「モンスター…?ではなさそうですね…」 「ええ、モンスターのような邪気を感じませんもの。」 クリフトとミネアが頷く先には奇妙な生き物たちが、2匹いた。 一匹は、卵型に手足を生やしたような生き物。もう一匹は屈強な男に鶏の羽を纏わしたようなもの。それは 一見モンスターにも見えたが、そうではないことは、クリフトとミネアが言った通り、モンスターにある邪な 気がないこと、そして。 「鶏は卵から生まれるんだ!だから卵の方が偉いに決まっている!」 「なにおう!卵は鶏が産むんだぞ!だから鶏の方が偉いに決まっている!」 「…あたし、なんか気が抜けてきたわ…」 とマーニャが言うような言い争いをずっとしているからである。 「私、卵はどっちかっていうとしっかり焼いたのの方が好みだわ。 でも鶏はゆっくりふっくら焼いたのの方がおいしいと思うのよ。」 アリーナがのんびりした言葉の横で、 「まさに鶏卵の言い争いじゃな。永遠に決着が付かぬ問題じゃからの」 「ひよこ…というわけにはいかないんでしょうね。」 ブライの言葉にトルネコも気が抜けたように言った。 「しかし…あやつら強いぞ。」 見るとライアンの額からは脂汗が出ていた。…強さのプレッシャーを肌で感じているのだ。 「あれが…神ならざる者…なんでしょうか…?」 ラグがそうつぶやいた時、その言葉が聞こえたかのように、その二人はこちらをむいた。 鶏の方が言った。 「おお、ちょうど良い所に来た。今鶏と卵のどちらが優れているか話し合っていたのだ。」 卵の方が、まけじと鶏の方を指差した。 「そうだ、卵は鶏よりもすばらしい事は、わかっているけれど、チキーラはわからずやで、全く理解してくれんのだ。」 それに負けまいと、鶏が卵を指差す。 「いや、もうちょっとで鶏の方が優れているとエッグラに証明してやれる所だったんだが、もう一つ押しがほしくて。」 それだけ言うともう一度にらみ合い、そしてラグたちの方を見た。 卵型をしたほうが言った。 「卵のほうが、いいよな?!」 その迫力に、ラグは押された。少しあとずさる。 「え、ええと…」 答える前に、今度は鶏の羽を纏った方が言った。 「鶏の方が、いいよな?!」 「あ、あの、僕は…」 二人に挟まれ、ラグはただうろたえ、他の人間も口出しできなかった。出来る空気ではなかった。もし仮に「くだらない」 とでも言おうものなら…そう思わせる空気がそこにはあった。 「むう、煮え切らないやつめ!それではゆで卵も作れんではないか!」 「ぬう、煮え切らないやつめ!それではチキンもゆでられんではないか!」 それまで争っていたのが嘘のように口をそろえて言うと、 「ええい、それでは力づくだ!」 と、同時にラグたちへと襲い掛かってきた。 二匹は、強かった。なまじ間抜けな外見や性格、戦闘理由なだけに気を抜いていたラグたちは、戦闘開始直後に 後悔をさせられた。 「油断しないで下さいね!」 フバーハをかけながらミネアが叫んだ。 「強いわ…。今まであった敵の中で、一番!」 アリーナがむしろ嬉しそうに言う。純粋に「戦う」ことが出来る―――それはアリーナにとって本願であり、原動力でもあった。 「そうですね、これも私達が強くなるための神が与えた試練かもしれませんね!」 クリフトがアリーナのその勢いに乗った。 「このような所に、こんな強敵が待ち受けていようとは…」 「まったく、世の中広いわね!!」 ライアンとマーニャが同時にエッグラに攻撃と魔法を加える。 「このような敵が居ては…また姫様がおしとやかになる日は遠のきそうじゃな…」 「そうですね!世界を行き尽くしたと思っていましたが、まだまだ不思議な世界がありそうです!」 ブライがトルネコの補助をかけ、トルネコはチキーラに足払いをかける。 そう言いながら全員の顔が、どこか楽しそうだった。もちろん戦いの中だ。攻撃を加える時は集中した顔になる。だが… ただモンスターと戦っている時とは違う、充実した顔をしていた。 そして、ラグがそれに気が付いた時、もう一つのことに気が付いて、ラグは驚いた。 ラグの顔も、戦いながら笑っていた。 旅に出てからただの一度も「戦い」が楽しいと思ったことはなかった。 剣を振るう。最初は、悲しみを怒りをぶつけ…今は哀しみや痛みをモンスターにぶつけている。 そしてラグは何よりも「生きる」ために戦っていた。 最初にモンスターと戦った時のことは覚えていない。ただ、ずっと怒りをぶつけていた事しか。 だんだんと、怒りが痛みになる頃には、血が手に付き顔に付き…自分が汚い事を、もう父さんや母さんやシンシアやみんなにと一緒に いた自分には戻れない事を感じ…そしてだんだんモンスターの息の根を止めることになれた自分が、 自分でも遠く感じていた。 ライアンたちに戦いを教えてもらっている時にも、それは明日の戦いへの準備でしかなかった。 だけど、今は違う。今はわけもわからない戦いで、相手にはなんの恨みも因縁もなく、全力で ぶつかれる相手で…なにより、むこうもこちらも戦う事がスポーツのように楽しそうなのである。 (そういえば…昔はそうだったかもしれない…) 遥か昔。まだ勇者なんて言葉も知らなかった頃。木刀を持たされて、まだ間もない頃。 厳しい稽古。だけど師匠もシンシアも、みんな笑いながら相手をしてくれて。 決して手加減はしてくれなかったけれど、自分の間違いを正すように剣を振るってくれた。 練習というより遊びのようだった。痛くて、勝てなくて悔しかった事もあったけれど、身体を 動かすのはとても心地よくて。明日の訓練が楽しかった事を覚えていた。 (ああ、僕は、殺すことは嫌いだけれど、戦闘は嫌いだけど。) 戦う事は、好きだったんだ。 書いてる自分でも意外なくらい、親子丼との戦闘はラグ君に何かを与えてくれたようです。ああ、なるほど、 こういう意味があったのか…なんて。この長い空白の期間に、ラグ君の中にも成長があったのかもしれません。 次回の展開はもう、お分かりですね。タイトルは決まっています。「奇跡の咲く樹」 花を見て、ラグは一体どういう反応を・・・そしてどんな結論を出すか。慎重に書いていきたいと思っています。
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