「私は…占い師として天命にそって生きてきました。…それが正しい事だと信じてきました。…ですが… その天命が…勇者を、ラグを殺すことだった…」 枯れ果てることなく流れるミネアの涙。それを優しい目でみつめながら、オーリンは話を聞いてた。 「そして…マスタードラゴンの導きによって、時を遡るのは…世界の摂理に反している事ですわ… それが正しい事なのかは、正直判りません。時を遡っても結局は無駄かもしれません。 …あんなふうにマスタードラゴンに立ち向かっておきながら… それでも迷っている私は…私こそはきっと間違っているのです…」 ミネアは語り終えた。喉が嗄れていた。ふう、と深呼吸をつく。そんなミネアにオーリンはすっと手を伸ばし 頭を撫でた。 「私には…何が正しくて、何が間違っているかなんて、わかりません。あのときの事も…一番側にいたのに、 守れなかった自分が情けなくて、どうして先生の身代わりに死ぬ事が出来なかったのだろうと、悔やみました… このまま死んでしまおうかと何度も思いました。」 「オーリン…」 「だけど、私は今、こうして生きている…それが正しいのかは判らないですが…何かを成すことが出来る… 多分人は、間違っていても、正しくても、正しいと信じる方向へ歩んでいくしかないんじゃないでしょうか。」 「私は…オーリンが生きていてくれてよかったと思ってますわ。…姉さんもです。ですからきっと 間違ってなんかいませんわ。」 オーリンはにっこりと笑う。月光のした、その笑顔はとても温かかった。 「そうです…誰かに『良かった』と思ってもらえることはそれだけで正しい事なのかもしれません。ならきっと、 ミネア様達がしようとする事も、きっと正しいことなのですよ。」 こくん、とミネアがうなずくのを見て、オーリンが付け足す。 「それに、マスタードラゴン様も、ミネア様達が正しいと思わなければ、時を遡ることを言い出したりはしなかったと思いますよ?」 ミネアは顔をあげ、問い質す表情を見せた。 「力を持ったラグさんが怖いと思いながらも、本当はマスタードラゴン様も殺したくなかったのかもしれませんね。 たとえ頂点にたつべき神の権威を大切にしながらも、ラグさんを助けたかったのかもしれませんね。 だから、自らのそばに置いて、生かす提案をしたのかもしれませんよ? 地上に降りるときに、もしかしたら心の底で、死なない事を願っていたのかもしれません。…それとも、ミネア様たちの 様子を見てその自分の気持ちに気がついたのかもしれません。…もしそうなら、ミネア様たちの行動は 決して無駄ではなかったのですよ。自信を持ってください。」 暖かな、オーリン。…その場にいなかったからだろうか。ラグを直接知らないからだろうか。それは ある種無責任ともいえる言葉。だけど…張り詰めていたミネアの心を、ゆっくりと溶かしていく。 (…ああ、そうだわ…オーリンは初めて逢った時からいつだって暖かかった…) その言葉を素直に信じられた。ミネアはまた、ぽろぽろと涙を流す。何度も何度もうなずきながら。 「たとえどんな時代に居ようとも、生きていればきっと何かを成すことが出来ますよ。私はミネア様達が 奇跡を起こせると信じています。…あるはずもないと何度も思った、今に私にできる事があるからです…」 そういって、オーリンはそっとミネアの手をとって、小さなものを手の中に落とした。 「受け取ってください。」 それは、ミネアがやってきた夕昏色の小さな石がついた指輪だった。 「これは…?」 「怪我をして、私は無力でしたけれど、その無力な私にもできる事がないかとやってみた成果です。」 そういって、そっとミネアの細い指に指輪をはめた。環には細かい彫り物がたくさんしてあった。 「オーリンが作ったんですの?そういえばオーリンは器用でしたわね。」 力強い腕を持ちながら、その太い指先で、細かい彫刻やらをしてみせたのをミネアは覚えている。 「錬金術師でしたから。ミネア様、使ってみてください。」 「…使う?」 テレながら言うオーリンの言葉に半信半疑ながらも、そっと手を動かす。するとわずかながら石から活力が湧き出るのを感じた。 「これは…」 「今ある効果のある武器や道具や装飾品なんかのほとんどは、完成した後、魔法使いの手によって魔法を込められているのです。 私は、そうではなくその物自体がなにか魔力を込められないか、ずっと研究していました。」 こくん、とミネアがただうなずいた。 「バルザック様は…ずっと『力』とはなにか、を研究していらっしゃいました。体『力』や魔『力』や魅『力』… それに自然界の『力』もありますね。そんな 様々な力がありますが…その元となる『力』とはそもそもなんなのだろうか、そう研究してらっしゃいました…」 バルザック『様』。オーリンはそう言った。もう、長い間聞いていない言葉にミネアは驚いた。 「先生を殺した事を、許したわけではありません。…ですが…魔族に操られていたと聞いて、そして …最期を聞いて、どこか自分の中で昇華出来た気がしたんです。」 空のある、まばゆいものをずっと思い続ける気持ち。決して手に入らない。それはあまりにまぶしすぎるから。… その気持ちはとても判ったから。…もしかしたら、自分もそうなったかもしれなかったから。 「私はここで、何かが出来るかと思っていたんです。正直な所、治療を受けるお金を作らなくてはいけませんでしたから。 最初はただのアクセサリーを作って、売っていたんです。そうやって暮らしているうちに… バルザック様の…生きた意味を私の中に見出せないかと、そう思ったんです。」 オーリンは少し顔をゆがめる。 「本当は、エドガン様の研究を引き継げれば良かったのですけれど、資料もありませんでしたから。… 私はバルザック様を、尊敬していました。真面目で、勤勉で…だからこそ、許せなかったですし、今でも許していません。 けれど…研究の仕方を一生懸命私に教えてくださったバルザック様の欠片を、わたしの中で残せないかとそう思って、 私は『物』自身に魔法ではない『力』を込められないか、研究する事にしました。そして、その最初の 成果がその指輪です。わずかではありますけれど…『活力』がこもっています。…私とバルザック様の 研究の最初の成果です。」 そう言われてみると、指にはめている指輪が、この世の何よりも綺麗に見えた。 「それが出来た時、私はミネア様に渡そうと思いました。そう決心していました。ですから、受け取ってください。 私の人生に意味があった証です。」 「そんな…大切なもの…」 ミネアは首を振った。指輪を取ろうとする。 「嬉しいんです、嬉しいんですけれど…これを、持っていくことは出来ません。…時の流れには肉体すらも 重すぎるんです。…こんな大切なものなのに、持っていけないんです…」 そんなミネアの行動を制するために、そっとミネアの手に手を添える。 「ええ、判っています。ですからまた渡します。時を越え、また私に逢いに来てくださった時間が来た時に、もう一度渡します。 私はそれすら嬉しく思っているのですよ。…私は、ミネアが好きですから。 …ですからたとえ何度でも、渡せることが嬉しく思います。受け取ってください、ミネア。」 今日一日で、一体何度泣いただろうか。けれど、この涙は今までとは違う。後悔でも悲しみでもなく、 喜びの涙。 「はい…私も、初めて逢った時から…ずっと貴方が好きでした…オーリン…」 5年越しの想い。春の光がさしたその時から、ようやく花が咲いた。…たとえそれが一夜限りの花だとしても、 二人は悔いたりしないだろう。この花は何度でも咲くのだから。 いい男達だな…。書きながらしみじみと思ってしまいました。特にトルネコ。こんな良い男ってちょっといないと 思うんですけど。ブライさんもいい男ですよね。うん、私はそう思います。と言うか書きながら「ああ、ブライさん こんな事思ってたんだね…そうか、クリフトに救われてたのか」とか思ってみたり。うん、いいトリオだな、 この三人。トルネコさんは自信満々。でも過去を悔いてない人ってめったに居ないと思うんですよね。トルネコだって 嫌な事実はたくさんあったと思うんですよ?下っ端時代に嫌な思いしたでしょうし。でもそれすらも 笑って過ごせるっていうのは、もういい男じゃないとできませんよ? オーリンとミネア。…ついにくっついた!あー、もうぎこちないなーこの二人。特にオーリン!とっとと 「ミネア」か「ミネア様」か統一してくれ!書いてるこっちが大変なんだ!…これから先は「ミネア」 になるんですけど…時、戻っちゃうんですよね、そういえば…。 そういえば、オーリンが言ってる道具云々は嘘っぱちです!すみません、わたし攻略本知識編持ってません… ちなみに銀のタロットみたいな、お金やコインでは買えないものは、オーリンの言った通り「力」を封じてる 事もあるかと思います…古代文明はなんでもありで。魔法を封じてるのは店なんかで売ってるものね。 突っ込みはなしで御願いします…蒼夢設定です。あ、オーリンやバルザックの研究もね(本編では出てこなかったと 思うのですが。) しかし凄いタイトルですね…まあ要するに三人分混ぜたらこうなっちゃった、と。でも気にいってます、 とても。 それでは、次回は四人…多分皆様が一番気になっている2カップル。 1話の中で出てきますが、どっちが先がいいかな?…どうなるか、楽しみにして下さいね。
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