女性は、いつだって強い。
 だけど、強いのと平気なのはまた別だ。
(辛かったんだろうな…)
 自分のために死ぬ事を、シンシアは果たしてどんな気持ちをもって覚悟したんだろうか?
 それはとても、苦しい事だったのではないのだろうか?
(だけど、シンシアは笑ってた…哀しそうな声を出しながら笑っていた…)
 ちらりと、ピサロを見た。ロザリーをいたわる視線が、妙にラグの気に触る。
 ピサロが自分と同じ立場だから仕方がないと思ってしまいそうなその心が、ラグの気に触る。

 魔族にとって、既にデスピサロは亡き者とされていたらしい。だからこそ、魔物はピサロを 見ても『偽物』だと認識をして襲ってきたらしい。だが、中には
「で、デスピサロ様でいらっしゃいますか?」
 牢屋に閉じ込められているモンスターが、小声で話し掛けてきた。目には涙さえ浮かべている。
「ああ、どうしてお前がこんな所に?」
「デスピサロ様が城にこもられたあと、かのエビルプリーストめが『デスピサロは死んだ、私が真の王者である』 と言いまして…反対を唱えた者はこのように牢屋に閉じ込められ…処刑された者もおりました。」
「そうか…やはりか…」
「ですが…デスピサロ様は帰っていらっしゃいました!これで魔族も安泰です!!!」
「…いや。」
 魔族の言葉に少しの間のあと、首を振った。
「人類の滅亡や強くなる事へのこだわりを私は捨てようと思っている。その様な事を考えたからこそ、エビルプリーストのような 者を生み出したのだ。我軍は、解散しようと思っている。」
「そんな!」
 詰め寄る魔族にピサロは声をかける。
「苦労をかけた。だが、軍を解散する前に、裏切り者の処分をしてくる。お前達の犠牲を 無にはしない。エビルプリーストは玉座の間だな?」
「デスピサロ様の意思だというのでしたら意は唱えません…ですが、ならばロザリー様のご無念はどうなさいます!!!」
「ロザリーならここにいる。」
 デスピサロの横に立ったロザリーがはにかみながら礼をしてみせる。
「ああ…ご無事でいらしたのなら…ようございました…」
 モンスターはただ泣きぬれていた。
「もうしばらくの辛抱だ。我慢してくれるな?」
「ええ、デスピサロ様の今までの苦難に比べたら、こんなものなんでもなりません!エビルプリーストは 既に自らを進化の秘法に染めております。お気をつけて!」

「やはり魔物も人間の忠誠となんら変わりないのだな…」
「『人間』を憎む魔物が間違ってるなら、『魔物』を憎む人間もきっと間違ってるんでしょうね。」
 ライアンとマーニャがため息をついた。
「…けど、何かを失われた人間が、その魔物を恨むのは…仕方ないと思うわ。」
「…そうですね。結局は、誰かのために戦うのでしょうね。心をもった者は…」
 アリーナに言葉を返しながら、クリフトはそっとアリーナをみつめる。

 迷いが、消えない。ピサロを、討ちたいという気持ちと、討つのは間違っているのではないかと言う気持ちが。
(あんな事が、どんな事情があっても許されるわけがない)
(ピサロは僕と同じ。自分の大切な人を守りたかっただけなんだ。)
(モンスターも、人間も変わらない…大切なものをなくしたら、とても心が痛い…今の 僕のように)
 心をもったピサロを見るのが辛かった。楽しそうに笑うロザリーを見るのが辛かった。
 だが、二階に近づくにつれ、迷いは消えた。
(今は、前を向こう。)
 とても、とても嫌な気だった。かつて、初めて怒りを覚えた相手。気を感じる事が苦手な ラグにもその気が感じられる。
 ラグは走る。例えわずかな時間でも、『あれ』が生きてる事が耐えられなかった。
 七人は迷わずラグを追いかけた。仲間達にも感じた。エビルプリーストの気が、より強大に なっていることを。そして、醜悪になっていることを。


 

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