まっさきに動いたのはアリーナだった。
「やああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 アリーナは炎の爪を振りかざし、疾風のような速さでピサロへ襲い掛かった。
「ピサロ様!」
 ピサロはロザリーを突き飛ばし、アリーナを見据えた。
 アリーナの炎の爪は、ピサロの背後にあった、玉座に突き刺さる。
 ピサロには、当たってはいなかった。かすってもいない。ピサロの真横、すれすれの所にアリーナは 爪を突き刺した。
「お父さまを解放しなさい…」
 押し殺した声だった。
「サントハイム第一王女として、貴方に要求します!サントハイム城の、王家の人間を解放しなさい!!」
 今度は、威厳をもってはっきりと言った。
 それを聞き、クリフトとブライが後ろに控えた。もし拒否すれば三人で戦う事も辞さない覚悟だった。
「お前が、サントハイムの…」
「もし、貴方がそれを拒否するというのなら、私は貴方を攻撃します!」
「いいえ、姫。」
「我々、でございますぞ」
 既に二人は武器を構えていた。ピサロはそれにも、アリーナの爪にさえも脅える様子はなく、手の中から暗黒を秘めた球体を 取り出した。それをそっと空に放つ。
「サントハイム王は、これで城に戻っただろう。他の者もだ。闇の牢獄に入れる際、抵抗した者は知らぬが、それ以外は全員 生存してる。多少衰弱はしているだろうが、それもすぐ戻る。」
 かこん。軽い音を立ててアリーナは玉座から爪を引き抜いた。
「…私は、お父様がいなくなったときの恐怖を、きっと一生忘れる事はないわ。…それだけは覚えておいて。」
 本当は、このあとアリーナはピサロに向かって手を差し伸べたかった。
(私も武道大会に出たの、貴方と一緒に戦いたかったわ。今度、戦ってくれる?)
 そう聞きたかった。だが、それを抑えたのは、まだピサロにその権利がないからだ。アリーナはブライたちの方へきびすを 返した。

「ご立派でございましたぞ。王もご無事でしたし。」
 ブライが感涙している横で、クリフトはこっそりとアリーナにささやいた。
「ですが姫、あれでよろしかったのですか?」
 そういうクリフトの顔を良く見ると、すこし心配げで、それでいて…すこしだけ茶目っ気のある顔をしていた。
「いいのよ、あれで。だって…」
 つかつかつか。
 そういうアリーナたちの横を、マーニャは静かに通った。

 そうして、ピサロの真正面に立ち。
 ぱし!
「きゃあ!」
 ロザリーが悲鳴をあげた。マーニャは、ピサロの頬を平手で打ったのだ。
「これが、父さんの分よ!」
 ぱし!
「これが、キングレオ王の分!」
 ぱし!
「これが、あのバカ王子の分!」
 ぱしぱし!
「これが心配した村の人たちの分!!」
 ぱしぱし!
「これが、進化の秘法の実験台になった子達の分!」
 ぱし!!
「これが、バルザックの分!!!!」
 ぱし!
「これが、ロザリーの分!」
「なにを…?」
 大人しく打たれていたピサロだが、予想外の言葉を聞いて戸惑った。
 そしてその間に、マーニャは持っていた道具袋からすばやく鉄の扇を取り出し、握り締めた。
「そしてこれが!」
 閉じたままの鉄の扇を振りかざす。
「あたしの分よ!!!」
 ばし――――――ん!!
 強靭なピサロにも、これは少しは効いたようだった。

「感謝するわね、姉さん。」
 気が付くと、静かにミネアが側にきていた。
「私とオーリンの分を残しておいてくれて。」
 そして、手を振り上げる。
 ぱしぱし!
「お父さんやオーリンや…バルザックの味わった痛みはこんなものではなかったですわ。感謝してください、 この程度で済ませることを。」
「父さんもバルザックも、帰ってこない。だからその痛みを覚えていて。その数倍味わったあたしたちの、心の いたみもね…」


 トルネコは、それを見届けていた。もちろん言いたい事はあった。だが、あの異形に変えられたこと、一度は 愛する人を奪われたこと。そして今の女性たちの行動により、少なくとも自分が言う事はないし、言う権利も ないと考えた。
 ライアンも横で見ていた。友人の死。それは未だに忘れない。だが、友人は武人だった。兵士の使命を果たさんとして 死したのだ。それはおそらく、未熟だったからだと、今なら冷静に思える。そして、それに同情される事を あの友が望んでいない事も、…それを別の誰かにぶつける事が間違いだとわかっていた。

 おそらく、ピサロを真に裁けるのは唯一人。全員がその人に眼を向ける。
 ――――ラグは、今までの仲間の行動を微動せず見続けていた。
 そして。
「いきましょうか、エビルプリーストを倒しに。」
 それだけを細く言うと、洞窟を出て行った。
 人の姿になったピサロの姿を、まともに見ようともせずに。


 ピサロが仲間になりました。とりあえず仲間たちは自分の心のままに恨みを晴らしたようです。

 ラグがピサロを見てどう思ったかは、次回でてくる予定です。
 さて、終りに近づいてまいりました。あと…3回か、4回と言ったところでしょうか。多分。頭の中ではどうなるか 考えてはいますが…実際書いてみないとわかりません。
 残り少なくなりましたが、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

  


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