世界が生きて見える。…そしてとても脆く見える。
 ふわふわと、気球で世界を巡る。
「まずはブランカから行きましょうか?」
 ラグの声に皆が答える。
 ゆっくりと、気球が北へと向く。空はどこまでも蒼く透き通っていて…奇跡でも起こせそうな空だった。
 ふわり、と気球がブランカの城の前に降り立った。
「着きましたよ。」
 ラグがそう言って気球を降りた。皆もそれに続く。
 城門をくぐる。一人は訳のわからぬまま、七人は…ただ、何かを希求しながら。
 ブランカの町は、いつもとかわりなく…いやすこし様変わりしていく魔物の様子にどこか脅えてる様子も あった。伝説が眠る町、それはとりもなおさず魔物の恐ろしさも伝説として残っているということでもあった。
 何の力もない一般市民は、何の力もないからこそ、どこか身体で感じているのだろう、『魔族の王』の 誕生が近いことを。
「…いそがないと…」
 ラグのあせる顔。つぶやき。それが七人にはとても痛かった。急がなければいけないことは判っている… とても、判っているのに。
「ここには何もないみたいね。じゃ次にいきましょうか。」
 マーニャに出来た事は、なんでもない顔をして、次の町へ行く事を促す事だった。

 それから皆は世界を巡った。『何か』を求めている七人に疑問を抱きながら、ラグはただ気球を動かした。…だが、 心はここにはなかった。心は、あの凶悪な城…そして、無残に死んでいった、父や母、たくさんの村人…そして シンシアのことをずっと考えていた。
 ラグの気持ちはあせっていた。…あせっても仕方がない、いやむしろ悪化する事も知っていた。だけど…
(もうすぐそこに…仇がいる)
 忘れられない、忘れることなんて、できない。…自分のために死んでいった、死ななければならなかった 大切な人たちを…忘れることなんて許されない。
 黒い炎は、今も胸で燃えている。
(…『勇者』にはふさわしく、ない心だよね…だけど、僕は…)
 ずっとそのためだけに生きてきたから…ピサロを討つ為だけに…ずっと、ずっと…


 だが、世界は動いた。
 山は色を変え…形を変えた。
 空は蒼から緋、紫…そして闇へと色を変えた。
 水は流れ…形を変えた。
 木は育ち、森は手を伸ばし…身体を広げた。
 大地は動き、海とともになり…少しずつその色を濃くした。
 太陽と月は空を飛び…時に形を変え…その時を彩った。
 世界は変わる。…心が彩りを持って変わっていくように。


 ラグの心が、七人にも伝わる。
 そして、それが七人の魂に警鐘を鳴らす。
 今、手に流れる汗の理由を、七人は知らない。
 だが、一心に祈る。一つ一つ、町を見るたびに。

 気球の中で落ちる日と昇る日を何度も見ながら、七人は今までの旅の軌跡をたどった。
 ボンモール、レイクナバ、砂漠の宿、アネイル、コナンベリー、ミントス、ソレッタ、キングレオ、 ハバリア、コーミズ、モンバーバラ、サントハイム、サラン、テンペ、フレノール、ホフマンの町、 海辺の村、スタンシアラ、バドランド、イムル、ガーデンブルグ、ロザリーヒル、リバーサイド… そこであったたくさんの人たち。そこで感じた、自分の心。…忘れない大切な思い出。
 守りたい…たった一つの世界が、そこにあった。

 なのに…なぜ、譲れない何かがあるなんて思うんだろう?
 どうして、この足でその世界を守りに行かないんだろう?
 答えは、ここにはない。
 答えは…魂の中に根付いているから。




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