ミネアはため息をつく。
「どんどんと、魔のオーラが濃くなってますわね…」
 歩きながら、ロザリーは顔をゆがめていた。
「こんなに、こんなに変わってしまわれるなんて…」
 それでも、ロザリーは泣かなかった。泣くわけには行かなかった。
 ピサロを見るまでは、逢うまでは決して泣くわけにはいかなかった。
 そして、ピサロの気に近づくにつれ、どんどんラグは無口になっていった。
 見た瞬間、自分はどうするだろうか?憎しみに耐えられなくなるだろうか?それとも、 哀れに思うだろうか?…同情するのだろうか?
 唯一つ分かる事は、自分はデスピサロを倒す為に旅をしてきたのだと言う、その起源、 そして、後ろにいるロザリーはその起源に反しているということだけだった。

 魔に溢れた城を抜け、魔界の空が見えた。
 そしてその向こうには火山がある。何故だか確信できた。
 そして、ラグの後ろの七人には、この向こうにデスピサロがいる事を、なぜだか少しだけ懐かしいように さえ思えた。


「自らと、血がつながっていないのにか?」
 ”私達は、それまで時を無為に過ごしていました。”
 あの村に住んでいた者の多くは、何らかの事情によりその場にいられなくなって逃げ出してきた者たちだった。
 過去に脅えるだけの生活。
 そんな時、天から授かった赤子に、人々は生きる意志を与えられた。
 ”その赤子は、私達を頼みにしてくれた”
 ”私たちを見て笑ってくれた”
 ”それだけで、私達は十分でした。”
 事実、その子はとてもよい子に育った。産んでもいない神からの授かり者が誇りに思えるほど良い子で、その子と過ごした時は 輝いたような日々だった。
 その尊い死人達は語る。
 ”私達は幸せでした”
 ”思い出すだけで満ち足りた日々でした”
 ”悔いなど、何もありません。”
 すでに言葉を失った。もっとも偉大だと思っていた自身が、頭を下げたいほど、その魂はまぶしかった。
 勇者の父親だった者はそっとつぶやいた。
 ”ああ、でも、一つだけ気がかりがございます。”

 ”ラグは今、どうしているのでしょうか?”
 ”無事に、旅立てたのでしょうか?”
 ”頼みとできる仲間とめぐり合えるのでしょうか?”
 ”心が深く傷ついていないでしょうか?”
 ”強く、在れたでしょうか?”
 ”笑って、いるでしょうか?”
 ”『勇者』と、なれたでしょうか?”
「ああ、大丈夫だ。」
 自らに、涙がない事をマスタードラゴンは感謝していたかもしれない。
「ラグリュートは今、立派に戦いに挑んでいる。私が予想した以上に、ラグリュートは強くなった。心許せる 、…ラグリュートのために命をかける仲間もいる。今案ずる事は何もない。」
 ”私たちは、良い親で在れたでしょうか?”
 ”よい先生で在れたでしょうか?”
 ”よき、手本で在れたでしょうか?”
「…ああ…私は過去に、おぬしらにラグリュートを託した事を、誇りに思う。おぬし達は立派だった。」
 ”もったいない、お言葉でございます。”
 ”本当に、悔いはなくなりました。”
 ”死してなお、私たちがラグの役に立てる事、嬉しく思います。”
「始めても、かまわぬか?」
 全員がうなずいた。そっと、誰かがつぶやく。
 ”ラグが、幸せになれるよう、祈る事をお許し下さいますか?”
 ”やがて、心から笑えるようにと、願ってもかまいませんか?”
 ――――ずっと、ずっと祈りながら次の生命の元となる事を、お許しいただけますか?
「ああ、祈ってやってくれ。…もう二度と、魂が砕ける事のないように、祈ってやってくれ…」


 火山へと、九人は入る。
 そこに見えるは変わり果てた物。
 すでに魔族であることすら捨てたもの。心を捨て、力のみを求めた者。
 再び、邂逅の刻、来たる。
 奇跡の結末は、今、これから発揮される。
 たった一人の愛を、中心として…


 主役はロザリーではありません。ラグでも、ありません。少なくとも、私にとっては。
 久しぶりに書いて、なんだかものすごく2話を書いたときの気持ちが甦ってきました。本懐を果たしたあとだから より人間が出来てますね、村の人たちは。

 さて、次回はついに皆様期待のデッピー登場です!このままいっきに最後の城へなだれこみか?それとも なにか起こるのか?ラグ君の反応はいかに?

  


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