沈黙が降りる。その間は、七人の人間にとって、さして長いものではなかった。だが、 マスタードラゴンにとっては、今まで生きてきた時以上に長く感じた。
 だが、結局マスタードラゴンは認めることにした。
「お前達をただの人間と侮った事を詫びねばならぬようだな。だが、もう一度聞こう、導かれし者達よ。 お前達はこの旅が終り、失ったものを多く取り戻したはずだ。そして、この旅で多くの ものを得たはずだ。…なにゆえそれ以上を求めようとする?…いや、求めても良いかも知れぬ。 だが、私と戦い倒した所で、失うものは多く、得るものはない。…重ねて言うが、私に ラグリュートを蘇らす事は出来ぬ。仇を討って、その先には何もないぞ。 おぬし達はラグリュートより大切な者がおるはずだ。…どうしてそれだけでは駄目なのだ?」


 迷いはない。一瞬たりとて。
「もう、後悔するのは嫌です…っておけばよかった、やっておけばよかったと思うのは嫌です。 それだけですわ、マスタードラゴン。」
「あたし達が手に入れたものは、皆ラグからもらったものだわ。だからあたし達もラグにあげたいのよ。 だけどあげられなかったからよ。その先なんて考えないわ。ただ、ラグを殺した原因があんたなら、 そいつが生きてることが許せないのよ。」
「ラグさんは、私の仲間です。損得とかそんな感情はありません。ただ、それが神に押し付けられたものだとすれば その無念を晴らしてあげたいと思うだけです。」
「このようなことが、許されるとは思いたくありませんからな。愚かなのかも知れぬが…わしより先に 若い者が死ぬのは許せる事ではありませぬじゃ。」
「何もせずに犠牲を受け入れ笑うのは…私は嫌です。確かに、私は他に 大切な者があるかも知れません。ですが、私はかつて誓いました。もしラグさんに何かあれば命を はって守る事を。今が、そのときです。」
「ラグ殿は、神の御心のままに生きていたはずだろう。そして世界の平和のために全てを捧げていたのだろう。 どうしてそのラグ殿が、幸せになれぬまま滅びねばならぬのだ?間違いの原因を許したくはない。それだけだ。」
 六人か次々といい、そして中央に立っていたアリーナが、威厳溢れる声で言う。
「大切な仲間だからよ、ラグが。それ以上になにかある?…貴方はきっと誰かを失った事も、大切に思ったことも ないのよね。愚かかもしれないわ。だけどたとえそれが自分の得にならなくても、 誰かに何かをしてあげたいと思う気持ちは、とても人を暖かくさせるもの。私たちは、 その気持ちをラグからもらったわ。…その気持ちに尊さは、きっと貴方には、一生をかけてもわからないわ。」
 各々に確固として宿る光。それは、ラグに集う七つの光。それを感じて…マスタードラゴンは笑う。


「愚かなものだな…だが、その愚かさこそがこの世界を救った力なのかも知れぬな…」
 今までとは違った気配に、七人はぽかんとする。
 ここにきて、初めてマスタードラゴンの眼に優しさの炎が燈った気がした。
「…導かれし者よ。私にはラグリュートを生き返らせることは出来ない。…だが、お前達の魂を過去へと 戻す事は出来る。」
 ミネアが恐る恐る聞く。
「過去へ?」
「そうだ。…明日の夜、中天に満月がかかる時、銀の星が流れる。…その星に乗せ、お前達の魂を まだラグリュートが生きていた過去へ戻すことができる。」
 マーニャが早速食ってかかった。
「そんなことが出来るなら、もっと早くに言いなさいよ!」
「だが、そうしてどうなると言うのだ?」
 低い声に、マーニャが少し萎縮する。マスタードラゴンは話を続ける。
「時の流れは、とても激しい。私が運べるのはおぬし達の魂のみだ。時の流れをさかのぼるのに、肉体や 物体…記憶ですら重過ぎるのだ。いや、それを捨ててさえ、時の流れは厳しい。お前達の魂が 無事でいられると言う保障すらない。」
「では、何の意味もないのでは?」
 魂という概念が良くわからないトルネコが、首を傾げた。
「魂は心の一番奥深いものを刻み込む。ラグリュートの死が、お前達の魂に刻み込まれていれば、あるいは 何か行動がおこせるかも知れぬ。…だが、それを判っていても確かな確信が持てないければ何も起こせぬ。 私は、時を越えさせた者として、過去に記憶のみを送る。…未来の記憶を持ったものは、時の流れに 遡ったものに助言を与える事は許されぬ。…そして、たとえどうなろうとデスピサロを倒し、進化の秘法を 闇に葬らねば、世界は滅びるだろう。また失敗して、またラグが死んだ時、二度目はできぬ。いかに心強きものといえど 2度、時に逆らえば魂は砕けてしまうだろう。そして、2度のラグリュートの死は、お前達の魂を 更に傷つけるだけだろう。…わずかな可能性だ。奇跡でもおきぬ限り、何も変わらぬ。何の意味も ないことだ。…だが、ここで私を討つよりは自らの手で望む道をつかめるかも知れぬ。」

 神の声で、マスタードラゴンは問うた。
「お前達にラグのために魂をかける覚悟はあるか?」
 全員が同時に言葉を出した。それはとても短い言葉だったが、それに込められた想いは、永遠のものだった。
「あたりまえでしょ?」
「当然ですわ!」
「もちろんですとも」
「決まってるわ!」
「聞かれるまでもない事じゃ」
「ええ、もちろんです。」
「もとよりそのつもりだ。」


 マスタードラゴンの翼が風を生む。
 その風によって、ラグの溶けかけの氷が完全に溶け、別の何かがラグを覆った。
「もうすぐ日も暮れよう。また部屋を用意させる。明日の夜にまたここへ来るがよい。」
「なにか、手伝えることはありませんか?」
 クリフトの言葉に、マスタードラゴンは静かに…しかし暖かく言う。
「…おぬし達は、この出来事を魂に刻み付けるが良い…心で強く思うも良し、なにか行動に示しても良い…そして 奇跡が起こることを、祈るが良い。自分なりに、後悔しない方法で明日に望め…」
 陽は、真っ赤に燃え、空を緋に染めていた。


 ついに!このシーンが終わりました!この作品において私的に一番のクライマックスだと思ってる シーンです!
 …ラスボスが、マスタードラゴン…こんな小説他にないだろうな(笑)ファンのひと、ごめんなさい。 でも、マスタードラゴンもこのままでは終わりませんから大丈夫です。
 ラグのために、恋人は想い人とかそんなんじゃない・・・一番近い言葉で言えば友情…だけど それよりもっと濃いそんな関係の人のために、七人が強大な力にたち塞がる。特別な 力も加護もない。だけど決して譲れないもののために。
 ブライはああ言ったけど、勝てないことも予想してたと思います。ブライが言ったのは 「勝てる可能性もある」と言うだけなので。だけど、勝てるとか、勝てないとかそんな 事じゃなくて、体が動かざる得なかった。そんな感じです。

 あー、ブライの台詞、ごっつ嫌な人もいると思います。エニックス公式設定で、あの二つの話が、 4より前である保障もないですし。その前に繋がってるか どうかもわかりませんし。 嫌な人は、似たような別の話と思っていて下さったらいいかな。 私は一応、そのつもりで書きましたけれど。好きなんです、そう言うの。マスタードラゴンの事も、私の推測です。
 もう少しだけ、私の中で「スタッフロール編」と名づけられたお話は続きます。よろしければ お付き合いくださいませ。

 


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