星の導くその先へ
 〜 奇跡の咲く樹 〜




  「ははははは!すっきりしたぞ!」
「うむ、久々に楽しかったぞ!では褒美をやろう」
「それは私が言おうとしたんだぞ」
 八人がそれぞれ全力を振り絞り戦い終え…チキーラとエッグラに降参をさせたその時、二人は笑い出した。
「あ、あの…?」
 ラグたちもへとへとで、ぼんやりと二人を呼び止めようとしたが、二人は聞いてはいなかった。
 チキーラとエッグラは後ろにある、大きな樹の絵に向かい、なにやら力を集め始めた。
「むむむむむ・・・」
「ぬぬぬぬぬ・・・」
 ゆっくりとチキーラとエッグラから力が発せられるのが感じられ、そして…
 ぽん、と音を立てるように、その樹に花が咲いた。
「まあ、綺麗…」
 ミネアが感嘆の声をあげる。その絵の花は、白く大きい、不思議な雰囲気を秘めていた。
「これでいい事が起こったはずだぞ」
「地上のめずらしい樹にめずらしい花が咲いたはずだぞ」
「は?じゃあ、ちょっとまって、これ、絵だけじゃないって事?」
 マーニャがとっさに声をあげるが、二人は全く聞いていないようだった。ただ、威張って言葉を続ける。
「にわとりと俺に感謝するように」
「それを言うなら卵と俺に感謝するように、だろ!」
 そして、またしても喧嘩をはじめた。アリーナが驚愕する。
「あれだけやって、まだあんなに動けるなんて…」
「あ、あの…いや、無理なようですな」
 トルネコが声をかけるが、耳に入れる気すらない様子に一同はあきらめをみせた。クリフトが 絵を見ながらつぶやく。
「…もしかして珍しい樹というのは…」
「これからどうしようか?ラグ殿?」
 ライアンがラグに声をかけた。すると、ラグが反応する前に、一休みしているらしいチキーラとエッグラが反応した。
「おお、お前達、帰るのか?」
「よし、じゃあ帰してやろう。」
 それだけ言うと、また二人は力を込め始め・・・
 気が付くと、二人の魔法力によって、八人は地上についていた。


「旅の扉よりきついわ、これ…」
「大丈夫ですか、姫様。余り急に動かれない方が…」
 頭を抑えたアリーナにクリフトがつきそい、その横では
「まったく…年寄りをあのような送り方するとは・・・」
 とブライが愚痴っていた。
「凄かったですわ。巨大な魔力の奔流…」
 ミネアがうっとりしているが、他の人間は少しうんざりとしていた。
「ラグ?これから、どうするの?」
 そんな中、ひたすら黙っていたラグに、マーニャが気安く…わざと軽い調子で声をかけた。
「…そうですね。…とりあえず…本当かどうか…見にいきましょう…」
 ラグは息も絶え絶えだった。それは戦闘が苦しかったわけでも、無理やり送られたからでもなかった。
 神ならざる者たちの後ろにかかっていた絵は素晴らしい絵だった。迫力をそなえた樹に咲いた神秘の花。 まるでにおいたつように美しかった。
 珍しい樹とは、多分世界樹の樹だろう。あの不思議な洞窟でエルフが言っていた言葉。
 ”地上にある世界樹の樹は千年に一度花を咲かせると言われています。世界樹の花は命の源。墓標にその花を供えれば きっと奇跡が起こるでしょう。”

 そう言ったラグの様子の理由を、皆は痛いほど知っていた。
 最初にエルフに言われた時に、吹っ切った事。だが、ちらりとその可能性を考えてみなかったわけじゃなかった。

   ”誰がために花は咲く?


「こちらが御所望の絵でございます。」
 男が布に包んだ絵を震える手でマスタードラゴンに差し出した。それから恐る恐る聞く。
「僭越ながら質問させて戴いてもかまいませんでしょうか?」
「かまわぬぞ。」
 言葉短かに促したマスタードラゴンを、息を飲みながら一度見据え、男は言う。
「…この絵は、どなたが使われる予定なのでしょうか?」
「私のつもりだが。」
 考えていた最悪の答えに、男の喉は鳴る。そして。
「…失礼を承知で申します。…それは無理です、マスタードラゴン様。」
「ほう、それは、何故だ?」
 そう言うマスタードラゴンの口調が、覚悟していたよりも冷たくないことだけが、男にとって唯一の救いだった。
「ご存知のとおり、この絵には求めるべき必要な過去へと、自分を繋げ、転移する事が出来るもの。それが出来るのは、神が そしてマスタードラゴン様が世界に『絶対』ではなく、柔軟を認められているからです。」
 世界は確かなものではない。魂だけとはいえ、時を遡り…未来をわずかに変えることが出来る柔軟さを持っている。
「そして世界は、自らが壊れぬよう、時間を遡っても、変えられた過去を 修復しようとする性質を持っています。」
 そう、世界は戻ろうとする。正そうとする。もしも、ラグの死が、世界にとって変えられない事ならば。 必要な事ならば、どれほどあがいても、道筋が変わるだけで結果は同じになってしまうのだ。
「また、世界が修復不可能な事柄は、どんなに転移されたものが 為そうとしても、それを行うことができません。だからこそ、この絵を描く事ができたのです。」
「…そうだな。」
「ですが…」
 天空兵士、そして妖精の女王が見守る中、男ははっきりと言った。
「貴方はこの世界に唯一無二でいて、絶対的な存在。…たとえ世界が、時間が柔軟性に富んでいようとも、貴方の 存在を二つ認めることになれば、この世界は崩壊し、この絵もまた、砕けてしまいます。」
  
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