「ゴッドサイドですね。…これで全部ですよね?」
 気球は世界の中央に降り立った。天を貫く白い塔の近く。小さな神聖な町の前に八人は立った。
「…そうだな。」
 ラグに答えたライアンの額には汗が流れていた。何かに追い立てられるように。
「…そうですね、他に村なんてなかったですからね」
 そっとクリフトは手を組んだ。…祈っていた。神ではない。不思議なことに あれほど神に敬虔なクリフトは今、神ではない何かに祈りを捧げていた。…そして それがなぜか当然のように思えた。
 皆が祈った。『何が』が。『誰か』のための何かが起こることを、ただひたすらに祈った。
 そして…ゴッドサイドに一歩足を踏み入れる。…そしてぼんやりとした、声がした。

「…聞こえます。…呼んで…いるわ。さあ、祭壇にいきましょう…。」
「ミネアさん?」
 ラグがぼんやりとした声の持ち主…ミネアを見た。
「…あら?私、今何か変な事言ったかしら?おかしいわ…」
 だが、ミネアはそう首をひねった。
「なんだか様子が変ね、めずらしくみんなソワソワしてるわ。」
 マーニャの言うとおりだった。静かで落ち着いた…町全体が教会のような雰囲気のゴッドサイド にあって、町の人たちがどこかざわざわしていた。
「なんでしょう?…まさか…また何か予言を?」
 最悪の考えが頭をよぎった。だが。
「いや、人々は脅えていると言うよりは困惑しているようだ。」
 ライアンがきっぱりと言った。そして…その顔はどこか、嬉しそうだった。
「祭壇の方で何かあったようですじゃ。とりあえず行ってはみぬか?」
 ブライの言葉にうなずき、ラグは祭壇の方へと向かった。
 祭壇の下では神官がざわついていた。トルネコが周りを見回す。
「めずらしいですね、町の人たちが揃いも揃ってざわめいているというのは。」
「どうかされたんですか?」
 クリフトが側にいた神官に話し掛けた。
「みんなざわついてるけど…?モンスターでも出たの?」
 アリーナの言葉にゆっくりと首を振り、神官は震える声で恐る恐る話しだした。
「あ、あれは…つい先日ことじゃ。 恐ろしい地響きがしたと思うたら、なんとあの上に…これは神のお力か魔物の仕業か…それはわしらにはには判らぬ… そして…この奥に何があり、この先、一体何が起こるかも…」
 そう言ったきり神官は黙り込んだ。八人は顔を見合わせ、そっと祭壇へと足を運んだ。


 そこには大きな亀裂があった。
「…これは…?」
 喉が渇く。…この亀裂は余りにも暗く、そしてあまりにも底知れない気配が感じられたからだ。
 邪悪と言うには余りにもまっすぐで、神聖と言うには余りにも明るい気配。
 誰かの喉がごくりとなる。そっとラグが皆へ問い掛けた。
「…皆さんがおっしゃっていた、『やらないといけない事』って…これのこと…ですか?」
 誰も答えはなかった。答えを、七人は知らなかったから。ラグも答えを望まなかった。ただ、ずっと その亀裂をみつめていた。
「…この奥は…一体どんな世界が待っているのだ…?」
 ライアンのためらいがちの声に、アリーナの明るい声が答えた。
「何でもいいわ、もっともっと強くなりたい。闇の世界でも天空の世界でもどこでもいいから早くいきましょう!」
 見るとアリーナは身体をうずうずさせていた。
「姫様!それではあまりにも短慮すぎますじゃ!…ふむ、かつて英雄 の名がつけられた洞窟に、全てを拒むと言う亀裂があったそうじゃが…」
 ミネアが亀裂の奥を指差した。
「…私達が求めていたのは…きっとこれですわ。…そんな気が、するのです…」
「ま、ここで眺めてても仕方ないわよね。」
 マーニャがため息をつく。トルネコがうなずいた。
「虎穴に入らずんば、虎子を得ずとも言います!時には冒険をすることも必要でしょう。」
「まったく…飛んで火に入る夏の虫じゃったらどうするんじゃ…」
 ぶつぶつと言いながらブライも覚悟を決めているらしい。
「皆さん…」
 その不思議な決意を秘めた七人をラグはただ見ていた。
「ラグさん、お気持ちはお察ししますが…私も、この亀裂の奥になにか大切なものがあるように思うのです。」
「ええ…」
 クリフトの言葉にラグは同意した。
「僕にはわからない何かを、皆さんが感じていたなら…それはきっと必要な事なんでしょう。…いきましょうか。」

 世界は動いた。星の軌道も。…それは人の心によって。
 不確かな確信。そんなものを抱いて、八人は亀裂へと足を運び、そして飛び込んだ。
 迫り来る暗い世界。その先に待っている運命を、ゆっくりと回しながら。


 復活です!どうもお待たせいたしました。そして第6章の始まりです。ラグ君は相変わらす弱気です。そして 他の七人も自分の魂に刻み込まれた「何か」を自覚していません。どうして自分達がその「何か」に駆り立てられるかも。 だけど七人はありえなかった未来と「同じ事を繰り返したくない」そんな気持ちのまま、あらたな世界へと 旅立ちます。(もっともこの小説でダンジョンは申し訳程度にしか出てこないので、次は鶏卵との決戦に なると思いますが…)
 蒼夢は目下、鶏卵をどう表現するか悩み中。そしてその先に開くものの表現も悩んでます。ですが、ゆっくりと 終りに向かい書いていけたらなと思っています。

 


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