星の導くその先へ
 〜 skylight 〜




「それじゃ、そろそろいきましょうか?」
 そう言って笑うラグの笑みが、何故だかとてもまぶしく、貴重なものに見えた。
 だが…
「姫、震えていらっしゃいますか?」
 アリーナの体はなぜか震えていた。
(どうして?…)
 …アリーナの頭は混乱する。何故震えているのか。そして…どうしてこの気持ちに覚えがあるような気がするのか…
「私…なにか…気にかかって…ラグ…」
 呆然とアリーナが言う。その顔色をラグが気遣う。
「大丈夫ですか?」
 覗き込むラグの顔。その顔はいつもどおり朗らかで。…はかなくて。とてもかけがえのない物で。
「私、怖いのかしら…」
「デスピサロが…ですか?」
 ラグは言うと、アリーナは首を振る。
「違うわ、今ならデスピサロに勝てる…と思うの。…だけど、何かが足りない気がして…それが怖いのよ…」
「何かって…?」
 ラグがいぶかしげに言うと、ミネアがうなずいた。
「私もそう思います。今、何かまだ為してない事がある…なにかそう感じるのです。」
 ミネアも、アリーナの肩をやさしく叩いた。
「そう…ね。なんだろ…あたしもわからないけど、何かこのままだと、なんかやばいことになりそうな…そんな気がする のよ…」
 マーニャもめずらしく神妙な顔をする。
「心残りとか、そんなものではなく、なにか妙に不安な気持ちに掻き立てられる…これは一体なんなのでしょう…」
 晴れ晴れとした先ほどまでの顔とはうらはらに、頼りなさげな顔をするトルネコ。
「まだやり遂げていない事…いや、やらねばならないことか?」
 ぶつぶつと考え込むライアン。
「この世界で行ってない場所がどこかにあるのじゃろうか?」
 それに同意するブライ。
「皆さん…どうしたんですか?…やっぱり、デスピサロと戦うのが嫌なんですか?もしそうなら…」
 ラグが顔を曇らせた。先ほどまでの決意に満ちた皆が別人のように見える。
 その顔をみて、今度は七人の心が迷う。
 ラグは仇が討ちたいのだ。それは…あの村を見たばかりの七人にはとてもよくわかっていた。 あの無残な村…それは七人にも決して許せる事ではないこと。
「デスピサロは許せない。…お父様は今も苦しんでいるもの、助けないと…」
 アリーナが困った顔で言う。本人も自分の気持ちに混乱していた。何故、こんな気持ちに なっているか、さっぱり判らないのだから。
 だけど。
「何か、やらなきゃいけない事があるの。…何かはわからないんだけど…。ねえ、ラグ 御願い。…もう一度、もう一度だけ世界を旅させて。」
 心がそう言うのだ。今、動かなければならないと、心が、いやもっと奥深く…魂が 『何かをしなくてはならない』と。
「ラグ、私からも御願いします。デスピサロを討ちたくないわけではないんです。ただ…なにか 遣り残した事がある…そんな気がするんです…」
 すでに神に祈るようにミネアがラグに御願いをする。
「そうね…ミネアの意見にあたしも賛成。ラグには悪いけど、もう一回だけで良いからちょっと見て周ってくれない?」
 マーニャの言葉に全員がうなずいた。ラグは少し考える。
「僕には良くわかりませんけど…皆さんがそう言うなら、一度世界をまわって見ましょうか。」

 ゴゴゴゴゴゴゴ…遠くに小さな音がした。ような気がした。

 ラグの言葉を聞き、七人がなぜか意外そうな顔をした。それが了承されるとは 思わなかったから。ライアンが恐る恐る聞く。

「本当に良いのか?ラグ殿?」
「かまいませんよ。今デスピサロはあの城の中にいるでしょうから、世界に被害が出ることはないと思いますし。」
 早く討ちたいけれど…仇をとりたいけれど…自分の思うままを通すだけなら、多分何の意味もないから。
 ぎぎ、とラグが扉を開ける。そこから光が差し込み、ラグの顔を、世界を照らした。
「じゃあ、いきましょうか。…もう一度世界を見に行きましょう。」


 記憶を受けとる。…未来は現在と混じり、過去は現在になった。黄金の竜、マスタードラゴンは刻から時の記憶を 受け取った。そして、その玉座にいるマスタードラゴンは、未来のマスタードラゴンと同じものとなる。
 そして、世界を眺めた。定められた運命。もう戻らない星の軌道。だが。

 世界が動いた。

 マスタードラゴンは玉座でそれを見た。世界の動くさまを。
「なんだと…また、変わると言うのか?…真に、魂に刻まれたと言うのか?…人間にそれが為せたというのか?」
 自分に立ち向かう人間が、妙に強く思えて、時を遡らせた。ただ、時が戻っただけだ。記憶も何もない 、それはすなわち同じ事を繰り返すだけだと、半ば覚悟していたと言うのに…
「それを、やり遂げたと、言うのか?」
 半信半疑でつぶやく。…だがそれが妙におかしい自分がいた。
 自分にも予想できない未来があるかもしれない。…予想もつかないほど楽しい未来が。
 心が、魂が躍るのを感じた。…こんなこと、どれくらいぶりだろうか…
 自分の心を、かけてみたくなった。その未来を導く手に、自分もなってみたかった。
 マスタードラゴンは導かれし者に、七人の人間たちに、勇者ラグリュートに…何よりも人間そのものに 傾倒している自分を感じた。
 部屋にいる、天空兵士に話し掛ける。
「妖精の城へ行き、妖精の女王を呼んではくれぬか?」
「は!承ります!」
 兵士の一人が頭を下げた。
「そして…伝えてくれ。『絵を持て』と」
「絵…でございますか?」
「そうだ、そう言えば判る。」
 兵士はもう一度頭を下げる。
「はい、かしこまりました!ただいま!」
 そうして出て行く兵士をみまもり、竜はにやりと笑う。おかしくて。楽しくて。そして… その自分すら運命の歯車に巻き込まれていくその感覚が、確かに力強くて。


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