「それは、既に全ての生物が入れ替わるほどの昔。…私は地中よりいでし地獄の帝王エスタークと争った。」
 朗々と響く深い声。ゆっくりと遠い過去の記憶が、今ここに呼び寄せられる。
「その結果はおぬしらも知っておろう。…私はエスタークにうち勝ちはしたものの、それは封印するだけに 留まった。そして私も魔力を多く奪われ、傷ついた。…そのうち、エスタークはまた闇より復活し、 この世に暗黒をもたらす事は判っていた。」
 それはさまざまな所で聞いた、勇者の役割。
「だが、そのときに私の魔力がいまだ癒えていない事も、そしてその魔力ではエスタークにうち勝つ事が できない事も判っていた。だから私は、代わりにエスタークを滅ぼす運命を持ったもの… 勇者を作る事にした。その運命を持つものは、エスタークの胎動とともに命を宿し、力をつけ、 導かれるようにエスタークを討つように運命の糸を紡いだ。」
 そして、次の言葉に、七人は心臓がゆすぶられた。
「その運命を持つものは二人。…天界の勇者と、地界の勇者だ。」

 それは、双星。


「ふた…り」
 それは、誰の声だったのだろうか。天界の勇者。…地界の勇者。…それは。どこかで、そうどこかで 聞いたことがある…

「私は短き命で輝くものとは違う。全てを守り、見つめるもの。次代に時を繋げ、発展していく者達とは違う。 だから、私は私より強いものは生み出せない。…その存在を認めるわけにもいかない。だが、 私より強くなければ、エスタークは倒せない。だから、二人を作った。魂と運命を 二つに分け、それぞれに勇者としての魂と特別な力を与えた。二人で力を合わせしとき、 私より強くなるように。私の元で生まれ、清らかで強い心を持ち、 全てを救いたいと願う勇者と、魔力溢れし魔族として生まれ、力を持ち、なによりも強くなる事を求める勇者。その二人は 互いに力をあわせ、数々の困難を乗り越え…やがて、 二人でエスタークを打ち破る運命だった。」

 今とは違う運命。語り紡がれるは、別の世界。

「エスタークが少しずつ動き始めるのが判った。そして、地界の…魔族の勇者が宿ろうとしているのが 私にも感じられた。…そしてこの天空の城に、勇者を宿す運命の娘が生まれ、 エスタークの呼吸が私の耳にも届く頃…魔族の住まう、地の世界に 一人の勇者が生まれたのを悟った。… 、このままエスタークが眼をさましし時に、二人は大きくなっていくはずだった」
 マスタードラゴンの声が鋭く変わる。
「その運命の歯車が狂わされた。勇者を宿す予定の娘が地上に憧れ、降りていったのだ。そして、地上の 人間と結ばれ、勇者は天空人と人間のハーフとして生まれてしまったのだ。」
 ただ少しだけずれた運命は、どんどん別の方向へ歩き出す。それが、七人にわかった。

「…そこから私の用意した運命とどんどんずれて行くのが見えた。すでに生まれた魔族の勇者はやがてエルフを愛し、 人間を憎む。そしてエスタークに組し、世界はその地界の勇者…デスピサロによって滅ぶだろうと。 私は、そう運命がずれるのを感じた。」

 …の一つ、堕ちるとき…
 エンドールで聞こえた声が、甦る。

「天界で育てられし勇者は、魔族の勇者には適わぬ。…なぜなら、天界の勇者は心を持ち、地界の勇者を導く。 魔族の勇者は天空人の勇者を力を持って導く。心通わぬ存在になってしまった以上、天空の 勇者は魔族の勇者には適わなかった。…ましてやエスタークと組み、進化の秘法を使って 膨れ上がった力をもつピサロと相対するには、それの力だけではもはや絶望的だった。もう取り返しのつかぬ処まで 運命の軌道は確実に狂ってしまった。」

”…星の軌道が狂ってしまったら…運命の歯車が少し、ずれてしまったら…一体…どうすればいいんでしょう…?”
 今は眠りし、ラグの声が七人に響く。
 あの言葉は…哀しげな声は…この事なのだろうか…?
「私に、狂った星の軌道を直す力はない。だから、新たな運命を授ける事にした。勇者に勝てるのは、 おそらく勇者だけだからだ。そのために ラグリュートを地上で育てた。…そして、ピサロに勝てるように勇者の仲間を作り出す事にした。 だが、新たな命に運命を宿らせるには余りにも時が足りない。だから、今地上にいる中で、もっとも心 強き者をピサロに匹敵する力をもつように選んだ。そしてピサロ一人分の力を 持ちし七人と、勇者はやがて運命に導かれ、ピサロを倒すように運命付けた。…それが、おぬしらだ。導かれし者達よ。」

 冷や水をかけられようと、ここまでショックは受けないだろう。そしてその反面、 とても納得できた。とても似ていて相反する気を持ち、同じ心を持っていた理由を。 同じくエルフを愛し、それを身を滅ぼすまで貫き通したことを。七人は頭で納得し、そして心で混乱する。
 ずっと抱いてきた闇は、身近に起こった不幸は…一体なんのためだったのだろう?


 生きがいを抱けず、友を亡くす事で、唯一つの歩む道を見出せたのは。

 自らの責任で国をなくし、その慙愧の念に駆られていたのは。

 自らの主君の妻に恋をし、なくした今も忘れられないのは。

 叶わぬ恋を、自らが捧げなくてはならない神よりも、想い続けるこの想いは。

 平和な暮らしに何かを覚え、たった一人家族に辛い思いをさせ、旅に出た、この想いは。

 身を燃やさんばかりに愛した人が、闇の道へと歩んだのは。

 …父を、全てを失い、唯一つ、仇を討たんと歩んできたのは。

 定められた…運命。デスピサロを倒す為の。


 

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