「ろ、ロザリー…」 理性が宿る声。その声に八人は我に帰った。 今のは幻を見ていたのではなかった。ロザリーの体験をそのまま追憶しているようだった。ロザリーの 足捌きや息遣い…その気持ちまでも全部伝わってきた。 「ピサロ様、あの時の私の気持ちと、貴方のお気持ちを思い出して下さい!貴方の 望みは、そんな事じゃなかったはずです!そして、私の…気持ちも…」 もう一度涙が落ちた。それはピサロの足先に当たり、ゆっくりと粉になった。 全てを見送り、マスタードラゴンはため息をつく。 全て揃ったかに見えた。だが。 「あと、一つ…」 肉体、力、魂。 このまま作り上げても、ただの肉人形にしかならない。そこに心が足りないから。 あてはあった。心の当ては。 「だが、それを手に入れる前に…砕けてしまわぬか…」 それもすべて「勇者」の手にかかっていた。 マスタードラゴンは、玉座でもう一度ため息をついた。 「そんな…」 ミネアが息を飲んだ。 ゆっくりと、ゆっくりとではあるが化け物じみたデスピサロの肉体にひびが入りだした。 「ピサロ様!」 ロザリーはピサロの足を抱きしめる。ひびの間からゆっくりと光が差し込みだし…いっきにはじけた。 「ピサロ様――――――――!!」 まぶしさに眼を伏せていたラグたちがゆっくりと眼をあけた。 「ロザリー…?」 「ピサロ様!ピサロ様!!」 ピサロはゆっくりとロザリーを抱きしめた。ロザリーはルビーの涙を流し続け、暖かい胸に縋りついた。 「ロザリー…ロザリーなのか?ならばここは死の国なのか?」 涙で言葉に出来ないロザリーの背中をそっとピサロは撫でた。 ラグたちは、複雑な表情でその様子をみつめていた。ピサロは人の情愛を知っているのだと、今ここに見せ付けられているのだから。 「いいえ、いいえ、私は生きています!ラグさんたちが…世界樹の力で私を生き返らせて下さいました…」 ぶんぶんと首をふるロザリーの顔をピサロはまじまじと眺める。ロザリーもピサロをみつめた。 逢いたかった人が今ここにいる。ずっと側にいて欲しいと願った人が。もう、それだけでいいような気がした。 (このまま私が御願いしたら…今度こそ、ピサロ様はずっと私の側にいてくださる…) そう思った。だけどロザリーはちらりとラグの方を見て…もう一度ピサロをみつめた。 できなかった、それだけは。自分がここにいるということは、あの方の犠牲があってこそなのだから。あの方の 犠牲に相応しい者になるために…私はここに、在るのだから。 「そして…私を攫ったのは、おそらく魔族に操られた人間だと思います、ピサロ様。なにか人間には出せない 魔気を私は、あの人間達に感じました。」 「世界樹の花…魔族に操られた人間…」 そうつぶやくと、初めてピサロはラグたちの方を見た。その目は不思議なほど、まっすぐな 光を秘めていた。 「人間たちよ、おもしろくはないがお前達に礼を言わねばならんようだな。 お前達はロザリーと私の命の恩人だ。素直に感謝しよう」 誰も、何も言わなかった。真意を測っていたのかもしれないし、ただ聞いていただけかもしれない。 誰も動かず、誰も言葉を返さなかった。 「人間こそ真の敵を長年思い込んでいたが、私は間違っていたのかもしれん …この心が定まるまで私はロザリーヒルに戻りロザリーと暮らすことにしようと思っている。」 ロザリーは驚いてピサロを見た。そんなロザリーにピサロは小さく微笑んで、話を続けた。 「しかし一つだけやる事が残っている。おそらく…ロザリーを死に追いやったのは… エビルプリーストだろう。エビルプリーストはおそらく生きて進化の秘法を試し、世界を支配しようと思っているはずだ。」 エビルプリースト。その言葉にラグの顔が変わる。 シンシアを討った直接的な原因。どうしても許せないもの。 「生きて…いたのか…」 確かに、討ったと思ったのに。殺したと。 「おそらく…影のようなものだったのじゃろうな…」 ブライがつぶやいたが、ラグは既に聞いてはいなかった。 「おぬしらは世界を守る為に旅をしているのだろうか、自らの部下の始末は自らで討たねばなるまい。 あいにくかもしれんが私も行く道は同じだ。礼に変え、しばし同行しよう。」 |
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