空から美しい芳香がした。
「ラグ?」
「ラグさん?」
「ラグ殿?」
 全員が空を見上げる。空は既に黄昏を通り越し、暗い青紫をほのかに残すのみだった。
 そこから、緑の希望が降りてきた。
「ラグ!」
 まっさきに近寄ったのはマーニャだった。ラグの頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
「どうも、すみませんでした。僕は…」
「おかえりなさい、ラグ。」
 頭を下げたラグに、優しい声が降った。顔をあげる。ミネアが優しく笑っていた。
「おかえりなさい!ラグ!」
「よく帰られましたね、お疲れ様でした。」
 両手を広げて喜びを表現するアリーナと、その横で優しく笑うクリフト。
「ラグさん、おかえりなさい。おなかすいてませんか?もうすぐパンが焼けるんです、一緒にどうです?」
「ラグ殿、よく戻られたな。」
「長旅、お疲れじゃったな、ラグ殿。ささ、休まれよ」
 いつもの笑みを見せるトルネコ。いつでも大きなもので包んでくれる暖かい笑みのライアン。さりげなく 暖かいところを進めてくれるブライ。
「みなさん…」
「すごいですね。花はまだ生き生きしているようです。」
「ええ、トルネコさん。不思議なことですが、神の神秘でしょうか。」
「あたりまえじゃ、クリフト。世界樹の葉じゃって、いつもしおれたりせんじゃろうて。」
「まあ、とにかく賭けは勝ちね、アリーナ。」
「ずるいわ。マーニャさん。私だって勝ちよ?」
「あら、こういうのは早いもの勝ちなのよ。」
 楽しげに、何もなかったように話す仲間達に、ラグは問い掛ける。
「怒ってらっしゃらないんですか?…なにも…聞かないんですか?」
 ラグの方に、力強い手が置かれる。
「ラグ殿が、ここに帰ってきた、それだけで十分だ。」
 それは、全員の総意だった。それが感じ取れ、ラグは思わず、深く 深く頭を下げた。
 導かれし仲間が、この人たちでよかった。


 森の中の隠れ里が血で塗られていく様を、マスタードラゴンは見つけ続ける。
 それは過去の出来事である。一度は…みつめた光景でもあった。だが、その時と 自らの気持ちは随分違った。
 村人の最後の一人が倒れた。それは『勇者』の形をした物が地に伏せた時から、わずかな 時しかかからなかった。
 デスピサロの声が響く。これから勇者となるべきものは、今ごろ地下室で恐怖と不安と戦っているのだろう。 心を深く傷つけ、それは癒えない傷となっているのだろう。
 それはあるはずの未来まで、じわじわと蝕んでいく、深い病なのだ。
 マスタードラゴンは準備をした。
 一つの希望のために二つの魔法を使う準備を。


「僕は、結局ただの人間だと思ったんです。」
 ラグは静かに語りだした。
「奇跡の花を持ち逃げするなんて、『勇者』のすることじゃないですよね。だから…」
 ラグはまっすぐ丘を見た。
「魔物によって殺されてしまった人たちを、一人だけ生き返らせるより、 人間によってもたらされた間違いを正す義務があるって、僕は結局そう思ったんです。だって 僕は人間なんですから。人間の間違いは消えるわけじゃないですけど、それでも償ってから 僕は仇を、デスピサロを倒したいんです。…デスピサロのしたことは、決して消せないから。 たとえ、その花を使っても。」
 あまりにも、自分の気持ちと同じすぎて。
 それは、他の皆も同じように考えていたことだった。
「それで…よかったの?」
 それでも不安そうに言ったマーニャの問いかけに、ラグは笑う。
「思ったんです。きっと、誰を生き返らせても、怒られます。『お前は何をやってるんだ!』って。だから、きっと これが一番正しい事なんだって、そう思えたんです。」
 そう言うラグの顔は、晴れ晴れとしているように見えた。
「それじゃあ、行きましょうか。」
 全員がうなずく。エルフの村の中央にある、小高い丘へと向かう。
 そこには花が植えられ、その中央に、この村を見守るように小さな墓があった。


 やっと、花を使う人間が決まりました。でもまだ使ってないです。とろくてすみません。
 ちなみに私はプレイ中、まっさきにコーミズへ行きました。お墓があったので。もし山奥の 村にお墓があったなら真っ先に、山奥の村へ行ったと思います。だから、ラグにも行ってもらいました。 それも発作的に。
 次回、ロザリーさんが生き返ります。そこから一気にピサロ城となりますかどうか…ご期待ください。 ちなみにタイトルは「遥かなる森に光満ちる時」の予定です。

  


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