「空気が違う…判ります。世界樹で何かがおきている。そう、とても大切な何かが…」
「樹をとりまく魔力が、いっそう深まっておりますじゃ…」
 山に囲まれて隠されたエルフの村。空を穿つ神聖なる樹を守る村。その世界樹のふもとに、八人はいた。
「すごいわ…なんだか、世界樹が前に見たときよりも生き生きしてるわ…」
「ええ、神聖な力を体全体に漲らせているのが、私にはわかります。」
 アリーナとクリフトが、目を見張り世界樹に見入っている。
「おや、なんだか良いにおいですな」
「そうねー。この様子なら花も期待できそうだわ!」
 清涼な匂いが、葉の上から漂ってくる。少し甘く、それでいてどこかすがすがしいにおい。
「やはり花が咲いているのだろうか…しかし私には花の種類なぞわからぬからな…」
「そうですね・・・とりあえず、上まで登ってみましょう。」
 ラグはいつもどおりに見えて、どこか上の空だった。

(本当に、花は咲いたんだ…)
 自分の心が判らなかった。どうすればいいのか。どうなって欲しいのか。どうするべきなのか。
 咲いて欲しかった気もするし、咲いていて欲しくないような気もする。
「千年に一度しかできない お花見なんて すごいわ! わたしたち 運がいいわね、ラグ!」
「ええ、そうですね。きっととても綺麗だと思いますよ。」
 今こうやって、皆と変わらない会話を交わそうとする自分。…期待を裏切りたくない。
 その「期待」は仲間からのであり、今まであった人たちからの期待であり、世界の期待でもあり。
 そして…育ててくれた父さんの、母さんの、シンシアの、みんなの期待でもあり。
(だけど、僕は…)
 僕ガ、今マデ、イキテキタノハ。

 ミネアが、小さな声でつぶやく。
「世界樹の花を、もし誰かの為に使うなら…難しい問題ですね…」
 その問題が、きっとこの旅の終着点だということは、誰もがわかっていた。


 生い茂る緑の館を登り、青空の下へと出た。
「なんて…すごい…」
 ミネアが、その力の反応して、涙をあふれさせる。
 すがすがしい、濃い匂い。生命があふるる空間。魔力があふれ、そして邪悪を退ける、その気配。
「見て、あそこ!!!」
 アリーナが指差したその先。
「綺麗…こんな綺麗な花、見たこともないわ…」
 大きな花弁。透ける様な薄紫の色が咲いていた。
「これが…奇跡を起こす花ですか…」
 その花は、とても美しかった。例えようもなく。
「確かにこの花には、奇跡を起こしてもおかしくない力が感じられますじゃ。」
 奇跡を信じるに値するほと、美しかった。

 ラグは、花へゆっくりと近づいた。
 とても芳しい香りが鼻腔いっぱいに広がる。
 ゆっくりと茎に手を伸ばした。
 …そしてその花は、『人』を狂わすには十分な美しさと、力を秘めていた。


 ラグは、その茎を引き千切り、空へと消えた。




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