのだろうか?
 そう聞こうとして、ミネアは留まった。今聞いても仕方の無い事だ。ラグはきっと悲しい顔をするだろうから。
(少し時間がたったら、ラグの村へ行ってみましょう。そこで相談に乗ってあげるのがきっと一番だわ。)
 そう納得して、ミネアも城へと入っていった。


 アリーナはクリフトと、もう一度、エルフの踊り場へと足を運んだ。
 楽しそうに踊り続ける三人のエルフ。聞こえて無くてもよい、とアリーナは話し掛ける。
「世界樹の雫、とっても嬉しかった。ありがとう…」
「皆々様、とても助かりました、その温情心から感謝いたします。」
 クリフトもエルフへと礼を言う。すると今まで無視していたエルフが、小さな、本当に小さな声で独り言のように 何か話すのが聞こえた。
「…人間にも、いい人はいるのね…」
 その言葉は、100の人間のお世辞よりも嬉しい言葉だった。
「また、いつか来るわ。そのときには仲良くしてね!」
 そう言ってアリーナは頭を下げ、部屋を出た。あとから部屋を出たクリフトがエルフの娘が小さく首を縦に 振ったのを目撃して、微笑んだ。

「ああ、ラグ殿。今ちょうどラグ殿の話をしていたのだ。」
 ライアンが一人の天空人の女性と話をしていた。その顔には見覚えがあった。
「あ…あの時は楽しかったです。」
 そう言って微笑んだラグの手にふわりと触れる暖かいものがあった。手をやさしく握られてラグは 少し驚きながらも手を握り返した。
「とても立派だったと聞いてますわ。…きっとお父さまも…お母様も喜んでいると思いますわ。それに貴方には父や母が居なくても、 皆さん、どうかラグと何時までも仲良くしてあげてください」
 その女性は、ライアンと後ろからやってきたミネアを見て微笑んだ。
「確かに承った。ご婦人も体にお気をつけなさるようにな。」
 ライアンがそう言うと、その女性は名残惜しそうに手を離し、そして部屋へと駈けて行った。
「あの女性…どこかラグ殿に…いや、なんでもない。」
 ラグと女性の顔を比べながら、ライアンは首を振った。

「本当に、たとえ片時でも皆様と旅ができた事を誇りに思いますわ。」
「あんたがいてくれて、あたし達も助かったわよ。」
「そうですよ。貴方が私たちに天空の剣の場所を教えてくださいましたからね。とても助かりましたよ。」
 ルーシアの部屋にマーニャとトルネコとブライは挨拶に来ていた。そして同じく挨拶にきたラグを見て、ルーシアは顔を輝かす。
「ラグさん。…貴方は天空の勇者。私たちの誇りです。…どうかお気をつけてくださいね。」
「ありがとうございます、ルーシアさん。ルーシアさんも体に気をつけてくださいね。」
「そうじゃ。もうあのような樹の上で路頭に迷う事などないようになされよ。」
 ブライの言葉にルーシアは顔を赤らめる。そして笑ってうなずいた。
「では、元気で!」
 そう言って気球へ向かうラグをルーシアは見えなくなるまで見送った。目に焼き付けるように。
「さよなら…ラグさん…」


 気球がふわふわと揺れる。天空の城は、陽の光を浴び、輝いてた。
「雲の上…美しい城…ここにいたなんて、明日になれば夢のように思えるでしょうね…」
 ミネアがうっとりとみつめる。クリフトはうなずいた。
「そうですね…そしてマスタードラゴン様自らに声をかけていただけるなんて、今でも夢のようです。 ですが、現実なのですね…」
 城に向かい祈りの手を組んだ。ライアンもじっと天空城をみつめた。
「そうだな。もうしばらく見られることは見られることはあるまい。…目に焼き付けておこう。」
「そう…ですね…」
 ラグが乗り込み、気球を動かす。ふわりふわり優雅に気球は飛び立った。
 その輝く天空の城を八人はいつまでもいつまでも見続けていた。


   お気づきでしょうか?今回でこの小説100Pを越えました!ここまで長々と付き合ってくださり本当にありがとう ございます。
 次回、おそらく皆様のご予想のシーンがあると思います。私がこの小説を書こうと思った大きな動機の うちの一つだったりします。

 それでは、次回、星の導くその先へ、第35話「天空の彼方に」。見てくだされば嬉しいです。 



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