「ラグ!?」
「ラグ殿!?」
「ラグさん!?」
 そう叫んだ時には、既にラグは空の向こうへと消えていた。
「ラグ…」
 ミネアはもう一度そうつぶやき、心配そうにラグが飛んだ空をみつめる。
 ラグがどこへ消えたか、どうして消えたかを、七人はわかっていた。

「…ラグさんには、その権利があります…」
 トルネコがそう言った。
「…そうね。お父様が死んでいたら…きっと私もそうしたと思うわ…」
「そうじゃな…」
「そうですね…」
 サントハイムの三人は口々に同意した。
「今のあたしは、今さらだって思うけど…あたしは自分で決めた事だしね…」
「お父さんのことも…今では納得していますわ。すこし未練はありますけど…お父さんは きっと喜ばないような気がします。」
 双子は空をみつめて言う。
「そう…だな。ラグ殿は傷を埋めることなく、世界のために尽くしておられた。…だが…」
 ライアンが顔を暗くする。
「あの村には、墓などなかったように思うのだが…」
 ただ一度見た、ラグの故郷。
 そこにあったのは、無残に踏みにじられた暖かな生活の残骸と、毒の沼地。戦いのあと。… 他には何も、墓さえもなかった。
「それに…あそこには人がいた、思念もありませんでした。…それでも奇跡は起こるのでしょうか?」
 ライアンとミネアの言葉に、クリフトが奇妙な声をあげた。
「そういえば…」
「なあに?クリフト?」
「お墓…ありませんでしたよね…?」
「そうじゃ、まったくおぬし、今何を聞いておった?」
 ブライの叱責に、クリフトは自信がなさげに言った。
「どうして、ラグさんはお墓を作られなかったのでしょう?大切な方の遺体をそのままにしておくような方では ないはずです。」
 全員がはっと息を飲む。
 荒らされた残骸。ミネアに感じられない死の…人の気配。作られなかったお墓。
 持ち去られた、花。
 あの場所に、いったい何があったのだろう?ラグが旅立ったその時、一体何が起こったのだろう?

 トルネコが思考する。
「…お墓がなくても…遺体がなくても、花って効く物なんでしょうか?」
「それを試したことのある者は…おそらくおらぬじゃろうて…」
 マーニャが頭を振って思考を切り替える。
「考えてもわかんないわ。考えてどうなるもんでもないしね。」
「姉さん…」
 きっぱりと言い放ったマーニャにミネアが弱弱しく声をかけた。
「なによ?ミネア?」
 ミネアは眼をそらしながら尋ねる。
「もしも…姉さんがあの花を使うなら、一体誰に使う?」
 全員が、ミネアを見た。
「な、何言ってるのよ。あたしは別にいらないわ。」
 うろたえながらマーニャが言うと、今度はミネアはアリーナに問うた。
「アリーナさん。…とても失礼な事を言いますけれど、もし故郷の方々が…みんなお亡くなりになられて、 あの花が使えるなら、たった一輪の花が使えるなら…アリーナさんは誰をお選びになります?」
「ミネアさん…?」
 ミネアは悲壮な…とても真剣な顔をしていた。
「ラグにとって、村の皆さんは家族同然だったはずですわ。大切な方とおっしゃっていたシンシアさん、お父様、お母様… もし使えても、その中からたった一人、たった一人を選ばないといけないのです。」

 忠誠を誓った主君。大切な戦友。共にたちむかった…親友。
 もし、城のみんなが…もしも父だけではない、ブライやクリフトも…みんなみんな死んでしまったら…
 もし、あの若い頃。花のように過ぎていった日々の中で、悲劇が起こったら。
 大切な人。大切な方。…想い人や主君。選ぶのは簡単かもしれない。だけれども…
 愛する、妻。愛する子供。両天秤にかけなければならない…
 ミネアにバルザック、死んでしまった父さん。
 お父さん、オーリン。…姉さん。
 その中でたった一人を選ばなければいけないとしたら?

 ミネアはうつむいた。
「こんな…こんな残酷な事って…ありますか?」


「はぁはぁはぁ…」
 激しく息をつく。
 ずっと来ていなかった故郷。
 自分たちを取り囲んでいた森。
 自分を排除しようとした、モンスターたちの爪あと。
 …何もかも、以前のままだった。


   世界樹の花のイベント。…経験された方も誰もが考えたと思います。イベント上、たった一人と 限定されているわけですけれど、もしも、ドラクエがマルチエンディングだとすれば。たった一人だけ 選べたとしたら…
 皆様は誰をお選びになりましたか?もし皆様ならば、どうしましたか?


   


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